アーロンから見初められる可能性なんて、ほぼないと言って良い。

 何を期待しているのだろう……一目惚れ? 私のことが好きだから?

 そんなことが、あるはずもない。だって、私たちは会ったこともないのに。

 こんなにも優しく見えるアーロンだって、私を利用したいと考えていると知るのが怖いから?

 ……わからない。心の中を渦巻くモヤモヤを解決するには、彼に直接聞くしかない。

 私は夫とのお茶を終えて部屋に戻ろうとしたけれど、やっぱり彼に聞こうと思い直し、部屋へ戻る廊下を引き返した。

「……奥様に全て、お話しするべきでは?」

「ブランシュからの希望でなければ、俺は動けない」

 テラスにはアーロンとクウェンティンの二人が残り、何か話しているようだ。クウェンティン以外人払いをしているのか、その他の使用人たちの姿は見えない。

「我が邸の来客リスト、ブランシュの先ほどの不自然な沈黙、俺には知られてはいけないと強く思うならば、十中八九あんな大怪我になるほどに手を鞭で打ったのはエタンセル伯爵夫人だろう」