夕方になって涼しくなったので、小さなアミを抱っこひもに入れ、駅前のスーパーを目指す。アミは小さくて丸い鼻をひくひくさせている。
「夏のにおいがするな。アミ」

日に焼けたアスファルトと庭木のにおい。冷やし中華らしき麺を茹でるにおい。打ち水のにおい。茜色に染まる入道雲。水色の空に浮かぶいちばん星。
「きれいだ」

きれいなものをきれいだ、と言える相手がいる。聞いてくれる誰かがいる。いっしょに見てくれる誰かがいる。
獣医の先生によると、アミは少し色がわかるようだ。どれくらいわかっているのかは不明だけど、
「きれいだね、アミ」
アミの目にも茜色が映っている。キラキラしている。
(幼い頃に戻って夏の始まりを純粋に楽しみたい。アミと)

今日は冷やし中華を買おう。アミのためにささみも茹でよう。