◆   ◆   ◆

「あのね、■な■。さっき、母さまの容体が思わしくないって言われたの」

 顔を俯けた彼女は消えるような声色で告げる。彼は同様に「そうか」とようやく絞り出した。
 母親が死を迎えようとしている傍らで、ただ指を|咥えて見ているしかない状況なのだ。年端もいかぬ子どもの精神状態が追いつくわけがない。

「それって母さまが、死んじゃうってこと、でしょう?」

 その涙声にビクリと顔を上げる。そのとき真正面にした彼女に、彼は不謹慎ながらも一瞬にして心を奪われた。

 宝石のような深い色の双眸から、透きとおった水晶のような涙粒が次から次から溢れゆく。
 ポロポロと転がり、かすかな光をチラチラとそれぞれが反射している。
 同様に、泣いている彼女も絵画のように美しい。
 自身と同じ一一歳とは思えぬほど繊細で、しかし赤子よりも無垢で、大人びた色香すら薫るようで――。

「もうわかんない。母さまがいなくなったら、わたし……」

 悲しみに暮れ希望を失っている姿であるのに、なぜだか「そのまま泣いていてほしい」と自身の感情が歪むのがわかった。

「■■」

 彼女をそっと包むように抱き締める。背丈はほぼ同じ、体格も然程変わらない。しかし、彼はわずかに彼女よりも大人な心を持っていた。

「ぼくで力になれることはなんでもする。だから一緒に乗り越えよう。ぼくはいつだって■■の傍に居るよ。苦しいときも、悲しいときも、絶対に■■の傍に居る」

 彼女赤くなった鼻を啜り、恐る恐る彼の背に腕を回した。彼が更に腕に力を込めると、彼女は|縋るようにその肩へ顔を埋め、力なく「うん」とひとつ頷いた。

   ◆   ◆   ◆