清華国の西に位置する港近くの港街である此処、水蓮の都は貿易が盛んである為、朝から夜にかけて他国から行き来する沢山の商人が出入りする場所でもあった。
 
「はぁ…… 暑いですね」

 青緑の髪の青年は足を止め、晴れた空を見上げてから眩しそうに日の光を左手で遮るように翳しながら一人呟く。

「リタ~! おはようー!」

 雲一つない晴れた空の下、聞き慣れた明るい声がリタの耳に届き、リタは声のした方に顔を向ける。

「ユウさん、朝から元気ですね」
「はは、そうか? あ、そうだ! 母さんからリタに渡してくれって頼まれてたんだ」
「そうなんですね」
「ああ、えっと、あ、あった、これ!」

 ユウが左肩にかけていた鞄の中から四角い小さな白い箱を取り出し手渡してくる。

 ユウから手渡された白い箱をリタが受け取り箱の蓋を開くと、そこには自分の瞳と同じリーフグリーン色のビーズで作られた腕輪があった。

 リタが「これは?」とユウに問い掛けるとユウはニカっと明るい笑みを浮かべて口を開く。

「これ母さんの手作りなんだ。俺がお願いして作って母さんに作って貰ったんだ。お揃いの腕輪!」
「私の瞳の色と同じ色ですね」
「ああ、そうそう。リタのリーフグリーンの瞳の色と同じ色にして貰った」
「そうなんですね、ありがとうございます! 嬉しいです、大切にしますね」

 リタは嬉しそうに腕輪の入った白い箱を自身の黒いパーカーのポケットに入れる。
 ユウはそんなリタを見てニコニコしながら話しを続ける。

「ああ、なぁ、リタ、お前はいつか此処を出て行っちゃうのか……?」
「え……?」
「あー、いや、こないだお前がそういう話しを母さんと話してるのをたまたまその、聞いちゃってな……」

 ユウは申し訳なさそうにそう言ってから、真剣な顔でリタを見つめてくる。

「あ、そうだったんですね。まだいつになるかわかりませんが、いつか出たいとは思ってますよ」
「そうなんだな! そっか、まあ、リタがいなくなったら少し寂しくなるが、此処を出る時はちゃんと言ってくれよ。俺達、幼馴染なんだからな!」
「はい、勿論言いますよ!」

 その日の会話を最後にユウとユウの家族は私の前から姿を消した。

 後から聞いた話しによるとユウは当時、悪い噂として知れていた人攫いに捕まり、行方知れずになってしまったらしい。

 ユウの両親は大切な一人息子が突如、居なくなってしまった悲痛感からかこの港街から出て行ったと言う。

「私より先にこの場所から居なくなるなんて、思いもしなかったですよ……」

 そう一人呟いたリタの悲しげに歪んだ顔は夜空に浮かぶ月明かりによって照らされていた。

✳︎


 数年後。
 22歳となった私はセナ達と出会いを果たした。
 
「リタ~、夕飯の準備手伝ってくれる?」
「あ、いいですよ」

 私は旅の仲間であるリクスに声を掛けられて、夕飯の手伝いをすることになった。

「リタは料理したことあるの?」
「ありますよ」
「そうなんだね! じゃあ、この調味料をその鍋に入れてくれる?」
「わかりました」

 リクスに指差された袋に入った調味料を手に取ったリタは袋を開けて、焚き火で温めている最中の具材が入った鍋の中に入れ込む。
 
「ねえ、リタ、俺さ皆んなと出会えて、こうして一緒に旅をしている今が一番幸せだなって思う時があるんだよね」

 紙皿を手際良く用意しながらそう呟いたリクスにリタは「そうですね」と相槌を打ってから話し始める。

「私もセナ達に出会えて良かったって心から思う時があります。けどそれは私以外の全員が思っていることかもしれませんね」
「そうだね」

 茜色の空の下。
 リタは今こうして大切だと思う者達と出会えたことに改めて感謝しながら、そんな大切だと思う仲間達と夜を迎えようとしていた。