桜花村(おうかむら)は天蘭王国の西に位置する村だ。
 比較的治安は良い方であるが、極々たまに悪そうな連中も訪れたりする。
 シウはそんなこの村で生まれ育った。

「父さん、母さんの病気は治らないの……?」
「今のところは治るからわからない。薬は飲んでいるんだが、そう簡単に治る病気じゃないんだ……」

そう言った父さんは凄く辛そうな顔をしていた。
 俺はそんな父さんの顔を見て母さんの病気は治らないのだと悟った。

 俺は商人である父さんと村での美人として名の知れていた母さんとの間に生まれた一人息子。
 一人息子であるからか、父さんと母さんは俺をとても大切に育ててくれた。
 
 ずっと父さんと母さんと3人で一緒にいたい。
 まだ幼かった俺はそう強く思っていた。
 しかし、母さんの体調は俺が歳を重ねるにつれて、かなり悪くなっていった。

 俺はそんな母さんのことを心配していた為、
友達からの遊びの誘いも断り、父親が仕事で出掛けている間は俺が母さんの世話をしていたが、俺が15歳を迎えた誕生日の日に恐れていたことが起こった。

「父さん……! 母さん、息をしてないんだ!」
「なんだと……!?」

母さんが息をしていないことに気付いた俺はキッチンにいた父さんの元へ行き、平静を失くした声でそう述べた。

 父さんはベットで息を引き取った母さんの元に歩み寄るなり、力なくその場に座り込み泣き出す。

 いつも弱さを見せない明るい父さんが、子供のように辛そうな声で泣く姿を見て、俺は胸が締め付けられた。
 
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 母さんが亡くなった春。
 4月14日から7年の時が経ち、俺は22歳となり、大人だと言える歳になった。

「父さんは暫く帰って来ないか……」
 
 母さんが亡くなってから父さんは仕事に明け暮れる毎日を送り始めた。

 父さんが家にいない日が多くなり、俺は一人で日々を過ごすことが日常となっていった。

 巡り行く季節の中で、俺は自身の中にある寂しさに気付かない振りをした。
 寂しいという気持ちを自覚してしまったら心が強く保てそうになかったからだ。

「明日は母さんが亡くなった日か……」

 桜の花びらがひらひらと舞い落ちる季節に母さんは命を落とした。 

 明日は父さんも帰ってくるはずである。
 シウはそう思いながらリビングの窓から見える雲一つない晴れた空を見上げた。

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 穏やかな日の光に照らされながらセナ達は紅蘭国の西にある森の中を歩いていた。

「ルイア、大丈夫か?」
「え、ああ、すまん。少しぼーっとしていた」

 真横を歩いていたルソンが自分(ルイア)に話しかけていた声がぼーっとしていて聞こえていなかったのを心配したルソンはルイアの顔を覗き込むように見て声をかけてくる。

「大丈夫からいいんだが。体調悪かったら遠慮せず言えよ」
「ああ、わかった」

 母さんがいなくなってから俺はずっと心の何処かで寂しさを感じていたのかもしれない。

 今こうしてセナ達と共に一緒いられて、家族のような温かさを感じさせてくれる大切な人達の側にこれからも共にいたいとルイアは心の中で強く思ったのであった。