シウを仲間に加えたセナ達がシウの家から発ってから四日が経ち。
 セナ達は紅蘭国の東に位置する初夏の暖かな空気に包まれた森の中を歩きながら他愛のない会話をしていた。

「あー、ふかふかのベットで寝たい」
「そうよね。私もふかふかのベットで寝たいわ。月明の都に到着した日は宿屋に泊まりましょう」
「そうですね」

 シウがいた 紅蘭国(こうらんこく)の南に位置する森をセナ達が後にしたその日の夜。
 シウの出した候補の中から次の目的地が決まった。
 セナ達が向かう次の目的地は桜花村。天蘭王国の西に位置する場所である。

「気になったんだが、野宿していて、熊とか出たりはしなかったのか?」
「熊ね~、一回出たよね」
「ええ、出たわね。でも、何とか大丈夫だったわよね」
「そうだね……!」
「あの時は、本当、ヒヤヒヤしましたよ」



 紅蘭国の東に位置する夜の静かな森の中、月明かりに照らされた黄色のテントが一つ佇んでいた。

「父上……!?」

 テントの中でセナは悪魔にうなされていた。
その日の夜セナは夢を見た。

 自分の父親だと思っていたルク王と名乗るソレザという人物が、自分の本当の父親を殺す夢。

「ちち……うえ…… やめ、て…… 殺さないで……い……いや」

 見慣れた玉座の間に座る父親であるルクの胸にルクと瓜二つの顔をしたソレザは剣を突き刺す。妙に現実味がある夢にセナは怖くなる。

「姫さま?」
「うなされてるな」

 テントの外で見張りをしていたルソンとシウはテントから漏れるセナのうなされた声に気付きセナが眠っているであろうテントに目を向ける。

「ああ、シウ、ちょっと姫さま見てくるから、見張り任せていいか?」
「大丈夫だ。行ってこい」

 ルソンはシウに見張りを任せて、セナとリクスが眠るテントの中に静かに入る。

「姫さま……?」

 テントの中に入れば、セナの呼吸は少し荒く額には少し汗が滲んでいた。
 ルソンはセナが眠っている真横に腰を下ろしてセナの頭を優しく撫でる。

「大丈夫ですよ、姫さん」

 ルソンがセナの髪を撫でていると少し荒かったセナの呼吸が落ち着きを取り戻し、寝息はすー、すーと穏やかなものに変わる。

「よかった…… 落ち着いてきたみたいだ」



 朝の澄んだ空気の中、セナとリクスはルソンとシウが眠るテントに入り声を掛ける。

「ルソン、シウー、起きて!」
「二人とも、そろそろお昼になるわよ!」

 セナとリクスの声にテントの中で熟睡していたルソンとシウはうっすらと目を開けて、テントに入ってきたセナとリクスを見る。

「んん……姫さま……?」
「もう……昼になるのか……まだ寝ていたい……」
「わかるぞ……」

 ルソンとシウは朝まで見張りをしていたせいもあり、かなり眠いようである。
 セナとリクスはそんなルソンとシウを見ながら口を開く。

「まあ、そうよね。朝まで一睡もせず、見張りをしてくれていたものね」
「そうだね。もう少し寝かしておく?」
「そうね、そうしましょうか」
「申し訳ないな、ありがとう…… リクス、姫さま」
「セナ、リクス、ありがとうな。おやすみ……」

 ルソンとシウは再び眠りにつく為、目を閉じる。セナとリクスはそんな二人がいるテントから出て朝食の準備をし始める。

「先に食べてよう! もう、お腹空いたよ」
「そうね、そうしましょう」



 昼過ぎ頃にルソンとシウは目が覚めてテントの中から出てきて、リクスが作ったご飯を食べ始める。

「これ、リクスが作ったのか? 凄く美味しいな」
「リクス、料理上手だなぁ…」
 
 ルソンとシウはリクスが作ったであろう野菜炒めと味噌汁、炒飯も食べながら、リクスの作った料理を褒める。
 そんな二人から褒められたリクスは少し照れながらも嬉しそうな顔をする。

「ありがとう。そう言ってもらえると一生懸命作った甲斐があるよ!」

 セナはそんなリクスとルソンとシウを見ながら、優しい笑みを浮かべて目の前にいる旅の仲間である三人に告げる。

「食べ終わったら出発するわよ」

 セナの通った声にルソン、リクス、シウの三人は頷き返した。



 紅蘭国の東に位置する森を再び歩き始めたセナ達は暖かな陽の光に照らされながら他愛のない会話をしていた。

「明日くらいには森を抜けられそうだな」
「そうね~」

 ルソンとセナの会話に続くようにリクスは話し始める。

「天蘭王国を出てから今に至るまで、めっちゃ歩いてるよね」
「そうなのか?」

 リクスの言葉に反応したシウは目の前を歩くルソンに問い掛ける。

「ああ、まあな」

 時折、吹く心地良い風が夏を感じさせる中、セナ達は次の目的地である桜花村へと歩みを進めていた。

桜花村(おうかむら)着いたら、宿でゆっくり休めるわよ」
「そうだね!」



 紅蘭国の東に位置する夜の森の中。
 セナ達は夕食を食べながら、天命の盾である者達のことをシウから聞いていた。

「天命の盾である者達って、4人いるのね」
「ああ、俺は自分以外の過去の記憶を書き換えたり、過去を見ることが出来る天命の力を持っている」
「へぇ、凄いんだな!」

 ルソンは天命の盾の話しを興味深そうに聞きながら、天命の盾であるシウが持つ力に感心する。

 シウ以外の天命の盾の内の一人目は者は不老不死の身体を持ち、相手に幻聴、幻を見せる力。がある。

 二人目は一人は人の心を読み、相手の行動や、心意を予知する天命の力を持つ者。

 そして三人目は、風、炎、大地、空、自然のあらゆる物を操ることが出来る天命の力を持つ者だ。

 シウから天命の盾である者達の力を聞き終えたセナは気になったことをシウに問い掛ける。

「シウ以外の三人も初代国王に仕えていたのよね?」
「ああ、そうだ。だが、初代国王に仕えていた天命の盾である者達は、今の天命の盾である者達それぞれの祖先に当たる。だから今、天命の盾である俺達が、初代国王に仕えていた訳ではないな」
「なるほどなぁ……」

 天命の盾である者達のはっきりとした居場所はわかってはいないが、もしかしたらいるかもしれないという場所の目星はついていた。

「見つけるのに苦労しそうだけど、出来る限り協力するよ」
「ええ、ありがとう。シウ」



 紅蘭国の東に位置する夜の森。
 リクスとシウがテントの中で眠る中、夕食の片付けを終えたセナとルソンは地面に置いたシートの上に腰を下ろして、心地良い夜風によって赤くゆらゆらと揺れる焚き火の火を見つめていた。

「ねえ、ルソン」
「はい! 何でしょう? 姫さま」
「城を出てから大分経ったわね」
「そうですね。大分経ちましたね」

 ルソンとセナが王城を出てから4ヶ月半少しが経ったのだ。
 セナは今に至るまで色々な出会いや別れがあったなとしみじみ感じていた。

「ええ、城の外に出てから時間が経つのがとても早く感じるわ」
「そうですね、同感です」

 セナは真横に座るルソンを見て『ええ、』と返し優しい笑みを浮かべた後、夜の空を見上げる為、顔を上に向ける。

「それにしても綺麗な夜空ね」
「ですね~!」

 夜空に瞬く星々がセナとルソンの瞳に映り込む。
 天蘭王国の王城の中から見た夜空と城の外に出て見た夜空がセナには少し違って見えた。



 うららかな昼過ぎ。
 セナ達は紅蘭国の東に位置する森の中を歩いていた。

「シウは、他の天命の盾である者達に会ったことはあるの?」

 セナの問いにシウは首を横に振る。

「会ったことはないな。でも、どんな能力を持っているのかは知っている」
「じゃあ、シウもどんな人なのかがわからないのね」
「まあ、そうだな」



 紅蘭国。
  東に位置する森を抜けたセナ達は夕方頃、天蘭王国の南に位置する月明(げつめい)(みやこ)に辿り着く。
 もう夕方ということもあり、セナ達は月明の都にある宿屋に泊まることになった。

「久しぶりのベットだわ!」
「あー、凄い、ふかふかだよ~!」 

 セナとリクスは宿屋の部屋に入るなり、白いベットの上に飛び込むようにして倒れ込む。

「今日はゆっくり眠れそうだわ」
「そうだね~、セナ」

 ルソンはそんなセナとリクスを見ながら、ベットの上にうつ伏せで倒れ込んでいるセナに声を掛ける。

「しかし姫さん、俺達と同室でよかったのか?」
「ええ、大丈夫よ!」
「それならいいんだが」

 宿屋の部屋が一部屋しか空いていなかった為、セナはルソン達、男組と同じ部屋になってしまった訳である。

 セナはあんまり気にしていないのか、また気付いていないのかベットが二つしかないことに触れてこない。

 ルソンはベット二つしかないけどどうするんだ?と思いながら悶々としていた。
 そんなルソンが気にしていたことを真横に立つシウが口にする。

「けど、ベット二つしかないから、一つのベットに二人で寝ることになるな」
「そうね、どうしようかしら」
「じゃあ、俺が姫さんと一緒に寝ます」

 ルソンは例え、シウやリクスにその気がなくても自分以外の異性が姫様と同じベットで一緒に眠るなんて許容できないという気持ちから普段はあまり言わないようなことを口走ってしまう。

 そんなルソンの発言にシウとリクスはオーバーなリアクションを取る。

「えー、それはちょっと良くないと思うなぁ~」
「確かになぁ、俺も良くないと思うぞ~」
「なんでだよ!?」

そんなルソンとシウ、リクスの会話をベットの上にうつ伏せて寝転がりながら聞いていたセナはベットの真横に立つルソンとシウの方を見て告げる。

「私は別に、ルソンと一緒のベットでもいいわよ」

 セナの言葉にリクスは少し驚いた顔で真横のベットにいるセナを見る。

「え、いいの?」
「ええ、」
「んー、でも、ちょっと心配だから、ルソンは俺と一緒に寝るのでいいか?」
「シウが何を心配してるのかわからないけれど、それでいいわよ」

 そんなセナを隣のベットで横になりながら見ていたリクスはベット近くに立つルソンをちらっと見てから口を開く。

「セナってさ、ルソンのこと全然意識してないよね。男として」
「そうね、小さい頃からの付き合いだから、もう家族みたいな感じなのよね」
「へぇー、俺、家族みたいな感じに思われてたんですね。なんですかね、今、嬉しい気持ちとそうじゃない気持ちが俺の中で混ざり合っていますよ」

 複雑そうな顔を浮かべているルソンを横目に見ていたシウは何かを思いついたようにルソンの肩を抱き寄せて耳元で囁く。

「まあまあ、ルソンは俺と抱き合って寝ような?」
「うわっ、シウ、いきなり耳元で囁くな! 抱き合って寝るなんてお断りだ。絶対嫌だからな」
「そんなはっきり断られるとちょっと傷つくな……」

 そんな二人の会話を聞いていたセナとリクスは可笑しそうに笑う。
 リクスは隣のベットにいるセナに明るい声で告げた。

「じゃあ、セナは俺と一緒に寝よう!」
「ええ!」

 一緒に寝ないと言っていたルソンが、仕方なくシウと一緒のベットで寝る羽目になることなど、ルソンは思ってもみなかった。