天蘭王国の城内にある玉座の間。
 広々とした部屋にある玉座の椅子は王のみが座ることを許されている。

 そんな玉座の椅子に王ではない赤髪の青年(アルス)が座っていた。
 アルスはルク王と名乗る偽の王であったソレザの側近であったアルビスを呼び出し問う。

「おい、ルク王の一人娘である第一皇女。セナ姫は何処にいる?」
「セナ姫様は、春祭りの日に行方知れずになってしまいましたので、今現在、城にはおりません」

 セナが春祭りの日に行方不明となったことを知ったアルスは眉間に眉を寄せる。

「行方知れずだと?」
「はい。そうです」

 アルビスは赤と黒色の護衛服である漢服を見に纏いながら、目の前にいる自分よりも一回り若いであろうアルスという青年に今の自分の気持ちを悟られることがないよう平然としていた。

「そうか。では、セナ姫の捜索を始めろ。なんとしても見つけだせ!」
「わかりました」

 アルビスは今の主であるアルスにそう返事をし、玉座の間を後にする。
 アルビスが部屋から出ていった後、アルスは冷たい声色で一人呟く。

「これから都合よく物事を進める為にも、セナ姫は邪魔な存在だ」



 セナ達が天命の盾の内の一人であるシウに出会ってから1週間が経とうとしていた。

 緑豊かな自然溢れる森の中にひっそりと佇むように建つ木造で出来たクリーム色の家から出てきたセナとシウは晴れた空を見上げる。

「今日もいい天気ね」
「そうだな」
「ええ、」

 緩やかに流れる雲が木々の隙間から見え隠れする様子がセナとシウの瞳に映り込む。
 シウは晴れた空からセナに瞳を移し告げる。

「俺は決めたよ。お前達に着いて行く」

 シウの唐突な発言にセナは驚きシウの顔を見つめて声を上げる。

「え? ほんと!?」
「ああ、昨日、ルソンからセナの話しを聞いたんだ」
「ルソンから?」

 シウの口からルソンの名前が出るとは思っていなかったセナは首を傾げる。

「ああ、ルソンの話しを聞いて、心が決まったよ。着いていきたいと思ったんだ」
「そうだったのね。ルソンは何を話したの?」
「それは、本人に直接聞いてくれ」
 
 シウはセナを見つめて優しい笑みを浮かべる。
 セナはそんなシウの表情を見てルソンはシウに何を話したのだろうと思い。
 気になるからで聞いてみようと心に決めたのであった。



 天蘭王国の王城の中にある広い大部屋。玉座の間に慌ただしく衛兵が入ってくる。

「アルビス殿がおりません……!」

 広々とした玉座の間にある王のみが座ることができるその椅子は赤いカーペットの上に置かれていた。
 
 赤と白の色の組み合わせでシンプルではあるが何処か上品で質の良く見えるその椅子に座っていたアルスは慌てて玉座の間に入ってきた衛兵から伝えられた報告に思わず椅子から立ち上がる。

「何だと!? それは本当か?」
「はい。アルビス殿がおりません!」
「城の中はくまなく探したか?」
「はい、探しましたが何処にもおられなかったです」

 衛兵は淡々と目の前にいるアルスにそう伝える。
 そんな衛兵の言葉にアルスは頷き、椅子にまた腰を下ろす。

「そうか、わかった。報告ご苦労」
「はい。捜索は致しますか?」
「いや、いい。セナ姫の捜索に集中しろ」
「わかりました。失礼致します」

 衛兵は椅子に座るアルスに軽く会釈してから玉座の間から出て行く。

「裏切らないと思って、信じて側に置いたのは間違いだったようだな。まあ、いい。奴よりもセナ姫だ」

 玉座の間に一人残されたアルスはとても冷たい声色で静かに呟いた。



 一方、城から出たアルビスは森の中を走っていた。
 自分が最初に仕えていた(ルク王)の娘である彼女(セナ)にアルスという青年が良くないことを企んでいることを伝える為に。

 生きているのかさえもわからないが、アルビスはセナが何処かで生きていると信じていた。

「はぁ、はぁ、セナ姫様に伝えなくては……!」