中華料理店を出たセナ、ルソン、リクスの3人は月明の都を歩いていた。
 人々の賑わいで満ち溢れている昼過ぎの月明の都の風景をセナ達は瞳に映しながら話し始める。

「さっきの人達に詳しく聞いた話しによるとルク陛下は毒を盛られて殺されたらしいわ。王の命を狙った者が城の中にいた。もしかして、シウォンが言っていた良くないことって……」
「シウォン様が何か言っていたのですか?」

 ルソンはセナの口からシウォンの名前が出たことに反応する。あの春祭りの日。

 ルソンとセナの幼なじみであるシウォンがセナと再会したことを城の外に出た後に訪れたルソンの故郷であるフィルラ村で、セナから話しを聞いていた為知っていたが、細かい内容までは聞かされていなかったのでセナの発言した良くないことが何なのかがルソンにはわからなかった。

「ええ、春祭りの日に会った時に、近い未来に良くない出来事が起こるっていうことを言っていたから。話しに戻るけど、ルク陛下の弟だと名乗る者が城に来たらしいのよ。その人が王の座につく可能性があるって言っていたわ」

 ルク王の弟と名乗る人物が城に来たこと。
 その人物が王の座につく可能性があるということを。

「怪しいな。そのルク陛下の弟だと名乗ってる人物。本当にルク陛下の弟であるかわからないのに、周りの人間は、ルク陛下の本当の弟だと信じているのか?」
「そこまでは、まだわからないわ」

 いきなり行方不明であった王の弟だと名乗りをあげて、周りの人間が信じていたとしたら王がいなくなってしまったという現状に焦りを感じて冷静に物事を見られなくなっているという可能性も大いにあるなとセナは思う。

「ねえ、セナ、真実はわからないけど、これからどうするの?」

 リクスはセナとルソンの会話を聞いて不安そうな顔でセナを見つめる。

「帰らなきゃいけないのかもしれないけれど、私はもっと外の世界を知りたいし、私が帰らなかったことによって、良くない未来が待ち受けていたとしても、今はまだ帰るべきじゃない気がするの。我ながら酷いことを言っているわね」

 今はまだ帰るべき時じゃない。
 それにシウォンが言っていた天命の盾を集めなければならない。
 何故だかわからないがセナは強くそう感じていた。
 
「残してきてしまった人達のことを考えると心配ですよね。でも、俺はどんな選択をしても、姫さまについて行きますから」
「俺も、セナについて行くよ!」

 セナが決めたことなら、どんなことでも尊重しようと思っていたルソンとリクスはセナの決断を聞いて強く頷いた。

「ルソン、リクス、ありがとう」

 セナはそんな二人を見て柔らかい笑みを浮かべたのであった。



 昼過ぎ頃。
 天蘭王国の城の中にある部屋でセナの侍女であるリーナは部屋の窓から見える空を見上げながら一人呟いていた。

「はぁ、姫様がいなくなってしまってから、もう4ヶ月経つんですね……」

 姫様とルソン様が行方知れずになった後、ルク陛下が毒を盛られ殺された。
 ルク陛下が亡くなられてから4ヶ月が経った今でも城の中と王都ではその話で持ちきりである。
 
「生きている信じて、姫様の帰りを待つしかないですよね」

 帰ってくることを信じて、今、自分にできることをやろうとリーナは強く思い立ち上がり部屋を後にした。



 都。月明(げつめい)を出たセナ達はシウォンから渡された地図を頼りに天命の盾のうちの一人がいるであろう、紅蘭国の南にある森の中を歩いていた。

「本当にこんな森の中に、天命の盾のうちの一人がいるのかしら……?」
「んー、いるかはわかりませんが、地図に赤い丸がついてましたので、きっと何かあるのは確かですね」
「いなかったらどうするんだ?」

 リクスの問いにルソンは明るい笑みを浮かべて告げる。

「まあ、その時はその時で考えよう!」
「ええ、そうね!」
「うん、そうだね」



 紅蘭国の南にある森の中に入ってから4日経った昼前頃、セナ達は森の中にポツンと建つ小さな家を見つける。

「こんな森の中に家……?」
「誰か住んでいそうだな」
「そうだね」

 木造で出来たクリーム色の小さな家の前でセナ達は足を止めていた。
 セナ達が家を見ていると一人の男が家の中から出てくる。

「なにか用か?」
 
 家の中から出てきた背の高い男は白いシャツと黒色の長ズボンというラフな格好していた。
 男はセナ達を見て訝しげな顔をする。

 セナは目の前にいる男が天命の盾の内の一人である知らずに天命の盾のことについて問い掛ける。

「あ、あの、天命の盾のうちの一人を探しているのですけど、何か知っていたりしませんか?」

 セナの問いに男は手に持っていた籠を地面に置きセナ達の方を見る。

「ああ、知っている何も、俺が天命の盾のうちの一人だが」

 まさか、天命の盾のことを聞いた相手が天命の盾の内の一人だとは思ってもみなかったセナ達は驚いてから嬉しそうに喜び出す。

「おお、そうなのか!」
「やったね!」
「ええ、!」

 嬉しそうに喜ぶセナ、ルソン、リクス。
 そんな三人の姿を見てシウは何がそんなに嬉しいのかわからず首を傾げたが何かに気付いたのか、はっとした顔つきになる。

「もしかして、セナ姫様か……?」
「ええ、そうよ。よくわかったわね」

 シウの問いにセナは優しい声色で返答してから、被っていたロングマントのフードを取る。
 そんなセナの隣にいたルソンとリクスは交互に口を開く。

「姫さんの髪色珍しいからな。フードとって顔を見たら気付く人も少なからずいるだろう」
「確かに、目立つ髪色してるもんね」

 セナの髪色は綺麗な空色であり、瞳の色も淡い水色。

 あまり見ない髪色と瞳の色の為、容姿だけでこの天蘭王国の第一皇女であるセナ姫だと気付かれる可能性が高かった。

 なので、常に白いロングマントを羽織り、ロングマントについたフードを被っていたのだ。

「やはりそうか。もしかして、俺を探して此処まできたのか?」
「ええ、私達は今、理由あって天命の盾であった者達を探しているの」
「なるほど。それで、俺に何を求めるんだ?」

 シウはセナが自分に何を求めるのか、大体予想はついていた。
 天蘭王国から天命の盾を探しに此処までセナ達がやってきた。
 そんなセナ達の目的は何なのか。シウに思い当たるのはたった一つしかなかった。

「私達と共に来て欲しいの」
「来て欲しいねぇ…… 何の目的があって、俺が一緒に着いて行かなきゃいけないのかがわからないから、着いていくとは言えないな」

 シウはセナ達の真剣な顔を見て意地悪なことをしているなと思いながらも、セナ達がどのくらい本気なのかを見定めたいという気持ちが強くあった為、着いていきたいすぐにでも言いたい気持ちを押し殺していた。

「天命の盾である者達を集めることで、私が知らなければならない真実に近づく気がするの。それに、私は初代国王に仕えていた天命の盾である者達のことを知りたい」
「まあ、そういうことだ」
「俺からもお願い。一緒に来て欲しい」

 初代国王に仕えていた天命の盾である者達はそれぞれ不思議な力を持っていた。

 シウはそんな天命の盾である者の一人であり、初代国王に仕えていた天命の盾であった先祖の血を引いていた。

「少し考えさせてくれ。セナ姫様、貴方が仕えるに値する人間か見定めたい」

 シウの発言にルソンは少しムッとしたのか、少し強い口調で発する。

「そんなことしなくても姫さまは、仕える価値のある方だ」
「ルソン、いいのよ。そうよね、わかったわ。貴方の気持ちが決まるまで待つわ」

 見定めたい。
 そう言った理由が彼にはきっとあるのだろうとセナは瞬時に察知しシウの気持ちを受け入れる。

「ああ、待ってる間、俺の手伝いも必須だぞ?」
「ええ、いいわよ」
「手伝い必須とか、めんどくさいね、あんた」
「おい、リクス。そういうのは思ってても口に出すな」

 ルソンはリクスの頭を軽く手で叩き注意する。
 リクスはルソンに軽く叩かれても文句を言い続けていた。

 セナはそんな二人に挟まれながら「落ち着いて、二人とも」となだめる。
 シウはそんなセナ、ルソン、リクスの三人の会話を聞きながら、ふっと柔らかい笑みを溢す。

「暫く賑やかになりそうだな」

 木々の隙間から差し込む陽の光がそんな4人の姿を照らしていた。