アディとシェラがルパニア国行きの船に乗ってから、4日後、船はアルディーア帝国に到着する。

「着いたわね」
「そうだね」

 シェラとアディはアルディーア帝国の港に止まった船から降り、アルディーア帝国の地に降り立つ。
 上を見上げれば、晴れた青白い空の色がシェラの青色の瞳に映る。

「アディ、行きましょうか」
「うん、行こうか、シェラ」

 アディとシェラは互いに顔を見合わせ歩き始める。そんな二人の姿は、人混みの中へと消えていった。



「それで、結局、見つからなかったのか?」
「はい。申し訳ありません……」

 ヴァルローゼ国の第一王子であるリヴィアスは、シェラの捜索を頼んでいたシェラの騎士であるルヴァンから謝罪されてため息を溢す。

「見つからなかったのなら仕方ない。ルヴァン、シェラの捜索を辞めることを王立騎士団と俺の騎士達に伝えてこい」
「わかりました」

 ルヴァンはリヴィアスの命令に頷き、部屋から出て行く。
 リヴィアスはそんなルヴァンの背を見送ってから、静かになった部屋で独り言のように呟く。

「本当にシェラが、ヴァリアントを殺したのだろうか」



 数年の時が経ち、ヴァルローゼ国の国王となったリヴィアスの元にとある情報が入る。
 それは、数年前、ヴァルローゼ国の第一王子であったヴァリアントが殺された出来事に関することであった。

「何!? それは本当か?」
「はい。シェラ王女ではなく彼がヴァリアント王子殿下を殺したと認めました」

 リヴィアスに報告のように淡々と伝えた騎士は、ぺこりと頭を下げて、部屋を後にした。
 部屋に残されたリヴィアスは『何という事だ……』と言いながら頭を抱え込む。

「俺は、妹に酷いことをした」

 シェラが殺したという事実が本当なのか、調べもしないで、シェラが殺したのだと。
 そう信じてしまった。
 第一王子であるヴァリアントを殺した本当の犯人はシェラではなかったというのに。



「気付くのか遅いですよ。リヴィアス陛下」

 暗い牢獄の中で、一人の男は嘲笑うかのようにそう言い。
 自身の目の前に立つヴァルローゼ国の国王リヴィアスを見る。

「ああ、遅すぎたな。しかし、まさか、ルヴァン、お前がヴァリアント王子を殺したとは。未だに信じられない」
「俺が殺したんですよ。殿下を巻き込むつもりはなかったんですが、犯行を実行する際、側に居たのでね」

 ルヴァンは人を殺したことに対して隠し通した挙句、主として仕えていたシェラに罪をなすりつけた。 人道に欠けているから、今もこうして笑っていられるのかとリヴィアスは思う。

「お前は、明日処刑される。何か最後に言いたいことはあるか?」
「特にないですね。まあ、最後に言うのなら、俺は自分がやったことを後悔していないです。自分の主に罪をなすりつけた事も。ヴァリアント王子殿下を殺したことも」
「お前は騎士なんかじゃない。罪を犯した罪人だ。お前が行くべき所は地獄。ルヴァン、俺はお前のことを許しはしない」

 リヴィアスはそう言い捨て、王城にある地下の牢獄を後にする。
 薄暗い牢獄の残されたルヴァンは一人呟く。

「リヴィアス王子殿下、俺はね、第一王子であるヴァリアント王子殿下を恨んで居たんですよ。彼は俺の母親を殺したのだから」

 ルヴァンの乾いた声が、薄暗い牢獄の中に溶け込むように消えていく。

 頭上を見上げれば、白い天井がルヴァンの黒い瞳に映る。

 薄暗い牢獄の中、ルヴァンは天井を見つめながらもう空を見上げることは出来ないのだなと思った。