王立騎士団の営所にやって来た私のことを騎士達はちらちらと見てはヒソヒソとなにかを話している。

 まあ、それもそうだろう。
 第一王女が騎士団の営所に来ることは滅多にない。きっと何事だと思っているに違いない。

 私はそんな騎士達の視線など気にせずに目的の人物であるエリックのことを呼んでもらう為に騎士の一人に声をかける。

「エリックを呼んでもらっても良いかしら?」
「え、はい! エリック副団長ですね。ちょっと待っててください……!」

 赤髪の騎士である青年は私にそう言うなり、その場から走り去って行く。
 数十分後、赤髪の青年はエリックを連れて私の元へと戻ってきた。

「お待たせ致しました……! 連れて参りましたよ」
「ええ、ありがとう」
「はい、では失礼致しますね」

 赤髪の騎士は私に会釈してから立ち去って行く。
 私はそんな騎士の後ろ姿を見送ってからエリックを見て口を開く。

「エリック・フェリス。貴方をわたくしの騎士に任命します」
「大変申し訳ありませんがお断り致します」
「何でですか? もしかして私のことが嫌いですか?」
 
 まさか断られるとは思ってなかった。
 私の騎士になれば出世できるのにどうして断るのだろうか。

「アイラ王女殿下のことが嫌いとかではなく、私は王立騎士団副団長という今の役職に満足しています。なのでお断りしたまでです」
「そうなのね……」
「はい、用件は他にもありますでしょうか?」

 エリックのきつい口調から迷惑そうな気持ちが滲み出てる気がするのはきっと気のせいだと自分自身に言い聞かせながら、私はエリックを見る。

「私は諦めませんから! 貴方を絶対に私の騎士にしますわ。お仕事中に失礼致しました。また来ます」

 私は自分の騎士にしたいと思っているエリックに宣戦布告をしてから踵を返しエリックに背を向けて王城へと戻る為に再び来た道のりを歩き出す。

「メンタル弱いと噂には聞いていたが、全然弱くないんだな。やはり噂は噂でしかないか」

 アイラの去り行く後ろ姿を見送りながらエリックはポツリと呟いたのであった。