国外逃亡は失敗に終わり、ティティアーナはバルドと共に王都へと帰って来た。

「はぁ、バルド殿下との婚儀まであと4日ね。気が重いわ……」

 ティティアーナが家へと帰ってくると、自分に酷い言葉を投げきたり、こき使ったりしていた継母のヴィアラと姉二人のリゼとロナの態度が驚くほど変わっていた。

「ティティアーナ、今まで酷いことを言ったり、こき使ったりしてごめんなさい。私もリゼもお母様も悪かったと思っているわ」
「すぐには許せないかもしれない。血は繋がっていないけれど、私は貴方の親であるのに酷いことを沢山してきたもの」
「これからは今までみたいな酷いことはしないわ。本当にごめんなさい」

 ティティアーナはヴィアラとリゼ、ロナのあまりの変わりように一体何があったんだと困惑する。

「色々、酷いことを言われたり、こき使われたりしてきましたけれど、少なからず悪かったなと思う気持ちがあるのなら許します。あと、私はもうこの家を出るので」

 そう、私は明日、この家を出る。
 バルド王子殿下の妻となる私はこれから城で生活することになる。
 私はもう、この家に帰って来るつもりはさらさらない。



「ティティアーナ譲の家族の方にあのようなことを言うとは、これだから殿下から目が離せないのです」
「はは、まあ、あれぐらい言ってもいいだろう。今までティティアーナに酷いことをしていたのだからな」

 バルドは執務室で仕事をしながら、側にいる近衞騎士のエドルと会話をしていた。

 ティティアーナを王都に連れて帰ったあの日、王都に向かいながらティティアーナは家族である姉達と母親から酷い扱いをされていたことを話してくれた。

 ティティアーナの話しを聞いて、イライラした俺はティティアーナを家に送り届けた際、ティティアーナが家に入って行った隙を見計らって母親と二人の姉君に半分脅しに近いことを言ったのだ。

「もし、これからティティアーナのことを傷つけるようなことをしたら、精神的にも身体的にも痛めつけますからね?」

 にこやかにそう言ったバルドに、ティティアーナの姉達と母親は恐怖を感じたのか、こくりと頷いていたのはいい気味であったなとバルドは思う。

「それにしても暑くなってきましたね」
「ああ、そうだな。夏だなぁ……」

 執務室の開け放たれた窓から心地良い夏の風が入り、白いカーテンがひらひらと揺れた。





 バルド王子との婚儀の日。
 バルドはガラスの靴をティティアーナに履かせてこようとしてきたが、ティティアーナはガラスの靴を履くのではなく手に持ってから、思い切っり地面へと叩き付けてやったのは今では良い思い出である。

「お母さんとの結婚式の日にな、お母さんはなお父さんが履かせようとしたガラスで出来たとても綺麗な靴をお父さんの目の前で地面にな、ばーん!って叩き付けて割ったんだぞ!」
「えー、なんで割っちゃったの……?」

 肩まである三つ編みをしたまだ幼い少女は興味津々な顔をして父親であるバルドに問い掛ける。

「それはなぁ、」
「ふふ、懐かしいわね」

 バルドと娘の話しを聞いていたティティアーナは笑みを溢す。

 王子様と結ばれたいとは思っていなかった私だったが、今ではこうして隣にいるのがバルド王子でよかったと思っている。

 ティティアーナは愛おしい娘とバルドを見てから話しを続ける。

「実はお母さんはね……」

 ティティアーナが言った言葉の続きはバルドと娘にしか聞こえなかった。
 そんな3人の家族の姿を春の心地良い陽の光が照らしていた。