2日後の朝。
香織はベッドの中で目を覚ます。カーテンを閉めたままの暗い部屋。時計を見る。午前11時。
2日間、ほとんど眠れず、食事も取っていない。水だけ飲んでいた。
体が重い。起き上がる気力がない。
テーブルの上に、電源を切ったままのスマホ。あの日から、一度も電源を入れていない。
香織はベッドから出る。よろよろと洗面所へ。鏡を見る。ひどい顔。やつれて、目が落ち窪んでいる。
顔を洗う。冷たい水。少しだけ、意識がはっきりする。
リビングに戻る。スマホを手に取る。
電源ボタンに指を置く。躊躇。
押すべきか。押さないべきか。
でも、いつかは向き合わなければならない。
深呼吸を3回。ボタンを押す。
起動音。画面が明るくなる。ロック画面。
通知が次々と表示される。音が鳴り続ける。ピロン、ピロン、ピロン。
LINE通知。結衣(20件)。理沙(15件)。早苗(12件)。電話の着信履歴。結衣(8回)。理沙(5回)。他の友人からのメッセージも複数。
香織は画面を見つめる。開けない。手が震える。
1時間、スマホを持ったまま動けない。
通知音が鳴るたび、体が跳ねる。
午後1時。結衣から新しいメッセージ。通知音。
香織は、震える指でLINEを開く。結衣とのトーク画面。
結衣「香織、大丈夫?」
結衣「心配してる」
結衣「連絡ください」
結衣「怒ってないから」
結衣「話したい」
スクロールする。たくさんのメッセージ。すべて結衣から。
そして、最新のメッセージ。
結衣「これ、見てほしい」
ファイルが添付されている。動画ファイル。8分23秒。
件名欄に「お願い」とだけ書かれている。
香織は迷う。見るべきか。見ないべきか。
でも、結衣が送ってきた。何か、伝えたいことがある。
タップする。動画が再生される。
画面に映る式場。香織が退席した直後の映像。カメラは高砂を映している。
結衣が座っている。涙を流している。新郎が結衣の肩に手を置いている。
会場は静まり返っている。誰も動かない。
数秒後、結衣が立ち上がる。新郎が止めようとするが、結衣は首を振る。
マイクを取る。
「待って」
結衣の声。でも香織はすでにいない。
結衣は会場を見回す。香織の姿を探している。でも、いない。
結衣はマイクを握りしめる。涙を流しながら話し始める。
「香織は、間違ってない」
会場がざわつく。
「私も、本音を言えなかった」
結衣の声が震える。
「香織が強く見えて、頼ってばかりいた。自分で決められない私が、香織をそうさせた」
理沙が立ち上がる。カメラがそれを捉える。
「私も同じです」
理沙の声。
「香織に甘えてた。香織が仕切ってくれるから、楽だった。自分で考えなくていいから、責任を負わなくていいから」
早苗も立ち上がる。
「私も……香織のせいにできるから、逃げてた」
3人とも泣いている。
結衣が続ける。
「香織は、私たちを利用したって言った。でも、私たちも香織を利用してたんです」
会場のゲストが静かに聞いている。
「香織が決めてくれるのを待ってた。香織に頼ってた。そして裏で、香織の悪口を言ってた」
結衣の声が詰まる。
「私たち、最低だった」
理沙が言う。
「香織、ごめん」
早苗も言う。
「本当に、ごめんなさい」
結衣がカメラを見る。まるで、香織に向かって話しているかのように。
「香織、もう一度、ちゃんと話そう。今度は、本音で。お願い」
動画が終わる。黒い画面。
香織の顔が、画面に映り込む。涙でぐちゃぐちゃになった顔。
香織はスマホを握りしめる。床に膝をつく。声を上げて泣く。
「私だけじゃなかった」
嗚咽。
「みんな、同じだった」
共依存。お互いが、お互いを利用していた。香織だけが加害者ではなかった。理沙も、早苗も、結衣も。みんなが香織に頼り、香織のせいにしていた。
香織は涙を流し続ける。
自分だけが悪いと思っていた。でも、違った。みんなが同じように、欠陥を抱えていた。
でも——。
これからどうすればいいのか。もう一度、関係を築けるのか。本音で話せるのか。
香織にはわからない。ただ、涙が止まらない。
香織はベッドの中で目を覚ます。カーテンを閉めたままの暗い部屋。時計を見る。午前11時。
2日間、ほとんど眠れず、食事も取っていない。水だけ飲んでいた。
体が重い。起き上がる気力がない。
テーブルの上に、電源を切ったままのスマホ。あの日から、一度も電源を入れていない。
香織はベッドから出る。よろよろと洗面所へ。鏡を見る。ひどい顔。やつれて、目が落ち窪んでいる。
顔を洗う。冷たい水。少しだけ、意識がはっきりする。
リビングに戻る。スマホを手に取る。
電源ボタンに指を置く。躊躇。
押すべきか。押さないべきか。
でも、いつかは向き合わなければならない。
深呼吸を3回。ボタンを押す。
起動音。画面が明るくなる。ロック画面。
通知が次々と表示される。音が鳴り続ける。ピロン、ピロン、ピロン。
LINE通知。結衣(20件)。理沙(15件)。早苗(12件)。電話の着信履歴。結衣(8回)。理沙(5回)。他の友人からのメッセージも複数。
香織は画面を見つめる。開けない。手が震える。
1時間、スマホを持ったまま動けない。
通知音が鳴るたび、体が跳ねる。
午後1時。結衣から新しいメッセージ。通知音。
香織は、震える指でLINEを開く。結衣とのトーク画面。
結衣「香織、大丈夫?」
結衣「心配してる」
結衣「連絡ください」
結衣「怒ってないから」
結衣「話したい」
スクロールする。たくさんのメッセージ。すべて結衣から。
そして、最新のメッセージ。
結衣「これ、見てほしい」
ファイルが添付されている。動画ファイル。8分23秒。
件名欄に「お願い」とだけ書かれている。
香織は迷う。見るべきか。見ないべきか。
でも、結衣が送ってきた。何か、伝えたいことがある。
タップする。動画が再生される。
画面に映る式場。香織が退席した直後の映像。カメラは高砂を映している。
結衣が座っている。涙を流している。新郎が結衣の肩に手を置いている。
会場は静まり返っている。誰も動かない。
数秒後、結衣が立ち上がる。新郎が止めようとするが、結衣は首を振る。
マイクを取る。
「待って」
結衣の声。でも香織はすでにいない。
結衣は会場を見回す。香織の姿を探している。でも、いない。
結衣はマイクを握りしめる。涙を流しながら話し始める。
「香織は、間違ってない」
会場がざわつく。
「私も、本音を言えなかった」
結衣の声が震える。
「香織が強く見えて、頼ってばかりいた。自分で決められない私が、香織をそうさせた」
理沙が立ち上がる。カメラがそれを捉える。
「私も同じです」
理沙の声。
「香織に甘えてた。香織が仕切ってくれるから、楽だった。自分で考えなくていいから、責任を負わなくていいから」
早苗も立ち上がる。
「私も……香織のせいにできるから、逃げてた」
3人とも泣いている。
結衣が続ける。
「香織は、私たちを利用したって言った。でも、私たちも香織を利用してたんです」
会場のゲストが静かに聞いている。
「香織が決めてくれるのを待ってた。香織に頼ってた。そして裏で、香織の悪口を言ってた」
結衣の声が詰まる。
「私たち、最低だった」
理沙が言う。
「香織、ごめん」
早苗も言う。
「本当に、ごめんなさい」
結衣がカメラを見る。まるで、香織に向かって話しているかのように。
「香織、もう一度、ちゃんと話そう。今度は、本音で。お願い」
動画が終わる。黒い画面。
香織の顔が、画面に映り込む。涙でぐちゃぐちゃになった顔。
香織はスマホを握りしめる。床に膝をつく。声を上げて泣く。
「私だけじゃなかった」
嗚咽。
「みんな、同じだった」
共依存。お互いが、お互いを利用していた。香織だけが加害者ではなかった。理沙も、早苗も、結衣も。みんなが香織に頼り、香織のせいにしていた。
香織は涙を流し続ける。
自分だけが悪いと思っていた。でも、違った。みんなが同じように、欠陥を抱えていた。
でも——。
これからどうすればいいのか。もう一度、関係を築けるのか。本音で話せるのか。
香織にはわからない。ただ、涙が止まらない。

