スマホの画面が明るく光る。
インスタグラムの投稿画面。香織は4人の笑顔が映った写真を選択した。式場の前で撮った集合写真。結衣が中央、その隣に香織。理沙と早苗が両脇。全員が満面の笑みを浮かべている。
キャプションを入力する。
「最高の仲間と最高の結婚式を! #親友の結婚式 #幸せのおすそわけ」
投稿ボタンをタップ。
数秒後、画面下部のハートマークが次々と増えていく。3、8、15、24。香織の口元が緩む。
いいね、が欲しい。認められたい。それが香織の、生きる理由だった。
グループLINE「結衣's Wedding準備」の画面。
結衣「みんなありがとう! 香織が幹事で本当に助かる💕」
理沙「任せて! 看護師の段取り力見せるよ笑」
早苗「私も協力します!」
香織「みんなで最高の式にしよう!」
4人のアイコン画像が並ぶ。結衣は笑顔の自撮り。理沙は飼い猫の写真。早苗は風景写真。そして香織は、カフェで撮った自分の横顔。
既読が4つ。メッセージは止まった。
香織は一人暮らしの1Kマンションに住んでいる。整理されたデスクの上、PCモニターには制作中のデザイン案が並ぶ。フリーランスのグラフィックデザイナー。仕事は順調。収入も安定している。
でも、孤独だった。一日中誰とも話さない日がある。クライアントとのやり取りはすべてメール。外出するのはコンビニとカフェだけ。
だからSNSが、唯一の居場所だった。いいね、の数が、自分の価値を証明してくれる。私は必要とされている。そう思いたかった。
「私がいないと、みんな困るよね」
声に出して呟く。誰もいない部屋に、その言葉だけが響いた。
土曜日の朝、9時30分。駅の改札前。香織は待ち合わせ場所に到着した。
すでに結衣が立っている。白いブラウスにデニムのスカート。髪を軽く巻いて、化粧もいつもより濃い。
「香織!」
結衣が手を振る。満面の笑み。
「おはよう」
香織も笑顔で応える。
数分後、理沙が現れた。看護師らしいきびきびとした歩き方。ショートカットの髪、黒いTシャツにジーンズ。
「遅くなった!」
「大丈夫、早苗もまだだから」
その言葉が終わらないうちに、早苗が小走りで駆けてくる。少し息が切れている。
「ごめんなさい! 電車が……」
「気にしないで。じゃあ行こうか」
香織が自然にリードする。
「タクシー乗り場、こっちだよ」
3人がついてくる。いつものこと。私が決める。私が導く。それが当たり前だった。
タクシーの中。後部座席に結衣、理沙、早苗の3人。香織が助手席に座る。
「今日の式場、すごく綺麗なんだよね」
結衣が興奮した様子で言う。
「チャペルが有名だって。ステンドグラスが素敵らしい」
香織が資料を取り出す。
「見学の順番はこう。まずチャペル、次に披露宴会場、最後に控室ね」
理沙がスマホを取り出した。
「記念に残そうよ! 動画撮る」
「いいね!」
早苗がメモアプリを開く。
「私、メモ取ります」
窓の外を流れる景色。都心から少し離れた、緑の多い住宅街。
「あと5分くらいかな」
香織が運転手に確認する。
「そうですね、もうすぐです」
結衣が香織の腕を掴む。
「ねえ、ドキドキしてきた」
「大丈夫、絶対いい式場だから」
香織は断言する。自分が選んだ式場。間違いない。そう信じていた。
式場に到着。白い壁の洋館風建築。エントランスには噴水。
「わあ……」
結衣が声を上げる。理沙が動画撮影を始めた。
「いいね、これ」
プランナーが出迎える。30代の女性。落ち着いた笑顔。
「お待ちしておりました。藤崎様ですね」
「はい。友人の結衣の結婚式の下見で」
「承知しております。どうぞこちらへ」
チャペルの扉が開く。天井まで届くステンドグラス。色とりどりの光が床に模様を描く。4人が同時に歓声を上げた。
「綺麗……」
結衣の目に涙が浮かぶ。
「ここで式を挙げたい」
香織が結衣の肩を抱く。
「でしょ? 私が選んだんだから」
理沙が動画を撮り続ける。早苗がメモを取る。
プランナーが説明を始める。しかし香織の方を見ている。香織が、このグループの中心だと理解しているのだ。
披露宴会場。広い空間、シャンデリア、白いテーブルクロス。香織が配置を提案する。
「高砂はここ。ゲストテーブルはこの配置がいいと思う」
プランナーが頷く。
「素敵な配置ですね」
「音響はどうですか」
「こちらに最新設備が」
香織が次々と質問する。プランナーが丁寧に答える。結衣、理沙、早苗は少し離れたところで見ている。
「さすが香織」
結衣が呟く。理沙と早苗も頷いた。
見学が終わり、エントランスで記念撮影。理沙がタイマーをセットして、4人が並ぶ。
カシャ。写真が撮れた。全員が笑顔。
「いい写真!」
「これ、インスタグラムに載せていい?」
「もちろん!」
香織がすぐに投稿する。
帰りの電車。4人並んで座る。
「今日は本当にありがとう」
結衣が香織に言う。
「こちらこそ。楽しかったよ」
理沙がスマホで動画を確認している。
「いい感じに撮れてる」
早苗がメモを見返す。
「次は、ドレス選びですね」
「そうだね。来週の土曜日、空いてる?」
香織が聞く。
3人が頷く。
「じゃあ決まり」
私がこのグループを回している。私がいないと、みんな困る。香織はそう信じていた。
窓の外、街の景色が流れていく。夕日が、ビルの間に沈もうとしている。
インスタグラムの投稿画面。香織は4人の笑顔が映った写真を選択した。式場の前で撮った集合写真。結衣が中央、その隣に香織。理沙と早苗が両脇。全員が満面の笑みを浮かべている。
キャプションを入力する。
「最高の仲間と最高の結婚式を! #親友の結婚式 #幸せのおすそわけ」
投稿ボタンをタップ。
数秒後、画面下部のハートマークが次々と増えていく。3、8、15、24。香織の口元が緩む。
いいね、が欲しい。認められたい。それが香織の、生きる理由だった。
グループLINE「結衣's Wedding準備」の画面。
結衣「みんなありがとう! 香織が幹事で本当に助かる💕」
理沙「任せて! 看護師の段取り力見せるよ笑」
早苗「私も協力します!」
香織「みんなで最高の式にしよう!」
4人のアイコン画像が並ぶ。結衣は笑顔の自撮り。理沙は飼い猫の写真。早苗は風景写真。そして香織は、カフェで撮った自分の横顔。
既読が4つ。メッセージは止まった。
香織は一人暮らしの1Kマンションに住んでいる。整理されたデスクの上、PCモニターには制作中のデザイン案が並ぶ。フリーランスのグラフィックデザイナー。仕事は順調。収入も安定している。
でも、孤独だった。一日中誰とも話さない日がある。クライアントとのやり取りはすべてメール。外出するのはコンビニとカフェだけ。
だからSNSが、唯一の居場所だった。いいね、の数が、自分の価値を証明してくれる。私は必要とされている。そう思いたかった。
「私がいないと、みんな困るよね」
声に出して呟く。誰もいない部屋に、その言葉だけが響いた。
土曜日の朝、9時30分。駅の改札前。香織は待ち合わせ場所に到着した。
すでに結衣が立っている。白いブラウスにデニムのスカート。髪を軽く巻いて、化粧もいつもより濃い。
「香織!」
結衣が手を振る。満面の笑み。
「おはよう」
香織も笑顔で応える。
数分後、理沙が現れた。看護師らしいきびきびとした歩き方。ショートカットの髪、黒いTシャツにジーンズ。
「遅くなった!」
「大丈夫、早苗もまだだから」
その言葉が終わらないうちに、早苗が小走りで駆けてくる。少し息が切れている。
「ごめんなさい! 電車が……」
「気にしないで。じゃあ行こうか」
香織が自然にリードする。
「タクシー乗り場、こっちだよ」
3人がついてくる。いつものこと。私が決める。私が導く。それが当たり前だった。
タクシーの中。後部座席に結衣、理沙、早苗の3人。香織が助手席に座る。
「今日の式場、すごく綺麗なんだよね」
結衣が興奮した様子で言う。
「チャペルが有名だって。ステンドグラスが素敵らしい」
香織が資料を取り出す。
「見学の順番はこう。まずチャペル、次に披露宴会場、最後に控室ね」
理沙がスマホを取り出した。
「記念に残そうよ! 動画撮る」
「いいね!」
早苗がメモアプリを開く。
「私、メモ取ります」
窓の外を流れる景色。都心から少し離れた、緑の多い住宅街。
「あと5分くらいかな」
香織が運転手に確認する。
「そうですね、もうすぐです」
結衣が香織の腕を掴む。
「ねえ、ドキドキしてきた」
「大丈夫、絶対いい式場だから」
香織は断言する。自分が選んだ式場。間違いない。そう信じていた。
式場に到着。白い壁の洋館風建築。エントランスには噴水。
「わあ……」
結衣が声を上げる。理沙が動画撮影を始めた。
「いいね、これ」
プランナーが出迎える。30代の女性。落ち着いた笑顔。
「お待ちしておりました。藤崎様ですね」
「はい。友人の結衣の結婚式の下見で」
「承知しております。どうぞこちらへ」
チャペルの扉が開く。天井まで届くステンドグラス。色とりどりの光が床に模様を描く。4人が同時に歓声を上げた。
「綺麗……」
結衣の目に涙が浮かぶ。
「ここで式を挙げたい」
香織が結衣の肩を抱く。
「でしょ? 私が選んだんだから」
理沙が動画を撮り続ける。早苗がメモを取る。
プランナーが説明を始める。しかし香織の方を見ている。香織が、このグループの中心だと理解しているのだ。
披露宴会場。広い空間、シャンデリア、白いテーブルクロス。香織が配置を提案する。
「高砂はここ。ゲストテーブルはこの配置がいいと思う」
プランナーが頷く。
「素敵な配置ですね」
「音響はどうですか」
「こちらに最新設備が」
香織が次々と質問する。プランナーが丁寧に答える。結衣、理沙、早苗は少し離れたところで見ている。
「さすが香織」
結衣が呟く。理沙と早苗も頷いた。
見学が終わり、エントランスで記念撮影。理沙がタイマーをセットして、4人が並ぶ。
カシャ。写真が撮れた。全員が笑顔。
「いい写真!」
「これ、インスタグラムに載せていい?」
「もちろん!」
香織がすぐに投稿する。
帰りの電車。4人並んで座る。
「今日は本当にありがとう」
結衣が香織に言う。
「こちらこそ。楽しかったよ」
理沙がスマホで動画を確認している。
「いい感じに撮れてる」
早苗がメモを見返す。
「次は、ドレス選びですね」
「そうだね。来週の土曜日、空いてる?」
香織が聞く。
3人が頷く。
「じゃあ決まり」
私がこのグループを回している。私がいないと、みんな困る。香織はそう信じていた。
窓の外、街の景色が流れていく。夕日が、ビルの間に沈もうとしている。

