ノベマコ(仮名)には胎内記憶がある。それも受精卵レベルの思い出なのだから神秘的だ。その記憶は、なんと両親の結婚式だというから驚く。しかし母親の体の中にいた彼女は、母親の目を通して、結婚式を見ていたのである。
それは、とても幸福な記憶だった。
しかし幸せな結婚式の記憶の中に、違和感が混ざっていたのである。
皆から祝福され、ウエディングケーキに入刀する両親を、すぐ近くに立って凝視する人間がいた。それが誰なのか分からない。何も言わず、その場に立って、じっと二人を見つめている。両親も結婚式の参加者も、その人物が見えていないようだった。結婚式の客とも思えない。成長してから、その人物が誰なのか、親に聞いてみたが、親も分からなかった。まさに、正体不明の人物だった。
その人物との遭遇は、その後も続いた。誕生日のような節目節目のイベントが来ると、姿を見せるのだ。姿形は変わらない。遠くから見ていることもあれば、身近に現れることもある。話したことは一度もない。話しかけようと近づくと消えてしまうのだ。どうやら、他の誰にも見えないらしい。不思議な話である。だが、不思議なことにノベマコは、その人物が怖くなかった。悪意があるのなら、とっくの昔に害を為しているだろう。しかし、何もしないのである。彼女は、その人物が自分を見守ってくれている気さえした。実際、そうだったのかもしれない。初めてのバイト先にも現れたことがある。彼女がミスをしないかと、ハラハラしながら見ている気配が感じられたからだ。
そんなノベマコの人生も、もう終わりが近づいた。老女になった彼女は、天寿を全うし、お迎えの時が来るのを待つばかりとなっていたのだ。人生を振り返ると、本当に幸せだったと彼女は思う。しかし、解けない謎はある。人生の折々に姿を見せた、あの人……一体、何者なのだろう?
その謎はノベマコの人生最後に訪れたビッグイベントで明らかになった。臨終の時が迫った彼女の枕元に、その人物が立ったのだ。彼女は尋ねた。
「あなたは一体、どなたなの?」
私は死神です。あなたを迎えに来ました……という言葉が彼女の鼓膜を揺らす頃には、その意識は薄れ、顔には穏やかな表情が浮かんでいた。
ノベマコ以外の誰にも見えない死神は、永遠の眠りに就いた彼女の瞼をそっと閉じた。
それは、とても幸福な記憶だった。
しかし幸せな結婚式の記憶の中に、違和感が混ざっていたのである。
皆から祝福され、ウエディングケーキに入刀する両親を、すぐ近くに立って凝視する人間がいた。それが誰なのか分からない。何も言わず、その場に立って、じっと二人を見つめている。両親も結婚式の参加者も、その人物が見えていないようだった。結婚式の客とも思えない。成長してから、その人物が誰なのか、親に聞いてみたが、親も分からなかった。まさに、正体不明の人物だった。
その人物との遭遇は、その後も続いた。誕生日のような節目節目のイベントが来ると、姿を見せるのだ。姿形は変わらない。遠くから見ていることもあれば、身近に現れることもある。話したことは一度もない。話しかけようと近づくと消えてしまうのだ。どうやら、他の誰にも見えないらしい。不思議な話である。だが、不思議なことにノベマコは、その人物が怖くなかった。悪意があるのなら、とっくの昔に害を為しているだろう。しかし、何もしないのである。彼女は、その人物が自分を見守ってくれている気さえした。実際、そうだったのかもしれない。初めてのバイト先にも現れたことがある。彼女がミスをしないかと、ハラハラしながら見ている気配が感じられたからだ。
そんなノベマコの人生も、もう終わりが近づいた。老女になった彼女は、天寿を全うし、お迎えの時が来るのを待つばかりとなっていたのだ。人生を振り返ると、本当に幸せだったと彼女は思う。しかし、解けない謎はある。人生の折々に姿を見せた、あの人……一体、何者なのだろう?
その謎はノベマコの人生最後に訪れたビッグイベントで明らかになった。臨終の時が迫った彼女の枕元に、その人物が立ったのだ。彼女は尋ねた。
「あなたは一体、どなたなの?」
私は死神です。あなたを迎えに来ました……という言葉が彼女の鼓膜を揺らす頃には、その意識は薄れ、顔には穏やかな表情が浮かんでいた。
ノベマコ以外の誰にも見えない死神は、永遠の眠りに就いた彼女の瞼をそっと閉じた。



