「結構な穴場だろう?南側の大きな展望台と
違って、夜景の見え方も違うけど、俺は気に入っ
てる。よく、仕事がしんどい時とか、何かモヤモ
ヤしてることがある時とかはここに来るんだ。
ぼんやりと街の灯りを眺めながらコーヒー飲んだ
りしてさ」
じっと夜景を眺めたままそう言うと、滝田は
窓ガラス越しに蛍里を見て微笑んだ。「そうだ
ったんだ」とだけ呟いて、蛍里もガラスに映り
こんだ滝田に目を向ける。
滝田は、仕事も出来て、人望もあって、要領も
よくて、何となく、悩んでいる姿は想像しづらか
ったけれど……。
それは蛍里の勝手な思い込みで、まだ、自分
の知らない滝田の顔が、いくつもあるに違いない。
蛍里は今まで知ることのなかった滝田の一面
を知って、少しだけ得をした気分だった。
「実はさ……あの日、折原さんに手を出しちゃ
った後も、ずっとここに来てたんだ」
唐突に、滝田があの夜のことを口にしたので、
蛍里は思わず彼を向いてしまう。滝田も、蛍里
を見つめている。
その眼差しは、いつの間にか、あの夜と同じ
ものになっていて、蛍里は緊張からごくりと唾を
飲んだ。
「ああ、早まったな、とか、馬鹿なことしちゃっ
たな、とか、キスする前に戻りてーな、とか。この
夜景見ながら一人でうだうだ考えてて……それ
で、会いに行けなかった」
切なげに目を細めてそう言った滝田に、蛍里
は頷く。
彼と同じように自分も悩んでいたけれど、もし
かしたら、その想いの重さはずいぶん違うのか
も知れないけれど……互いにそのことを思って
過ごしたこの数日間は、きっと長かったに違い
ない。
「わたしもずっと、滝田くんのこと、考えてた」
ぽつり、ぽつりと、そう口にした蛍里に、滝田
は唇を噛んで頷いた。
そうして、体を蛍里に向けた。
「あの日は、ごめん。突然、あんなことして。
でも、初めて会った時から折原さんのことが好き
で。本当に、好きで。言い訳するつもりじゃないけ
ど、なかなか俺の気持ちに気付いてくれないこと
に、イライラしてたんだ。だから、焦って、酒の勢
い借りたりして……」
ごめん、と、もう一度口にして滝田が頭を下げ
る。その滝田に、蛍里は「そんな」と声を漏らした。
滝田の言うように、自分はあまりにも彼の気持
ちに鈍感だったし、無防備すぎた。それに、彼が
“大人の男性”なのだと意識さえしていれば、あん
なことにならなかったはずだ。
蛍里は頭を下げたままの滝田の肩に触れ、
「謝らないで」と言った。滝田が顔を上げる。
そうして、伺うように蛍里の顔を見た。
「……嫌、だったよね。俺にキスされるの」
間違いなく、蛍里が答えに窮してしまうような
ことを滝田が訊く。蛍里は「ええっ!?」と心の中
で叫びながら、それでも小首を傾げて言った。
違って、夜景の見え方も違うけど、俺は気に入っ
てる。よく、仕事がしんどい時とか、何かモヤモ
ヤしてることがある時とかはここに来るんだ。
ぼんやりと街の灯りを眺めながらコーヒー飲んだ
りしてさ」
じっと夜景を眺めたままそう言うと、滝田は
窓ガラス越しに蛍里を見て微笑んだ。「そうだ
ったんだ」とだけ呟いて、蛍里もガラスに映り
こんだ滝田に目を向ける。
滝田は、仕事も出来て、人望もあって、要領も
よくて、何となく、悩んでいる姿は想像しづらか
ったけれど……。
それは蛍里の勝手な思い込みで、まだ、自分
の知らない滝田の顔が、いくつもあるに違いない。
蛍里は今まで知ることのなかった滝田の一面
を知って、少しだけ得をした気分だった。
「実はさ……あの日、折原さんに手を出しちゃ
った後も、ずっとここに来てたんだ」
唐突に、滝田があの夜のことを口にしたので、
蛍里は思わず彼を向いてしまう。滝田も、蛍里
を見つめている。
その眼差しは、いつの間にか、あの夜と同じ
ものになっていて、蛍里は緊張からごくりと唾を
飲んだ。
「ああ、早まったな、とか、馬鹿なことしちゃっ
たな、とか、キスする前に戻りてーな、とか。この
夜景見ながら一人でうだうだ考えてて……それ
で、会いに行けなかった」
切なげに目を細めてそう言った滝田に、蛍里
は頷く。
彼と同じように自分も悩んでいたけれど、もし
かしたら、その想いの重さはずいぶん違うのか
も知れないけれど……互いにそのことを思って
過ごしたこの数日間は、きっと長かったに違い
ない。
「わたしもずっと、滝田くんのこと、考えてた」
ぽつり、ぽつりと、そう口にした蛍里に、滝田
は唇を噛んで頷いた。
そうして、体を蛍里に向けた。
「あの日は、ごめん。突然、あんなことして。
でも、初めて会った時から折原さんのことが好き
で。本当に、好きで。言い訳するつもりじゃないけ
ど、なかなか俺の気持ちに気付いてくれないこと
に、イライラしてたんだ。だから、焦って、酒の勢
い借りたりして……」
ごめん、と、もう一度口にして滝田が頭を下げ
る。その滝田に、蛍里は「そんな」と声を漏らした。
滝田の言うように、自分はあまりにも彼の気持
ちに鈍感だったし、無防備すぎた。それに、彼が
“大人の男性”なのだと意識さえしていれば、あん
なことにならなかったはずだ。
蛍里は頭を下げたままの滝田の肩に触れ、
「謝らないで」と言った。滝田が顔を上げる。
そうして、伺うように蛍里の顔を見た。
「……嫌、だったよね。俺にキスされるの」
間違いなく、蛍里が答えに窮してしまうような
ことを滝田が訊く。蛍里は「ええっ!?」と心の中
で叫びながら、それでも小首を傾げて言った。
