激辛ピザにはなってしまったが、何とか食べら
れるくらいにはなりそうだ。気を取り直してサラダ
を食べ始めた蛍里に、結子は「でもさぁ」と話を
続けた。
「結婚式の全員ご招待もちょっと驚いたけど、
谷口さんがホテルで専務と鉢合わせたって話の
方が、もっとビックリよね。ホテルなんて沢山ある
のに、そんな偶然あるんだー、って思ったもん」
うんうん、と頷きながらそう言った結子に、蛍里
は目を見開き、ピタリと手を止めた。
いま、彼女は何と言ったのだろう?
とくとく、と鼓動が急に速くなる。訊かない方が
いいかも知れない。このまま聞き流した方が。
頭ではそう思うのに、やはり確かめずにはいら
れない。蛍里はごくりと唾を呑むと、顔を上げた。
「五十嵐さん、その話って……」
“本当ですか?”の、ひと言までは言えなかっ
た蛍里に、結子は「うん。だからね」と詳細を口
にする。
「二人で化粧室行った時、こっそり彼女が話し
てくれたのよ。彼と式場の下見に行ったホテル
に、偶然専務がいたらしいの。向こうは気付いて
なかったみたいだけど、すごく綺麗な女性を連れ
てたって。きっと婚約者よね、その人。ロビーです
れ違っただけだけど、お似合いのカップルだった、
っていう谷口さんの情報なんだけど……」
最後の方は、耳に入らなかった。結子の声が
次第に遠くなって、やがて無音に変わる。
蛍里は、昨夜の専務の笑みを思い出していた。
きり、と胸が苦しくなる。蛍里は唇を噛んだ。
こんな気持ち、気付かなければ良かった。
専務が笑いかけてくれるだけで嬉しいだとか、
目が合わないだけで悲しくなるだとか。そんな
の、気付いたところでどうしようもなかったのだ。
彼は結婚する。
他に好きな人がいようと、いまいと。
彼には決められた相手がいる。
そんなこと、わかりきっていたのに、どうして
自分はいま、こんなに泣きそうになっているのだ
ろう?
カシャン、とフォークが手から滑り落ちた。
刺し損ねたプチトマトが、コロコロとテーブル
の上を転がってゆく。
「……らさん、折原さん?」
ようやく結子の声が耳に届いて、蛍里は顔を
上げた。結子が心配そうに自分を覗き込んでい
る。テーブルの上を転がったプチトマトは、結子
が拾ってナプキンに包んでくれていた。
蛍里は、はっとして、皿の隣に転がっている
フォークを拾った。
「ごめんなさい。わたしったら………」
蛍里は慌ててこの場を取り繕うとした。
けれど、上手く笑えない。
じっと、結子に見つめられれば見つめられるほ
ど、どんどん顔が強張ってしまう。
れるくらいにはなりそうだ。気を取り直してサラダ
を食べ始めた蛍里に、結子は「でもさぁ」と話を
続けた。
「結婚式の全員ご招待もちょっと驚いたけど、
谷口さんがホテルで専務と鉢合わせたって話の
方が、もっとビックリよね。ホテルなんて沢山ある
のに、そんな偶然あるんだー、って思ったもん」
うんうん、と頷きながらそう言った結子に、蛍里
は目を見開き、ピタリと手を止めた。
いま、彼女は何と言ったのだろう?
とくとく、と鼓動が急に速くなる。訊かない方が
いいかも知れない。このまま聞き流した方が。
頭ではそう思うのに、やはり確かめずにはいら
れない。蛍里はごくりと唾を呑むと、顔を上げた。
「五十嵐さん、その話って……」
“本当ですか?”の、ひと言までは言えなかっ
た蛍里に、結子は「うん。だからね」と詳細を口
にする。
「二人で化粧室行った時、こっそり彼女が話し
てくれたのよ。彼と式場の下見に行ったホテル
に、偶然専務がいたらしいの。向こうは気付いて
なかったみたいだけど、すごく綺麗な女性を連れ
てたって。きっと婚約者よね、その人。ロビーです
れ違っただけだけど、お似合いのカップルだった、
っていう谷口さんの情報なんだけど……」
最後の方は、耳に入らなかった。結子の声が
次第に遠くなって、やがて無音に変わる。
蛍里は、昨夜の専務の笑みを思い出していた。
きり、と胸が苦しくなる。蛍里は唇を噛んだ。
こんな気持ち、気付かなければ良かった。
専務が笑いかけてくれるだけで嬉しいだとか、
目が合わないだけで悲しくなるだとか。そんな
の、気付いたところでどうしようもなかったのだ。
彼は結婚する。
他に好きな人がいようと、いまいと。
彼には決められた相手がいる。
そんなこと、わかりきっていたのに、どうして
自分はいま、こんなに泣きそうになっているのだ
ろう?
カシャン、とフォークが手から滑り落ちた。
刺し損ねたプチトマトが、コロコロとテーブル
の上を転がってゆく。
「……らさん、折原さん?」
ようやく結子の声が耳に届いて、蛍里は顔を
上げた。結子が心配そうに自分を覗き込んでい
る。テーブルの上を転がったプチトマトは、結子
が拾ってナプキンに包んでくれていた。
蛍里は、はっとして、皿の隣に転がっている
フォークを拾った。
「ごめんなさい。わたしったら………」
蛍里は慌ててこの場を取り繕うとした。
けれど、上手く笑えない。
じっと、結子に見つめられれば見つめられるほ
ど、どんどん顔が強張ってしまう。
