きっと、これは本音だ。
泰然自若としたその振舞いからは想像も出来
ない、彼の数少ない本音。
その胸の内を聞いたのは、蛍里は初めてでは
なかったけれど。
蛍里はふと、結子から聞いた話を思い出した。
どこから、どうやって情報を仕入れてくるのか?
結子は社内の情報に、やたら詳しかった。
その結子の話では、どうやら、榊専務は社長
の実子ではなく、“養子”なのだということ。
「さすがに、どういった経緯かわからないんだ
けどね」
と、アイスコーヒーをストローでかき混ぜなが
らそう言った結子は、身を乗り出してこう言った
のだ。
「社長の奥さんは、専務の母方のお姉さんで、
社長夫婦に子供が出来なかったから専務を養子
に引き取ったみたい。だから、社長と専務の間に
は血の繋がりがないのよ。確かにそう言われて
みれば、どこも似てないわよね、あの二人。あ、
これはここだけの話だからね」
得意そうに、にっ、と口元に笑みを浮かべ蛍里
の顔を覗いた結子に、蛍里は感心を通り越して、
恐怖さえ覚えていた。
まさか、盗聴器を仕込んでいるわけではなか
ろうな、と、疑ってしまったほどだ。
ただただ、結子の話に目を丸くしている蛍里
に、結子はさらに、したり顔で言った。
「情報ってゆうのは、必ず誰かが“漏らす”もの
なのよ」
それ以来、蛍里は結子に自分の話をしなくな
った。
「俺たちにはわからない重圧とか、色々ありま
すよね。齢だってそう変わらないのに。専務の気
持ち、何となくですけど、想像できます」
思いがけず、専務の心の内を垣間見た滝田が、
当たり障りのないことを口にする。その言葉に
また、専務が自嘲の笑みを深めた時だった。
滝田が身を乗り出してフロントガラスを指差し
た。
「次の信号を右折してすぐの、コンビニの前辺
りで降ろしてもらえますか?俺、そこからは歩く
んで」
専務がウインカーを出す。煌々と灯りが漏れ
るコンビニの前には、幾人かの人影があった。
震災時、コンビニは帰宅困難者へのトイレの
貸し出しや、電源、水道水の提供など、被災者
の支援活動を行う役割がある。地震の被害が
それほど大きくなければ、店内の商品だって買
えるし、滝田がここから歩くと言ったのも頷け
た。
「ありがとうございました」
車を降り、ドアを開けたままで専務に礼を言
うと、滝田は蛍里に笑みを向けた。蛍里も手を
振りながら笑みを返す。本当なら、蛍里もここか
ら歩いて帰ることが出来ないわけではなかった
が、踵は擦り剝けて痛かったし、専務に訊いて
みたいこともあった。
泰然自若としたその振舞いからは想像も出来
ない、彼の数少ない本音。
その胸の内を聞いたのは、蛍里は初めてでは
なかったけれど。
蛍里はふと、結子から聞いた話を思い出した。
どこから、どうやって情報を仕入れてくるのか?
結子は社内の情報に、やたら詳しかった。
その結子の話では、どうやら、榊専務は社長
の実子ではなく、“養子”なのだということ。
「さすがに、どういった経緯かわからないんだ
けどね」
と、アイスコーヒーをストローでかき混ぜなが
らそう言った結子は、身を乗り出してこう言った
のだ。
「社長の奥さんは、専務の母方のお姉さんで、
社長夫婦に子供が出来なかったから専務を養子
に引き取ったみたい。だから、社長と専務の間に
は血の繋がりがないのよ。確かにそう言われて
みれば、どこも似てないわよね、あの二人。あ、
これはここだけの話だからね」
得意そうに、にっ、と口元に笑みを浮かべ蛍里
の顔を覗いた結子に、蛍里は感心を通り越して、
恐怖さえ覚えていた。
まさか、盗聴器を仕込んでいるわけではなか
ろうな、と、疑ってしまったほどだ。
ただただ、結子の話に目を丸くしている蛍里
に、結子はさらに、したり顔で言った。
「情報ってゆうのは、必ず誰かが“漏らす”もの
なのよ」
それ以来、蛍里は結子に自分の話をしなくな
った。
「俺たちにはわからない重圧とか、色々ありま
すよね。齢だってそう変わらないのに。専務の気
持ち、何となくですけど、想像できます」
思いがけず、専務の心の内を垣間見た滝田が、
当たり障りのないことを口にする。その言葉に
また、専務が自嘲の笑みを深めた時だった。
滝田が身を乗り出してフロントガラスを指差し
た。
「次の信号を右折してすぐの、コンビニの前辺
りで降ろしてもらえますか?俺、そこからは歩く
んで」
専務がウインカーを出す。煌々と灯りが漏れ
るコンビニの前には、幾人かの人影があった。
震災時、コンビニは帰宅困難者へのトイレの
貸し出しや、電源、水道水の提供など、被災者
の支援活動を行う役割がある。地震の被害が
それほど大きくなければ、店内の商品だって買
えるし、滝田がここから歩くと言ったのも頷け
た。
「ありがとうございました」
車を降り、ドアを開けたままで専務に礼を言
うと、滝田は蛍里に笑みを向けた。蛍里も手を
振りながら笑みを返す。本当なら、蛍里もここか
ら歩いて帰ることが出来ないわけではなかった
が、踵は擦り剝けて痛かったし、専務に訊いて
みたいこともあった。
