「もっ、申し訳ありません!!!」
昨日と同様に、小声で叫びながら失礼を詫び
る。こんなことなら、デスクの引き出しに常備し
てあるクッキーを全部食べておけば良かったと、
後悔したところでもう遅い。鳴ってしまった腹の
虫は、どうにも誤魔化せない。
ここが大音量のBGMが流れるカフェかレスト
ランなら聴こえなかったのに……。
表情を止めたままの榊専務を前にそんな現実
逃避をしていた蛍里の耳に、ぷっ、と吹き出す声
が聴こえて、蛍里は顔を上げた。
「いや、失礼。……ずいぶん大きな音だったか
ら、ちょっと可笑しくて。つい……」
そう言いながらも、くつくつ、と笑いを堪えら
れないといった様子で、榊専務が白い歯を見せて
いる。蛍里はその笑顔に思わず目を見開き、そう
してまた、別の意味で頬を染めた。
昨日見た柔らかな微笑みとも違う、子供のよう
な屈託のない笑顔だった。こんな風に、笑うこと
があるなんて。いつも冷静沈着で、感情の変化に
乏しい人だと、勝手に思っていた。なのに……。
今まで知ることのなかった彼の一面から、蛍里
は目が離せなかった。じぃ、と自分を見つめてい
る蛍里に気付いて目に滲んだ涙を拭うと、榊専務
が笑みを残したままの顔で言う。
「別に謝る必要は何もありませんよ。誰だって
お腹が空けば、腹くらい鳴りますから。でも、
ちょうど良かった。その作業が終わったら付き合
って欲しいところがあるんです。まだ十一時を
過ぎたばかりですが、着替えて駐車場の入り口で
待っていてもらえますか?」
ちら、と腕時計に目をやってそんな指示を出し
た専務に蛍里は状況が呑み込めず、首を傾げた。
「あの、付き合って欲しいところって、いっ
たい」
自分が、榊専務と社外に出なければならない
用事なんて、見当もつかない。仕事、ではないの
だろうか?不安そうな顔をして榊専務を覗き込む
と、彼は蛍里の心の内を察したように、頷いた。
「大丈夫。仕事なので安心して付いて来てくだ
さい。それとこれ、枚数が多いからホチキスでは
止まらないと思います。これで綴じてまとめてく
ださい」
デスクの引き出しから、書類を留めるガチャッ
クを取り出して蛍里に手渡す。蛍里は、はい、と
頷くと、榊専務の視線から逃げるように背を向け、
コピー機に向かった。
資料を拡大コピーし、セットし終えるまで、
蛍里はまた腹が鳴らないよう、できるだけ浅く息
をしていた。
「ねぇ。何話してたの?」
作り終えた資料を渡し専務室からデスクに戻る
と、結子がひそひそ声で蛍里に訊いた。
昨日と同様に、小声で叫びながら失礼を詫び
る。こんなことなら、デスクの引き出しに常備し
てあるクッキーを全部食べておけば良かったと、
後悔したところでもう遅い。鳴ってしまった腹の
虫は、どうにも誤魔化せない。
ここが大音量のBGMが流れるカフェかレスト
ランなら聴こえなかったのに……。
表情を止めたままの榊専務を前にそんな現実
逃避をしていた蛍里の耳に、ぷっ、と吹き出す声
が聴こえて、蛍里は顔を上げた。
「いや、失礼。……ずいぶん大きな音だったか
ら、ちょっと可笑しくて。つい……」
そう言いながらも、くつくつ、と笑いを堪えら
れないといった様子で、榊専務が白い歯を見せて
いる。蛍里はその笑顔に思わず目を見開き、そう
してまた、別の意味で頬を染めた。
昨日見た柔らかな微笑みとも違う、子供のよう
な屈託のない笑顔だった。こんな風に、笑うこと
があるなんて。いつも冷静沈着で、感情の変化に
乏しい人だと、勝手に思っていた。なのに……。
今まで知ることのなかった彼の一面から、蛍里
は目が離せなかった。じぃ、と自分を見つめてい
る蛍里に気付いて目に滲んだ涙を拭うと、榊専務
が笑みを残したままの顔で言う。
「別に謝る必要は何もありませんよ。誰だって
お腹が空けば、腹くらい鳴りますから。でも、
ちょうど良かった。その作業が終わったら付き合
って欲しいところがあるんです。まだ十一時を
過ぎたばかりですが、着替えて駐車場の入り口で
待っていてもらえますか?」
ちら、と腕時計に目をやってそんな指示を出し
た専務に蛍里は状況が呑み込めず、首を傾げた。
「あの、付き合って欲しいところって、いっ
たい」
自分が、榊専務と社外に出なければならない
用事なんて、見当もつかない。仕事、ではないの
だろうか?不安そうな顔をして榊専務を覗き込む
と、彼は蛍里の心の内を察したように、頷いた。
「大丈夫。仕事なので安心して付いて来てくだ
さい。それとこれ、枚数が多いからホチキスでは
止まらないと思います。これで綴じてまとめてく
ださい」
デスクの引き出しから、書類を留めるガチャッ
クを取り出して蛍里に手渡す。蛍里は、はい、と
頷くと、榊専務の視線から逃げるように背を向け、
コピー機に向かった。
資料を拡大コピーし、セットし終えるまで、
蛍里はまた腹が鳴らないよう、できるだけ浅く息
をしていた。
「ねぇ。何話してたの?」
作り終えた資料を渡し専務室からデスクに戻る
と、結子がひそひそ声で蛍里に訊いた。
