敵将と剣を交える玉蓮の背後から迫る、一本の槍。一瞬だけ、玉蓮の瞳がそれを捉えるように動くが、すぐに前に戻る。遥か後方から放たれた、刹の矢がその槍兵の喉を正確に射抜いていたからだ。

「将軍からあの女を引き離せ!」

右翼から玉蓮に殺到しようとする、敵兵の波。

「てめえらの相手は俺たちだァ!」

それを食い止めるかのように、牙門の地を揺るがすほどの咆哮が響き渡り、敵の注意を引きつける。そこに、迅の双刀が嵐のようにきらめき、次々と血飛沫(ちしぶき)が上がった。

「後ろは任せろ」

朱飛の静かな声が響き、彼の騎馬隊が壁となって背後の敵を阻む。金属が激しくぶつかり合う音を背に玉蓮は口の端を上げ、そして、再び目の前の男に意識を戻した。

敵将の剣は、玉蓮の細い腕を今にも折らんと、容赦なく振り下ろされる。

「くっ」

刃を受け止めた瞬間、腕が痺れ、剣ごとへし折られるかのような衝撃が走る。だが、玉蓮は歯を食いしばり、刃先で剣筋をわずかにそらすと、そのまま敵将の懐へと、水が流れるようにするりと入り込んだ。

「なっ……」

敵将の声は、音にならない。

寸分の迷いもなく、返す刀でその胸を正確に突き刺す。甲冑(かっちゅう)のわずかな隙間を縫うように吸い込まれた刃は、鈍い音を奏でた。

——ズズズ

玉蓮の手のひらに伝わったのは、心臓を直接貫いた感触。敵将は、口からごぼりと血を吐き出しながら、信じられないものを見る目で玉蓮を見つめた。

「くそ……女が。この怪物(ばけもの)め……」

最後の言葉を呟いた敵将は、馬上で大きく揺れ、重い甲冑ごと地面に叩きつけられた。鈍い音を立てて地面に転がったその顔は、すでに生気を失い、虚ろな空を見上げている。