玉蓮の口元が、わずかに震えている。武者震いか、それとも恐怖なのか、自分でもわからない。赫燕の目が、玉蓮の心の奥底まで見透かすかのように、鋭く射抜いている。

その時、天幕の重い獣皮(じゅうひ)の入り口が開き、見慣れた、しかしこの場にはそぐわない柔和な姿が現れた。

「——お待ちください、赫燕将軍」

「永兄様」

天幕の入り口に現れたのは、劉永(りゅうえい)だった。父・劉義(りゅうぎ)からの増援部隊の到着を報せる伝令として、彼は数日前からこの地へ向かっていたのだ。そして、この戦の監視役も兼ねているという。

彼の表情からは、穏やかな光が消え、その瞳は、赫燕の真意を探るかのように、鋭く細められている。

「その策はあまりに危険です。ましてや、公主にそのような危険な役目を与えるなど!」

「部外者は黙ってろ、劉家の坊っちゃんよ」

赫燕は、劉永を一瞥(いちべつ)もせずに言い放つ。それまで軽口を叩いていた刹の笑みが消え、迅が気まずそうに視線を逸らす。天幕の中の全ての音が、ぴたりと止んだ。

劉永の顔にはいつもの柔らかな笑みは跡形もなく、その眉間には険しい影が刻まれている。対する赫燕は、まるで面白い見世物でも見つけたかのように、口の端を愉しげに吊り上げただけだった。

「劉義なら、俺の策に口出ししねえ」

「ですが——!」

「お頭」

なおも食い下がろうとした劉永を、玉蓮が短く制した。

「お役目、必ずや果たしてご覧にいれます」

まっすぐに見据えて答えた玉蓮を見て、赫燕はどこか満足そうに笑みを深めた。