そこに、ふわりと伽羅が香ったかと思うと、赫燕の足音が間近に迫った。彼は無言で玉蓮の前に立つと、手に持っていた布包みを、彼女の足元に放り投げた。
——ドサリ、と鈍い音が足元で響く。
布が解け、中身が転がり出る。見開かれたままの、光のない瞳。——敵将の、生首。
一気に濃厚な血の臭いが周囲に立ち込め、玉蓮は咄嗟に息を止める。
赫燕は拗ねた子供をあやすかのように、その場にゆっくりと屈み込んだ。大きな体が月明かりを遮り、玉蓮は完全に彼の影の中に包まれる。
「——玉蓮」
周囲の漆黒の色が濃くなる代わりに、目の前の男の顔だけが炎の明かりに照らされて浮かび上がる。男の指が、玉蓮の顎に触れてそのままゆっくりと持ち上げた。
「よくやった」
低く落とされた一言が胸に広がり、その中心にある心の臓を掴んで、律動を強めていく。昼間、地獄のような光景を無機質に眺めていた男の黒い瞳は、今、まさに玉蓮を映している。
玉蓮の胸の奥から、再びじわりと熱いものが込み上げた。それは、戦場で感じた、どの感情ともまた違う。恐怖でもなく、怒りでもなく、勝利の興奮でもない。
(……これは、なんだ)
この男の言葉一つで、心が揺れる。それも嵐のように。足元には、死臭を放つ生首。顎に触れる男の指。異常な光景だというのに、歓喜にも似た痺れが背筋を駆け上がる。
玉蓮は、無意識のうちに、歯を食いしばった。
彼の唇の端が、微かに持ち上がっていく。満足げに笑うと、彼はすっくと立ち上がり、待たせていた娼婦たちの肩を乱暴に抱き寄せる。
赫燕の背が天幕の中に消えた瞬間、それまで遠くに聞こえていた宴の喧騒が、どっと耳に流れ込んできた。彼がいたほんの少しの間だけ、世界から音が消えていたのだと、その時ようやく気づいた。
——ドサリ、と鈍い音が足元で響く。
布が解け、中身が転がり出る。見開かれたままの、光のない瞳。——敵将の、生首。
一気に濃厚な血の臭いが周囲に立ち込め、玉蓮は咄嗟に息を止める。
赫燕は拗ねた子供をあやすかのように、その場にゆっくりと屈み込んだ。大きな体が月明かりを遮り、玉蓮は完全に彼の影の中に包まれる。
「——玉蓮」
周囲の漆黒の色が濃くなる代わりに、目の前の男の顔だけが炎の明かりに照らされて浮かび上がる。男の指が、玉蓮の顎に触れてそのままゆっくりと持ち上げた。
「よくやった」
低く落とされた一言が胸に広がり、その中心にある心の臓を掴んで、律動を強めていく。昼間、地獄のような光景を無機質に眺めていた男の黒い瞳は、今、まさに玉蓮を映している。
玉蓮の胸の奥から、再びじわりと熱いものが込み上げた。それは、戦場で感じた、どの感情ともまた違う。恐怖でもなく、怒りでもなく、勝利の興奮でもない。
(……これは、なんだ)
この男の言葉一つで、心が揺れる。それも嵐のように。足元には、死臭を放つ生首。顎に触れる男の指。異常な光景だというのに、歓喜にも似た痺れが背筋を駆け上がる。
玉蓮は、無意識のうちに、歯を食いしばった。
彼の唇の端が、微かに持ち上がっていく。満足げに笑うと、彼はすっくと立ち上がり、待たせていた娼婦たちの肩を乱暴に抱き寄せる。
赫燕の背が天幕の中に消えた瞬間、それまで遠くに聞こえていた宴の喧騒が、どっと耳に流れ込んできた。彼がいたほんの少しの間だけ、世界から音が消えていたのだと、その時ようやく気づいた。

