闇を抱く白菊—天命の盤—復讐姫は、殺戮将軍の腕の中で咲き誇る。


「あ、あ……」

 太后から存在そのものを否定された王。その瞳は、救いを求めるように部屋の中を彷徨う。焦点の定まらない視線が、やがて一点に釘付けになった。あの香炉の欠片。

 王は、溺れる者が(わら)を掴む執念で地を這い、欠片へと肉薄した。そして、その欠片を震える両手で、乱暴に掴み取った。

「嘘だ……お前は、王たる私に偽りを申している! は、母上が私を、私の母を殺めるはずがない……母上は、私を愛している!」

 彼は、充血し焦点の合わない瞳で玉蓮を睨みつけた。

「私が証明してやる……これが、ただの香炉であることを!」

「大王……」

「母上、見てください……私が……私が母上の無実を……」

 王は一度も太后や玉蓮のいる方へと振り返ることなく、まるで何かに突き動かされるように、勢いよく扉を開け放つ。廊下は既に、炎の渦と化していた。猛烈な熱波と、炎が食らいつく木材の焦げる臭いが室内に流れ込む。

 龍袍(りゅうほう)を纏った男は、香炉の欠片を胸に抱え込んだまま、その炎の渦の中へと迷いなく身を投げた。自らの身を焼き尽くし、それが毒煙とならないことを証明するために。

「……ふ、まったく。優秀な崔家(さいけ)の血筋とは思えぬな。猛火に巻かれれば、香炉などただ砕け散るのみ。煙の毒性など確かめる術もないというのに。愚か者め」

 遊び終わった玩具を見るかの如く、王が消えた炎の中へ一瞬だけ冷たい視線を向け、太后はつまらなさそうにため息をついた。

 玉蓮は、無意識のうちに拳を握り閉めている自分に気づく。