二人の間に、新たな影が落ちた。ゆっくりと、闇の中から現れたかのように、赫燕がそこにいた。彼は倒れたまま呻いている男の頭を、つま先で無造作に転がす。
「……何だ、このザマは」
彼の視線は朱飛を通り越し、震える玉蓮に突き刺さった。まるで心の臓を直接見透かされているような感覚に、玉蓮の呼吸が止まる。彼が現れただけで、空気そのものが密度を増し、肌を圧迫してくる。
「威勢よく俺の軍に来たと思えば、男数人に囲まれて泣き喚くのが関の山か」
嘲るような響きに、焦げつくような熱が玉蓮の胸を走る。
「復讐だなんだと劉義のじじいのとこで息巻いてた威勢はどこへ行った、姫さん。お前の思いはその程度か」
それを聞いた瞬間、玉蓮の膝の震えが、ぴたりと止まった。恐怖で凍りついていた血が、一瞬にして沸騰する。玉蓮は、弾かれたように顔を上げる。潤んでいた瞳は乾き、目の前の男を射殺さんばかりの業火を宿して、強く睨み返した。
その刹那。
赫燕の動きが不意に止まった。愉悦に歪んでいたはずの唇はその形を失い、深淵のような瞳から、玉蓮を嬲る光が消え失せた。
その代わりに宿ったのは、まるで底なしの闇を覗き込むような、昏い光。目の前の男の瞳が、燃え盛る炎のような何かを映し、僅かに、そして鮮明に揺れている。
(瞳が……)
まるで、玉蓮を通して、ここではない遠い過去の幻影を見ているかのような——。しかし、その揺らぎは、瞬き一つをした後に、すぐに元の色に戻る。
「ほう……やっと、獰猛な山猫みたいな目になったな」
赫燕の口元に、再び笑みが浮かんだ。彼はゆったりと一歩、玉蓮に近づく。
その距離が縮まるごとに、玉蓮の心の臓は燃え盛るように激しく高鳴る。しかし、彼女は一歩も引かず、その場に両足を留めた。
「だが……」
赫燕は、玉蓮の耳元に顔を寄せると、誘惑するように甘く、底知れない冷たさを秘めた声で囁いた。
「その程度の悲鳴じゃ、玄済の王は喜ばねえぞ。あれはもっと、魂ごと引き裂くような叫びを好む。お前の姉があげた——」
——シャリン。
静寂を切り裂く、硬質な金属音。いつの間にか懐から抜き放った玉蓮の短剣が、男の顔の前で鈍い光を揺らめかせる。
「……何だ、このザマは」
彼の視線は朱飛を通り越し、震える玉蓮に突き刺さった。まるで心の臓を直接見透かされているような感覚に、玉蓮の呼吸が止まる。彼が現れただけで、空気そのものが密度を増し、肌を圧迫してくる。
「威勢よく俺の軍に来たと思えば、男数人に囲まれて泣き喚くのが関の山か」
嘲るような響きに、焦げつくような熱が玉蓮の胸を走る。
「復讐だなんだと劉義のじじいのとこで息巻いてた威勢はどこへ行った、姫さん。お前の思いはその程度か」
それを聞いた瞬間、玉蓮の膝の震えが、ぴたりと止まった。恐怖で凍りついていた血が、一瞬にして沸騰する。玉蓮は、弾かれたように顔を上げる。潤んでいた瞳は乾き、目の前の男を射殺さんばかりの業火を宿して、強く睨み返した。
その刹那。
赫燕の動きが不意に止まった。愉悦に歪んでいたはずの唇はその形を失い、深淵のような瞳から、玉蓮を嬲る光が消え失せた。
その代わりに宿ったのは、まるで底なしの闇を覗き込むような、昏い光。目の前の男の瞳が、燃え盛る炎のような何かを映し、僅かに、そして鮮明に揺れている。
(瞳が……)
まるで、玉蓮を通して、ここではない遠い過去の幻影を見ているかのような——。しかし、その揺らぎは、瞬き一つをした後に、すぐに元の色に戻る。
「ほう……やっと、獰猛な山猫みたいな目になったな」
赫燕の口元に、再び笑みが浮かんだ。彼はゆったりと一歩、玉蓮に近づく。
その距離が縮まるごとに、玉蓮の心の臓は燃え盛るように激しく高鳴る。しかし、彼女は一歩も引かず、その場に両足を留めた。
「だが……」
赫燕は、玉蓮の耳元に顔を寄せると、誘惑するように甘く、底知れない冷たさを秘めた声で囁いた。
「その程度の悲鳴じゃ、玄済の王は喜ばねえぞ。あれはもっと、魂ごと引き裂くような叫びを好む。お前の姉があげた——」
——シャリン。
静寂を切り裂く、硬質な金属音。いつの間にか懐から抜き放った玉蓮の短剣が、男の顔の前で鈍い光を揺らめかせる。

