闇を抱く白菊—天命の盤—復讐姫は、殺戮将軍の腕の中で咲き誇る。

◇◇◇

 秋の風が市場の香辛料と果物の香りを運ぶ中、阿扇(あせん)は玉蓮と街を歩いていた。朝、崔瑾(さいきん)に呼び出されたかと思えば……

「玉蓮殿の気分転換に、街に連れて行って差し上げてください。阿扇(あせん)には、護衛を頼みます」

 そう言って、崔瑾が朝議(ちょうぎ)に行ってしまったからだ。

 阿扇(あせん)は悪戯なほどに、にこやかな主の顔を思い出して、大きく息を吐く。

(この姫に、護衛など必要ではなかろう)

 何かあれば、傍にいる翠花(スイファ)を守りながらも、相手を圧倒してしまうほどの武を持っていることは明らかだ。ただ、おおやけに剣を持つことができない点だけが男よりも不利なだけ。

 視線の先では、(かんざし)の店に入った翠花(スイファ)が玉蓮に歩揺(ほよう)を差し出して笑っていた。

「奥様、こちらはいかがですか? 旦那様がなんでも買って良いとおっしゃったそうですよ」

「欲しいものは、ないのだけれど……」

 差し出された装飾具たちを視界に映す玉蓮の少し後ろに立ち、目の前の煌びやかなそれを手に取った。明らかに上等の石を使った、精巧(せいこう)で華美なもの。

(かんざし)でも、織物でも、お好きなようにされれば良いのでは。こちらの(ぎょく)は珍しいものかと。まあ、王宮とは勝手が違うかもしれませんが」

 玉蓮は、阿扇(あせん)の手の中の簪を一瞥(いちべつ)し、翠花(スイファ)に視線を戻す。そして、台の上に置かれた別のものを指し示す。