闇を抱く白菊—天命の盤—復讐姫は、殺戮将軍の腕の中で咲き誇る。

 そして、その場は(しょう)将軍と玉蓮だけとなり、風の音だけが重い空気に似合わずそよぐ。

「……(さい)夫人、人払いしてまで、お話しされたいこととは?」

「将軍、この度の(しょう)()様のこと、お父君も、将軍も心痛(しんつう)いかばかりかと存じます。実は、わたくしの姉も後宮に入って半月後に亡くなっているのです」

 玉蓮は胸元を押さえ、息を吸い込んだ。言葉にしようとしたものが、熱と共に喉奥に絡んで出てこない。唇は動いたが、ただ小さな吐息がこぼれるばかりだった。もう一度、小さく息を吐く。

「……大王が太子の頃です。(しょう)()様の痛みが、わたくしには、他人事に思えないのです」

「……(さい)夫人」

「わたくしは、姉の最期に何があったのか、真実を知りたいのです。本日も、何か手がかりがあればと思い、こちらに参りました」

崔瑾(さいきん)様の夫人といえど、あなたは敵国・白楊(はくよう)国の公主です。私に何を信じろと……」

「将軍。妹君、(しょう)()様の一件、王の気まぐれなどではないでしょう……ここ数年の記録を見れば、ある名が浮かびます」

 玉蓮は声を落とした。(しょう)将軍の眉がわずかに跳ねた。

「なぜ、それを」

「……異国から嫁いだばかりのわたくしにさえ、この国の異様さは手に取るようにわかります」

 沈黙が二人の間に落ちる。

(しょう)将軍。(しょう)()様は、今回、命拾いをなされました。しかし、次に王のご機嫌を損ねた時、果たして、旦那様は間に合うでしょうか。あるいは、(しょう)()様のお食事に、ほんの僅か、見慣れぬ薬草が混ぜられていたとして、誰がそれに気づけましょうか」

「それは!」