闇を抱く白菊—天命の盤—復讐姫は、殺戮将軍の腕の中で咲き誇る。

◇◇◇ 玉蓮 ◇◇◇

 玉蓮が、重ねられた手を見つめていると、書斎の外から、地響きのような大きな足音が聞こえてきた。その足音はぴたりと入り口で止まる。

「この音は、馬斗琉(ばとる)ですね」

 どこか呆れたように崔瑾(さいきん)は笑う。

「旦那様、馬斗琉(ばとる)将軍がお越しです」

「入りなさい」

 崔瑾(さいきん)の声に答えるように、巨躯(きょく)を揺らしながら馬斗琉(ばとる)が書斎に入る。卓の前まで進みいでて、きっちりと頭を下げた。

「玉蓮様もご一緒でしたか」

「ああ、少しだけ話を聞いてもらっていたのだ」

 馬斗琉(ばとる)は、玉蓮と崔瑾(さいきん)の手元を見て、どこか照れたように微笑んだ。

「側近の我々はヤキモキといたしましたが、仲睦まじい様子で何よりです」

 馬斗琉(ばとる)は、さらに笑みを深めると、玉蓮に向き直る。

「玉蓮様、崔瑾(さいきん)様があのように強引に事を進めるのは、とても珍しいことなのです。そのおかげで、朝廷ではいまだに崔瑾(さいきん)一派への風当たりが強いこと、強いこと」

馬斗琉(ばとる)

「特に、周礼(しゅうれい)様が何かにつけて、『白楊(はくよう)の姫君へのご執心』と面白おかしく、吹聴(ふいちょう)しておりますゆえ。あの男は、言葉を鱗で覆った毒蛇ですな。誰にも噛みつかぬまま、ただ絡みつき、相手の呼吸すら操ろうとする」

「——馬斗琉(ばとる)