周礼は相変わらず扇で口元を隠しているが、その瞳が鋭く細められた。崔瑾は周礼を一瞥し、再び前を見据えた。
「よって、まずは、いかなる危険からもお守りできるよう、我が屋敷にて、その身柄を保護いたします。これは、公主の安全を最優先に考えた上での、最善の策。そして、大王へのご報告は、しかるべき時に、この崔瑾が責任をもって執り行いましょう」
周礼の持つ扇がわずかに震える。
「しかし、後宮にお入りになれば、王も姫君の才を存分にお見抜きになられましょう。崔瑾殿。大王の楽しみを横から掻っ攫うような真似は、忠臣として、あってはならぬことですぞ」
周礼は、嘲りの色を滲ませながら挑発的な言葉を繰り出す。だが、崔瑾は、その言葉を浴びながら、自らの呼吸一つ、乱さなかった。周礼の粘つくような視線を受けても、瞬きの回数は変わらない。手に持つ組紐は、風も意志も受けぬように静止している。崔瑾はただ、何事も起こっていないかのようにして、そこに立つ。
「忠臣として、王を危険に晒すような真似はできぬ、と申し上げているのです」
周礼の顔から、微かな笑みが完全に消え失せる。崔瑾は、周礼の視線から一切の逃避をせず、まっすぐに彼を見つめ返した。

