鍵田氏が「幸せなメール」を受け取ったのは、二〇■■年九月■■日だ。その七日後である同月■■日は、鍵田氏の弟の誕生日だった。
当時流行していたゲームソフト(「■■■■■■■■■シリーズ」)を二作を購入し、弟は誕生日プレゼントとして、鍵田氏は「弟と二人で遊べるように」と一作ずつ両親からもらったそうだ。
誕生日ではなかった鍵田氏は、訪れた幸運にたいそう喜んだ。しかし、このときは「幸せなメール」を受信した七日目であることは、認識していなかったという。
さらに、「幸せなメール」を受信した九日目、二つ目の幸せが訪れた。それまで弟と共有で使っていた寝室から、一人部屋を持つことになったのだ。「弟とは仲が良かったが、念願の一人部屋だったため、本当にうれしかった」と鍵田氏は振り返っている。
鍵田氏が「幸せなメール」の存在を思い出したのは、このころだったと語る。
一人部屋になり、身の回りの整理をしている最中、携帯電話内のメールボックスも整理しようと思い立ったときである。不要なメールを削除している中で、■■氏から受け取った「幸せなメール」を開き、二つ目の幸せが訪れた日がちょうど受信後九日目であること、それに加え、弟の誕生日の日が受信から七日目であることにも気が付いた。
このとき、鍵田氏は「幸せなメール」が本物なのではないか、という思いを抱き始めた。
鍵田氏に「現在幸せですか」と問い合わせたところ、「幸せです」と返答があった。
翌十月、十三日目に訪れた幸せは、二つ目までとはやや異なった。それまではゲームソフト、部屋といった物理的な幸福であったが、三つ目の幸福は「できなかったことが、できるようになった」というものだった。
例えば、これまで苦手としていた英単語を覚える作業が、容易に覚えられるようになった、朝早く起きることに苦労していたが、親に起こされる前に起きられるようになったなど、鍵田氏が「これができればいい」と思っていたことが、少しずつ、あるいは突然にできるようになったと感じたそうだ。
この時点で、鍵田氏は「幸せなメール」を全面的に信じるようになった。しかし、この「幸せなメール」の存在を誰かに話すことや、転送することはしなかった。
「幸せなメール」を独占したいという意味合いよりも、広めてしまうことで「信じていない人」にされ、幸運が訪れなくなるのでは、と懸念したためだと述べている。
事実、「幸せなメール」は転送した場合、「信じていない人」になると明示されている。口頭で話した場合もそれに含まれるかは不明だったため、鍵田氏が誰にも話さなかったのは理解できる心情だろう。すでに三つの幸せが訪れていた鍵田氏は、「幸せなメール」を保存することを決断した。
十五日目に訪れた「四つ目の幸せ」は、鍵田氏が当時好意を寄せていた男子生徒B氏と、クラスで席替えをした際に、隣同士の席になったことだったそうだ。
席替えの時期はランダムで、席を決める方法は毎回くじ引きだった。クラス人数は三十人程度で、友人同士で隣り合うこともまれであると考えられる。
その後席替えをするたびに、鍵田氏はB氏と隣の席になった。二年生に進級した際にB氏とは別のクラスになったものの、およそ五か月の間二人が隣の席であったことは、くじ引きという方式では通常起こりえない確率だろう。
四つ目の幸せが訪れた十五日目より後は、二十一年という長い月日が必要とされた。当時中学一年生であった鍵田氏にとって、二十一年という期間は「想像できないほどに遠い未来に思えた」と語っている。十三歳の鍵田氏に、二十一年後の三十四歳の自分を想像するのは困難だっただろう。
鍵田氏に「現在幸せですか」と問い合わせたところ、「幸せです」と返答があった。
鍵田氏はその後何度か携帯電話の機種変更を行ったが、「幸せなメール」を保存し続けた。当時の携帯電話はSDカードなどの外部メモリが使用できなかったこともあり、携帯電話本体を保管していたという。
「幸せなメール」は転送してしまえば「信じていない人」になるため、パソコンに送るなどのバックアップを取ることもできない。データが消えてしまわないよう、たびたび充電し電源を入れるなど、細心の注意を払っていたとされる。
鍵田氏が「幸せなメール」を受信し、七日目に訪れた幸せは、「欲しかったゲームソフト」だった。九日目に訪れた幸せは、「自分の一人部屋を持つこと」だった。十三日目に訪れた幸せは、英単語を容易に覚えられる、朝起きられるようになるなどの、「これができたらいい」という願いが叶うことだった。十五日目に訪れた幸せは、「意中の男子生徒Bと約五か月間、隣同士の席になった」ことだった。
「チェーンメール」がもたらした幸せにしては、規模や内容が小さいと思えるかもしれない。しかし、十三歳の中学一年生の少女が求める幸せとしては、ごくありふれた願いだろう。そして、四つの幸福が受信後指定された日に叶えば、「幸せなメール」が実際に幸せをもたらすと確信するのも当然と考えられる。
この「幸せなメール」の特長である、「二十一年目の本当の幸せ」については、次節で紹介する。
鍵田氏に「現在幸せですか」と問い合わせたところ、「幸せです」と返答があった。



