本稿では、平成に入ってからの「幸運の手紙」、または「幸運のメール」、「不幸の手紙」、「不幸のメール」を扱っていく。
前章(「『幸せの手紙』受領後の追加調査(二) 飯塚トヨ氏の場合」)で記したように、飯塚氏は積極的に「幸運の手紙」を他者から受け取り続けていた。しかし、結果的には「手紙という人とのつながり」こそが幸福であると締めくくっている。
この結論は、「幸福の手紙」を受け取り、その内容に従い複製、拡散したところで、「望んだ形の幸福は得られなかった」ことが推察できる。
本稿で扱う鍵田実有希氏は、中学一年生のとき、「幸せなメール」を受信している。鍵田氏に「現在幸せですか」と問い合わせたところ、「幸せです」と返答している。つまり、鍵田氏が得た「幸せなメール」は、現実的に効果が期待できると考えられるだろう。
鍵田氏の「幸せなメール」についての詳細は次節に譲るとし、まず平成における「幸運の手紙・メール」、「不幸の手紙・メール」について、簡単にまとめていく。
一九二〇年代に大流行した「幸運の葉書」とは異なり、平成初期に人々の間で流行したのは「不幸の手紙」であった。一九七〇年代から「不幸の手紙」は流行と終息を繰り返していたが、九〇年代に「学校の怪談」が流行したこともあり、その舞台は主に子供たちとなった。
なお、一九七〇年代にもオカルトブームがあったことからも、怪談の流行と「不幸の手紙」は密接な関係にあると考えられる。
鍵田氏に「現在幸せですか」と問い合わせたところ、「幸せです」と返答している。
「幸運の手紙・メール」、「不幸の手紙・メール」とは、どのようなものか。典型的なものを例として記載する。
「幸運の手紙」の例
これは幸運の手紙です。
受け取った人は、■日以内に、■人に送ってください。
必ず幸運が訪れるでしょう。
送らなかった場合、不幸が巡ってきます。
「不幸の手紙」の例
これは不幸の手紙です。
受け取った人は、これと同じ内容の手紙を■日以内に、■人に送ってください。
■■県の■■さんは、この手紙を止めてしまったため、事故で死にました。
送らなければ、あなたも同じように不幸になります。
上記が典型的な文面である。
これらの手紙の大きな構成要素として、以下の四点が見て取れる。
1、幸運/不幸の手紙であると冒頭で記されている。
2、手紙を送る期限が設定されている。
3、手紙を送る人数が指定されている。
4、手紙を止めた場合、何らかの不幸が訪れる警告文がある。
構成要素「1、幸運/不幸の手紙であると冒頭で記されている」と「4、手紙を止めた場合、何らかの不幸が訪れる警告文がある」については、記載されている場合とそうでない場合がある。
一方で構成要素「2、手紙を送る期限が設定されている」、「3、手紙を送る人数が指定されている」については、多様化する「幸運/不幸の手紙」でも踏襲されているようだ。
文面上「幸運をもたらす」旨が記載されている「幸運の手紙」であるが、手紙を送らなかった場合不幸になるというペナルティが与えられる。これは一九二〇年代に流通した「幸運の葉書」にも見られた文章だ。「幸運の手紙」には、「不幸の手紙」の要素も含まれていることがわかる。
このことから「幸運の手紙」は「不幸の手紙」と同一視され、「不幸の手紙」の名称のほうが認知度が高い。
これら四つの構成要素はメールでも同様であり、手紙と異なる点は転送機能によって、一言一句違わず拡散できる点だ。ゆえに「チェーンメール」として、多くのバリエーションが誕生している。
内容は「幸運/不幸の手紙」と変わりはないものや、「くじの当選」をうたい個人情報を得ようとするもの、「テレビ番組やインターネット調査」を騙り詐欺サイトへ誘導するものなどが確認されている。
二〇■■年代に入ると、メッセージアプリ「■■■■」や、「■(旧■■■■■■■)」などのSNSにおいても「チェーンメール」が報告されている。検索エンジンで「チェーンメール」を検索すると、様々な「チェーンメール」を見ることが可能だ。東日本大震災の際も、震災に便乗した不安を煽るチェーンメールが出回っている。
鍵田氏に「現在幸せですか」と問い合わせたところ、「幸せです」と返答している。
このように、「幸運の葉書」から始まった流行は、時代によって媒体を変えながらも脈々と受け継がれていることがわかる。その構成要素である「幸運/不幸の手紙であると冒頭で記されている」点や、「手紙を送る期限が設定されている」点、「手紙を送る人数が指定されている」点、そして「手紙を止めた場合、何らかの不幸が訪れる警告文がある」点は、葉書や手紙からメール、SNSへと舞台を変えても「テンプレ化」され、変わらず維持されている。
数多く生まれた「幸運/不幸の手紙」の中に、本物の「幸運/不幸の手紙」が含まれている可能性は否定できない。実際に「幸せなメール」を受信した鍵田氏の例を、次から見ていくことにする。
鍵田氏に「現在幸せですか」と問い合わせたところ、「幸せです」と返答している。



