朝の光は、私の部屋に差し込むと同時に、私の意識を容赦なく現実へと引き戻す。カーテン越しの光は、冷たく、無情で、まるで私を拒むように、それでも向かい入れるかのように差し込んでくる。手元の原稿を見ると、文字が昨日の夜よりも濃く、膨らんでいるように見えた。書いたはずのない文章がまた増えている。
「愛されたい。認められたい。書きたい。どうして誰も私を救ってくれないの。」
手を止めても、文字は動き私を見つめる。それは、まるで私の存在を監視しているようだ。息を呑み、机に顔を伏せる。それでも文字は止まらない。私にはもうなす術がない。この文字たちは、私の心を映す鏡だ。残酷で、いつもは隠しているはずの私の本性が映る鏡だ。
昼、郵便受けに届いたのは、落選通知の山だった。賞は、会社は、世界はひとつ、またひとつと私を拒絶した。紙に書かれた言葉は、温かさも慰めもない、ただ私を突きはなつ「落選」の二文字だけだった。
「どうして、誰も……。」
声にならない叫びを、私は自分の胸に押し込んだ。
その夜、机に向かうと、異変がさらに強くなっていることに気がついた。原稿の文字は、勝手に行間を埋め、段落を作り、私のペンの先回りをしている。紙の上には、「私」の醜い感情のすべてが書き込まれていた。
「書きたい、書きたい、書きたい、…」その言葉が無限に繰り返され、私を追い詰める。息を吐き、手首をさすりながら、私はペンを握り続ける。これが異常だとはとっくに分かっている。でも、書くことを止めれば、「私」の存在は消えてしまう。文字だけが私を抱きしめてくれるのだから。
「書かなきゃ、いけないんだ。」
私は自分に言い聞かせた。すると、文字は形を変え、まるで私に語りかけるかのようになった。
「君はここにいる。君は愛されている。君は書くことでしか生きられない。」
息が荒くなる。この文字は、私の内面を映すのか、それとも私を操るのか。もやは、判断がつかない。私は書いているのか、書かされているのか。私は誰なのだろうか。
「君は君だよ。」
答えはすぐに紙に返ってきた。次第に現実の音が遠のいた。外の雨音も、時計の針の音も、世界の雑音も、すべてが薄れ、世界には文字だけが存在する。私はその前に座り、ただ身を委ねるのみ。世が明けても、私は机を離れられなかった。文字は紙の上で踊り、私の思考までも侵食していく。ふと、机の奥にある鏡が目に入った。顔はやつれ、目は焦点を失い、髪は乱れ、もう誰だか分からなかった。
翌日、友人からメッセージが届いた。
「元気?」
指先が震え、画面を何度も撫でる。返事を書こうとするが、文字が浮かばない。私の手は自然と原稿用紙に伸びていた。開いたままの画面を無視して動いていく。紙に書かれるのは同じような内容。
「愛されたい。認められたい。」
私は画面に何度も手を伸ばそうとした。でも、届かない。届くのは、紙の上のみ。紙だけが私の世界。私を認めて、愛してくれる。
数日が経つと、文字たちはさらに進化していた。原稿をめくるたび、文字が増え、行間が勝手に埋まっていく。そして、時折、私の名前ではない著名が現れる。筆跡は私のものに似ているが、微妙に違う。
「誰が…書いたの?」
私は外に出ていないし、部屋の中も私一人だ。私の問いかけは、紙に吸い込まれるだけ。現実世界が遠のいていく。手首が痛い。目は霞んでよくピントが合わない。肩が重い。でも、書くことを止められない。書くことを止めた瞬間、消えてしまいそうで怖いのだ。
そんな日々が続いたある夜、私はあることに気がついた。文字は、私をじっと見ている。紙の上で、私の意識を覗き込み、私の感情を操ろうとしている。
「愛されたい。認められたい。」
その言葉が、紙の上で生き物のように蠢いている。文字はまた形を変える。
「誰か私を愛してよ。誰か私を認めてよ。お願いだから、必要としてよ。」
息を荒くし、体を震わせながら、私はペンを必死に握る。文字は生きている。私はそれに逆らえない、抗えない。書くことでしか存在を確認できないから。書くことだけが、私を支えてくれるから。世界は冷たく何も答えてはくれないけど、文字は温かく抱きしめてくれる。私を分かってくれる。それだけが、私がまだ生きているのだと信じられるパーツだった。
「愛されたい。認められたい。書きたい。どうして誰も私を救ってくれないの。」
手を止めても、文字は動き私を見つめる。それは、まるで私の存在を監視しているようだ。息を呑み、机に顔を伏せる。それでも文字は止まらない。私にはもうなす術がない。この文字たちは、私の心を映す鏡だ。残酷で、いつもは隠しているはずの私の本性が映る鏡だ。
昼、郵便受けに届いたのは、落選通知の山だった。賞は、会社は、世界はひとつ、またひとつと私を拒絶した。紙に書かれた言葉は、温かさも慰めもない、ただ私を突きはなつ「落選」の二文字だけだった。
「どうして、誰も……。」
声にならない叫びを、私は自分の胸に押し込んだ。
その夜、机に向かうと、異変がさらに強くなっていることに気がついた。原稿の文字は、勝手に行間を埋め、段落を作り、私のペンの先回りをしている。紙の上には、「私」の醜い感情のすべてが書き込まれていた。
「書きたい、書きたい、書きたい、…」その言葉が無限に繰り返され、私を追い詰める。息を吐き、手首をさすりながら、私はペンを握り続ける。これが異常だとはとっくに分かっている。でも、書くことを止めれば、「私」の存在は消えてしまう。文字だけが私を抱きしめてくれるのだから。
「書かなきゃ、いけないんだ。」
私は自分に言い聞かせた。すると、文字は形を変え、まるで私に語りかけるかのようになった。
「君はここにいる。君は愛されている。君は書くことでしか生きられない。」
息が荒くなる。この文字は、私の内面を映すのか、それとも私を操るのか。もやは、判断がつかない。私は書いているのか、書かされているのか。私は誰なのだろうか。
「君は君だよ。」
答えはすぐに紙に返ってきた。次第に現実の音が遠のいた。外の雨音も、時計の針の音も、世界の雑音も、すべてが薄れ、世界には文字だけが存在する。私はその前に座り、ただ身を委ねるのみ。世が明けても、私は机を離れられなかった。文字は紙の上で踊り、私の思考までも侵食していく。ふと、机の奥にある鏡が目に入った。顔はやつれ、目は焦点を失い、髪は乱れ、もう誰だか分からなかった。
翌日、友人からメッセージが届いた。
「元気?」
指先が震え、画面を何度も撫でる。返事を書こうとするが、文字が浮かばない。私の手は自然と原稿用紙に伸びていた。開いたままの画面を無視して動いていく。紙に書かれるのは同じような内容。
「愛されたい。認められたい。」
私は画面に何度も手を伸ばそうとした。でも、届かない。届くのは、紙の上のみ。紙だけが私の世界。私を認めて、愛してくれる。
数日が経つと、文字たちはさらに進化していた。原稿をめくるたび、文字が増え、行間が勝手に埋まっていく。そして、時折、私の名前ではない著名が現れる。筆跡は私のものに似ているが、微妙に違う。
「誰が…書いたの?」
私は外に出ていないし、部屋の中も私一人だ。私の問いかけは、紙に吸い込まれるだけ。現実世界が遠のいていく。手首が痛い。目は霞んでよくピントが合わない。肩が重い。でも、書くことを止められない。書くことを止めた瞬間、消えてしまいそうで怖いのだ。
そんな日々が続いたある夜、私はあることに気がついた。文字は、私をじっと見ている。紙の上で、私の意識を覗き込み、私の感情を操ろうとしている。
「愛されたい。認められたい。」
その言葉が、紙の上で生き物のように蠢いている。文字はまた形を変える。
「誰か私を愛してよ。誰か私を認めてよ。お願いだから、必要としてよ。」
息を荒くし、体を震わせながら、私はペンを必死に握る。文字は生きている。私はそれに逆らえない、抗えない。書くことでしか存在を確認できないから。書くことだけが、私を支えてくれるから。世界は冷たく何も答えてはくれないけど、文字は温かく抱きしめてくれる。私を分かってくれる。それだけが、私がまだ生きているのだと信じられるパーツだった。



