「それよりもさっ、ほら、早くサッカーしようよ」
僕はざわついた心を隠そうと、翔太くんを急かすように言った。
翔太くんは一瞬、口を尖らしてから「っすね」と少年みたいな顔をして笑った。
公園の明かりに優しく照らされている翔太くんの笑顔を見ると、僕の胸は何度も小さく跳ねてしまう。
「じゃ、パスからね、春馬さん」
「あ、うん」
「利き足じゃない方の足をボールの横に置いてー、利き足の土踏まず辺りでね、ボールをこうして、こうやって……ポーンって蹴ってみて。真っ直ぐに転がるから」
僕の隣に立った翔太くんは、僕に見本を見せながら軽くボールを蹴った。
翔太くんの蹴ったボールは宣言通り真っ直ぐに転がった。
「おぉ……」
僕は静かに驚いた。
どこが正面かも分からないような球体を、こんなにも簡単に操るなんてすごい。
「はい、次は春馬さんの番ね」
サッカーボールを取りに行った翔太くんが言った。
(利き足じゃない方の足をボールの横に置いてから……)
翔太くんに教えてもらったことを順番に意識して、足を動かしてみる。
「それで、ボールをポーンと蹴るっ」
右足を振り子のように動かすと、くるぶし付近にサッカーボールの軽くて弾む重みがした。
「わあ」
ボールが翔太くんに向かってコロコロと真っ直ぐに転がっていく。
人生で初めて思った通りに蹴れたかもしれない。
「見て!真っ直ぐ行った!」
僕は両手でガッツポーズを作って言った。
「うん、上手い上手い!春馬さんいい感じ!」
僕が蹴ったボールを足で止めながら、翔太くんが褒めてくれた。
「ふふっ、初めて思ったところに転がせたよ」
「ほんとに?じゃあ俺、春馬さんの初めての成功を見たってこと?」
「そうそう!」
僕はつい嬉しくなって、翔太くんに向かって大きく頷いた。
「じゃあ、もっともっと上達させるよ、俺が」
そう言って笑った翔太くんが、僕に向かってボールを軽く蹴った。
「そのまま、さっきの動きになるように、俺にボール蹴り返してみて」
「え?う、うん」
僕は慌てて、転がってくるボールを見ながら蹴り返した。
すると、ボールは小さく左に曲がりながら翔太くんの元へ転がって行った。
「え、いいじゃん。めっちゃ上手だよ、春馬さん」
逸れたボールを足で受け止めた翔太くんは、また褒めてくれた。
「この調子で何回か練習してたら、そのうち無意識に真っ直ぐ蹴れるようになるよ」
翔太くんは八重歯が見える笑顔を作りながら軽く拍手をする。
「じゃ、どんどんいこう」
そう言った翔太くんは、さっきよりも速いスピードのパスをした。
僕は翔太くんから言われた通りの動きをして、ボールを蹴り返す。
そうすると、すぐに翔太くんは僕にまた蹴り返してくる。
慣れない動きに、慣れないスピード感。
僕はどんどんスピードアップするパスに対して、必死にボールを真っ直ぐ転がせるように右足を動かすことしかできない。
「お、いいね」
「そうっ……かな」
「ナイスナイス、コツ掴むの上手いね」
「ありがと」
「左足でも同じように蹴れる?」
「っ、どうかなぁ」
こうして、翔太くんに返事をしながら3分か、4分くらいパスをし続けていると、徐々に僕の息は上がってきた。呼吸だけでなく、バク、バク、と胸の音も大きくなっている気がする。
(あれ……?)
呼吸や脈拍が上がるにつれて、翔太くんへのドキドキが増しているのか、身体がギブアップといっているのか、分からなくなってきてしまう。
(なんだっけ、これ……なんかあったよな……)
身体の生理現象と恋愛感情とを混同してしまう現象の名前は何だったかと必死に思い出そうとする。
(翔太くんのことは元々かっこいいって思ってたわけだし、これは、ただの疲労な……はず)
そう思って翔太くんを見ると、翔太くんはにこっと笑い返してくれた。
(…… かっこいい)
噛み締めるように、心の中でつぶやいた。
でも、確実に身体の限界も近づいてきている。
僕が不器用なパスをするたびに、翔太くんは嬉しそうに僕を褒めて八重歯を見せて笑ってくれる。
だから今、僕が根を上げてしまうと、翔太くんの笑顔が途切れてしまう。
ずっと眺めていたい。
舞台でスポットライトを浴びる役者を見るように、僕は公園の明かりに照らされて輝いている翔太くんをまだ眺めていたい。
「あ、春馬さん、大丈夫?」
はあ、はあ、と肩で呼吸し始めた僕の様子を見た翔太くんが言った。
「だいっ……じょうぶ」
「休憩する?」
「いや、ほんと……もうちょっと……だけ……」
パス練習を止めないでほしい。
そう言おうと思った瞬間、視界がぐらりと逆さまになった。
ドスンッ。
身体の左側と右手に鈍い痛みが走った。
どうやら、蹴り返そうとしたボールの上に乗ってしまった僕は、体勢を崩して地面に転げてしまったらしい。
「春馬さん!!」
翔太くんが大声で僕の名前を呼びながら走ってくる。
「いたた……」
身体についた砂を払い、ゆっくり起きあがろうした瞬間、今度は右の足首に鋭い痛みが走った。
(いっ……)
ズキズキと痛みが足首から駆け上がってくる。
「動かないで!」
翔太くんの声がビリビリと僕の身体を包み込んだ。
「痛いところはどこ?」
「右の足首と左の上半身……」
「春馬さん、なんとなくでもいいから、今なにが起きたか説明できる?」
「たぶん、ボールを蹴り返そうとして、転んだ……かな」
「これ、指の数何本に見える?」
僕は翔太くんがVサインをしているのを見て、「二本」と答えた。
「……よかった。脳震盪は起こしてなさそう」
翔太くんは胸に手を当てて大きくため息をついた。
「えっと、足は……かなり強めに捻挫したかもね」
翔太くんは僕の右足首を見て、少し顔を歪めた。
「春馬さん、俺の家に行こう」
「翔太くんの家?」
「そう。応急手当する」
「いやいや、悪いよそんなの!それに、夜ご飯食べるのも遅くなるしさ。これくらい大丈夫だって」
「ご飯は俺の家で食べたらいいし。それより、ちゃんとすぐに手当てしないと、痛みが長引くよ」
真顔になった翔太くんは、僕の目をじっと見て言った。
「ね?春馬さん?」
僕は翔太くんの勢いに押されて、ゆっくりと首を縦に振った。
僕はざわついた心を隠そうと、翔太くんを急かすように言った。
翔太くんは一瞬、口を尖らしてから「っすね」と少年みたいな顔をして笑った。
公園の明かりに優しく照らされている翔太くんの笑顔を見ると、僕の胸は何度も小さく跳ねてしまう。
「じゃ、パスからね、春馬さん」
「あ、うん」
「利き足じゃない方の足をボールの横に置いてー、利き足の土踏まず辺りでね、ボールをこうして、こうやって……ポーンって蹴ってみて。真っ直ぐに転がるから」
僕の隣に立った翔太くんは、僕に見本を見せながら軽くボールを蹴った。
翔太くんの蹴ったボールは宣言通り真っ直ぐに転がった。
「おぉ……」
僕は静かに驚いた。
どこが正面かも分からないような球体を、こんなにも簡単に操るなんてすごい。
「はい、次は春馬さんの番ね」
サッカーボールを取りに行った翔太くんが言った。
(利き足じゃない方の足をボールの横に置いてから……)
翔太くんに教えてもらったことを順番に意識して、足を動かしてみる。
「それで、ボールをポーンと蹴るっ」
右足を振り子のように動かすと、くるぶし付近にサッカーボールの軽くて弾む重みがした。
「わあ」
ボールが翔太くんに向かってコロコロと真っ直ぐに転がっていく。
人生で初めて思った通りに蹴れたかもしれない。
「見て!真っ直ぐ行った!」
僕は両手でガッツポーズを作って言った。
「うん、上手い上手い!春馬さんいい感じ!」
僕が蹴ったボールを足で止めながら、翔太くんが褒めてくれた。
「ふふっ、初めて思ったところに転がせたよ」
「ほんとに?じゃあ俺、春馬さんの初めての成功を見たってこと?」
「そうそう!」
僕はつい嬉しくなって、翔太くんに向かって大きく頷いた。
「じゃあ、もっともっと上達させるよ、俺が」
そう言って笑った翔太くんが、僕に向かってボールを軽く蹴った。
「そのまま、さっきの動きになるように、俺にボール蹴り返してみて」
「え?う、うん」
僕は慌てて、転がってくるボールを見ながら蹴り返した。
すると、ボールは小さく左に曲がりながら翔太くんの元へ転がって行った。
「え、いいじゃん。めっちゃ上手だよ、春馬さん」
逸れたボールを足で受け止めた翔太くんは、また褒めてくれた。
「この調子で何回か練習してたら、そのうち無意識に真っ直ぐ蹴れるようになるよ」
翔太くんは八重歯が見える笑顔を作りながら軽く拍手をする。
「じゃ、どんどんいこう」
そう言った翔太くんは、さっきよりも速いスピードのパスをした。
僕は翔太くんから言われた通りの動きをして、ボールを蹴り返す。
そうすると、すぐに翔太くんは僕にまた蹴り返してくる。
慣れない動きに、慣れないスピード感。
僕はどんどんスピードアップするパスに対して、必死にボールを真っ直ぐ転がせるように右足を動かすことしかできない。
「お、いいね」
「そうっ……かな」
「ナイスナイス、コツ掴むの上手いね」
「ありがと」
「左足でも同じように蹴れる?」
「っ、どうかなぁ」
こうして、翔太くんに返事をしながら3分か、4分くらいパスをし続けていると、徐々に僕の息は上がってきた。呼吸だけでなく、バク、バク、と胸の音も大きくなっている気がする。
(あれ……?)
呼吸や脈拍が上がるにつれて、翔太くんへのドキドキが増しているのか、身体がギブアップといっているのか、分からなくなってきてしまう。
(なんだっけ、これ……なんかあったよな……)
身体の生理現象と恋愛感情とを混同してしまう現象の名前は何だったかと必死に思い出そうとする。
(翔太くんのことは元々かっこいいって思ってたわけだし、これは、ただの疲労な……はず)
そう思って翔太くんを見ると、翔太くんはにこっと笑い返してくれた。
(…… かっこいい)
噛み締めるように、心の中でつぶやいた。
でも、確実に身体の限界も近づいてきている。
僕が不器用なパスをするたびに、翔太くんは嬉しそうに僕を褒めて八重歯を見せて笑ってくれる。
だから今、僕が根を上げてしまうと、翔太くんの笑顔が途切れてしまう。
ずっと眺めていたい。
舞台でスポットライトを浴びる役者を見るように、僕は公園の明かりに照らされて輝いている翔太くんをまだ眺めていたい。
「あ、春馬さん、大丈夫?」
はあ、はあ、と肩で呼吸し始めた僕の様子を見た翔太くんが言った。
「だいっ……じょうぶ」
「休憩する?」
「いや、ほんと……もうちょっと……だけ……」
パス練習を止めないでほしい。
そう言おうと思った瞬間、視界がぐらりと逆さまになった。
ドスンッ。
身体の左側と右手に鈍い痛みが走った。
どうやら、蹴り返そうとしたボールの上に乗ってしまった僕は、体勢を崩して地面に転げてしまったらしい。
「春馬さん!!」
翔太くんが大声で僕の名前を呼びながら走ってくる。
「いたた……」
身体についた砂を払い、ゆっくり起きあがろうした瞬間、今度は右の足首に鋭い痛みが走った。
(いっ……)
ズキズキと痛みが足首から駆け上がってくる。
「動かないで!」
翔太くんの声がビリビリと僕の身体を包み込んだ。
「痛いところはどこ?」
「右の足首と左の上半身……」
「春馬さん、なんとなくでもいいから、今なにが起きたか説明できる?」
「たぶん、ボールを蹴り返そうとして、転んだ……かな」
「これ、指の数何本に見える?」
僕は翔太くんがVサインをしているのを見て、「二本」と答えた。
「……よかった。脳震盪は起こしてなさそう」
翔太くんは胸に手を当てて大きくため息をついた。
「えっと、足は……かなり強めに捻挫したかもね」
翔太くんは僕の右足首を見て、少し顔を歪めた。
「春馬さん、俺の家に行こう」
「翔太くんの家?」
「そう。応急手当する」
「いやいや、悪いよそんなの!それに、夜ご飯食べるのも遅くなるしさ。これくらい大丈夫だって」
「ご飯は俺の家で食べたらいいし。それより、ちゃんとすぐに手当てしないと、痛みが長引くよ」
真顔になった翔太くんは、僕の目をじっと見て言った。
「ね?春馬さん?」
僕は翔太くんの勢いに押されて、ゆっくりと首を縦に振った。



