深夜2時の青春

 約束の土曜日になるまでの一週間は、ずっと翔太くんのことばかり考えていた。

酔った勢いでキスをしてしまった相手とはいえ、翔太くんは元々憧れのような存在でもあったし、もう一度会えるのは正直嬉しい。

でも、翔太くんにとってはどうなんだろう。

僕は少しの不安と淡い期待を抱えたまま土曜日を迎えた。

 約束していた18時に弁当屋に着くと、「春馬さんっ」と言って翔太くんが駆け寄ってきてくれた。日が暮れて辺りは暗いというのに、元気に笑う翔太くんの笑顔は眩しくて、心臓が小さくドキッと鳴った。

「春馬さん、おつかれ様です」

 翔太くんはいつもと同じスポーツウェアを着ていた。先週、僕とキスした時と同じ黒色のジャージ。

「お疲れ様です。今日は練習だったのですか?」

「いや、今日は試合でした」

「あ、そうなんですね。ちなみに結果は」

「勝ったっす。それに俺、シュートも決めたましたよ」

 翔太くんが嬉しそうに八重歯を見せて笑った。

「うわぁー、それは凄いですね」

「そうでしょ、そうでしょ。ていうか、春馬さん何で敬語に戻ってるんすか?」

 翔太くんが不思議そうな顔をして僕の顔を見た。

「えっ、それは……許可なくため口で話すのは失礼かなと」

 僕が恐る恐るそう答えると、翔太くんは一瞬きょとんとしてから笑い出した。

「あははっ、はは。春馬さん……この間、焼き鳥屋を出る頃には敬語やめてましたよ?だから、緊張が解れてくれたんだなーって嬉しかったのに」

「あ……え、あれは、その……」

 居酒屋に行った帰り道はただ酔っ払って調子に乗っていただけだ。

普段の僕なら決して誰に対しても、勝手にため口で話したりしないはずなんだ。

「ねえ。普通に話してよ。友達なんでしょ、俺ら」

 翔太くんが俯いた僕の顔を覗き込んだ。一瞬で、僕の視界は地面から翔太くんの甘く整った顔に変わってしまった。

「なっ……」

 僕は予測していなかった翔太くんとの距離に、小さく鳴っていた心臓が大きく跳ねる。

(うわぁっ、近……っ)

「ん?春馬さん?」

 僕は名前を呼ばれ、唾を飲み込んでから返事をした。

「あっ、はい。普通に話すようにしますね」

「まだ敬語になってます」

「わ、わ、わかった。えっと、じゃあよろしく」

「はいっ、どうぞ気を使わずに」

 僕の返事を聞いて満足そうな翔太くんはにっこりと微笑んだ。

翔太くんの甘くてやんちゃそうな微笑みは、『よくできました』と褒めてもらっているようで僕の心はくすぐられてしまう。

「じゃあ、翔太くんも同じように話してもらって大丈夫だから……」


 僕は大人として浮ついた心がバレてしまわないように、精一杯平然を装って言った。

「え、いいんすか?」

 僕はすぐに大きく首を縦に振る。

「やったあ。嬉しい。やっぱ敬語じゃなくなると、仲良くなった感じする」

「ふふっ、そう?」

「そうそう」

 翔太くんはまた八重歯がチラッと見える笑顔を作った。

やっぱり翔太くんの笑顔には癒し効果がある。

僕は翔太くんの笑顔を見て、また「ふふっ」と笑ってしまった。