僕と翔太くんの関係は、半年以上が経ち、汗がだらだらと流れる暑い季節になっても変わらず続いていた。
変わらないというより『友達以上、恋人未満』を継続している感じだ。
僕は完全に告白するタイミングを逃していたし、翔太くんも骨折から復帰したところでサッカーに集中しているようだった。
だから、翔太くんのサッカー生活の邪魔にならないように、この恋人みたいな関係のままでいようと思っていた。
なのに。
「なぁ、春馬さん。俺、引退するわ」
8月の蒸し暑い夜だった。
地元の小さな夏祭りから帰る途中、翔太くんは夜道にふと立ち止まって、聞き間違えることはないくらいはっきりと言った。
「……え?いん、たい?」
言われた意味を飲み込めないまま、僕も立ち止まる。
「そう。俺はサッカー選手を引退する」
翔太くんの爽やかな表情と迷いのない言葉に、思考が停止するどころか身体まで硬直してきてしまう。
夜風に乗った湿気がベタベタと身体にまとわりつくのに、全身からは血の気が引いていく。
ほんの数秒前まで聞こえていた夏祭りを楽しむ賑やかな声さえ聞こえない。
「本当にサッカーを辞める……つもりなの?」
恐る恐る確認の言葉を口にした
すると翔太くんは静かに一度、しっかりと頷いた。
そして「春馬さんには、1番最初に伝えておきたいなと思って」と続けた。
「な、なんで!?せっかく骨折も治って復帰できたばっかりなのに」
翔太くんがサッカーを辞めてしまうなんて、信じられない。
あんなにもサッカーが大好きなのに。
嘘だって言ってほしい。
「……だからだよ」
翔太くんは、僕の反応を見越していたみたいに優しく微笑んだ。
月明かりに照らされた翔太くんの笑みを見た瞬間、これはきっと嘘じゃないって理解した。
「春馬さん。ちょっと、散歩しない?」
暑いけどね、と付け加えた翔太くんは、僕たちが初めて一緒にサッカーをした公園まで歩こうと提案した。
公園に向かうまでの間、数分……いや、十分くらいは何も喋らずに、ただ歩いた。
僕は一言でも言葉を口から出すと、すぐにでも泣いてしまいそうで喋れずにいた。
唇をぎゅっと噛み締めて歩く僕の隣を、翔太くんは無理に話そうとせずにゆっくりと同じペースで歩いてくれていた。
翔太くんに気を遣わせてはいけないと思えば思うほど、頭の中には『どうして辞めてしまうのだろう』という思いが止まらなくなる。
僕にとって、翔太くんは恋愛対象以上に『心の支え』だった。
上手くいかない研究や、孤独感の強い社会人大学院生。
夢を追うことに自信を失いかけていた僕にとって、希望の光だった。
実力主義の厳しい世界でも夢を諦めずに追いかける翔太くんの姿に、僕自身を重ねていたのだと思う。
こんな僕でも、必死に食らいついていれば、いつかきっと研究者という夢を叶えることができるのだと。
それなのに。
(翔太くんがサッカーを辞めてしまったら、僕は何を支えにして生きていくのだろう……)
大きな不安が襲ってくる。
大好きな翔太くんに、笑顔で「おつかれさま」と言いたいのに。
自分のことばかりで情けない。
「しょっ、翔太、くん……」
声が、裏返ってしまった。
公園の入り口に到着したから、せめて「長い間おつかれさま」と言おうと思ったのに。
「春馬さん。あのベンチに座ろっか」
翔太くんが泣きそうになっている僕の頭にポンっと軽く触れた。
それから、いつもの八重歯の見える優しい笑顔を見せてくれた。
変わらないというより『友達以上、恋人未満』を継続している感じだ。
僕は完全に告白するタイミングを逃していたし、翔太くんも骨折から復帰したところでサッカーに集中しているようだった。
だから、翔太くんのサッカー生活の邪魔にならないように、この恋人みたいな関係のままでいようと思っていた。
なのに。
「なぁ、春馬さん。俺、引退するわ」
8月の蒸し暑い夜だった。
地元の小さな夏祭りから帰る途中、翔太くんは夜道にふと立ち止まって、聞き間違えることはないくらいはっきりと言った。
「……え?いん、たい?」
言われた意味を飲み込めないまま、僕も立ち止まる。
「そう。俺はサッカー選手を引退する」
翔太くんの爽やかな表情と迷いのない言葉に、思考が停止するどころか身体まで硬直してきてしまう。
夜風に乗った湿気がベタベタと身体にまとわりつくのに、全身からは血の気が引いていく。
ほんの数秒前まで聞こえていた夏祭りを楽しむ賑やかな声さえ聞こえない。
「本当にサッカーを辞める……つもりなの?」
恐る恐る確認の言葉を口にした
すると翔太くんは静かに一度、しっかりと頷いた。
そして「春馬さんには、1番最初に伝えておきたいなと思って」と続けた。
「な、なんで!?せっかく骨折も治って復帰できたばっかりなのに」
翔太くんがサッカーを辞めてしまうなんて、信じられない。
あんなにもサッカーが大好きなのに。
嘘だって言ってほしい。
「……だからだよ」
翔太くんは、僕の反応を見越していたみたいに優しく微笑んだ。
月明かりに照らされた翔太くんの笑みを見た瞬間、これはきっと嘘じゃないって理解した。
「春馬さん。ちょっと、散歩しない?」
暑いけどね、と付け加えた翔太くんは、僕たちが初めて一緒にサッカーをした公園まで歩こうと提案した。
公園に向かうまでの間、数分……いや、十分くらいは何も喋らずに、ただ歩いた。
僕は一言でも言葉を口から出すと、すぐにでも泣いてしまいそうで喋れずにいた。
唇をぎゅっと噛み締めて歩く僕の隣を、翔太くんは無理に話そうとせずにゆっくりと同じペースで歩いてくれていた。
翔太くんに気を遣わせてはいけないと思えば思うほど、頭の中には『どうして辞めてしまうのだろう』という思いが止まらなくなる。
僕にとって、翔太くんは恋愛対象以上に『心の支え』だった。
上手くいかない研究や、孤独感の強い社会人大学院生。
夢を追うことに自信を失いかけていた僕にとって、希望の光だった。
実力主義の厳しい世界でも夢を諦めずに追いかける翔太くんの姿に、僕自身を重ねていたのだと思う。
こんな僕でも、必死に食らいついていれば、いつかきっと研究者という夢を叶えることができるのだと。
それなのに。
(翔太くんがサッカーを辞めてしまったら、僕は何を支えにして生きていくのだろう……)
大きな不安が襲ってくる。
大好きな翔太くんに、笑顔で「おつかれさま」と言いたいのに。
自分のことばかりで情けない。
「しょっ、翔太、くん……」
声が、裏返ってしまった。
公園の入り口に到着したから、せめて「長い間おつかれさま」と言おうと思ったのに。
「春馬さん。あのベンチに座ろっか」
翔太くんが泣きそうになっている僕の頭にポンっと軽く触れた。
それから、いつもの八重歯の見える優しい笑顔を見せてくれた。



