深夜2時の青春

 翔太くんが骨折した翌日から、僕は宣言通り、翔太くんの手伝いを始めた。

着替えを手伝ったり、洗濯をしたり、不器用ながら協力している。

手伝いによって僕たちの関係は変わったのかというと、特に変わっていない。

初めて飲みに行った日や、骨折をした日以外にキスやハグはしていないし、告白もしていない。

だから友達以上ではあるかもしれないけど、それ以上ではない。

あやふやな関係だ。

だからといって、僕から翔太くんへ告白する……なんて事はまず無いと思う。

だってアラサーになって、歳下に告白をして、玉砕でもしたら一生ものの傷になる。

そんなのは恐ろしすぎる。

だから名状し難い関係のままの方が良いんだって、自分に言い聞かせて毎日を過ごしている。

 そんなことを考えながら翔太くんのサポートをする生活を続けて、二週間が経った。

街中に流れていたクリスマスソングは、すっかり正月を待つ歌に変わっていた。

「翔太くん。ちょっとだけ飲まない?」

 僕は20時前に翔太くんの家に着き、リビングに入るとすぐに缶ビールをビニール袋から出した。

「え?良いけど。どしたの、それ」

 僕の前を歩いていた翔太くんは、キョトンとした顔で振り向いて、僕が持っているビニール袋を視線を向けた。

「今日で後期の授業が終わったから、翔太くんとプチ忘年会ができたら良いなと思って……」

 単に仕事が終わったことにテンションが上がって、翔太くんの家に行くまでの道で買ってきてしまったとは言えない。

「あ、ちゃんと飲みすぎないようにするから」

 真っ直ぐ翔太くんの目を見る。

「ははっ。そっか。それなら飲もう!」

 翔太くんは仕方ないなあ、と笑った。

 スーパーで買ってきた唐揚げや、チヂミなど惣菜を電子レンジで温めてから並べて、乾杯をする。

久しぶりに飲むビールはシュワシュワと喉を通り、胃袋まで流れていった。

「はあ〜、美味しい」

 さっきまで真冬の夜道を歩いて凍えていたはずなのに、疲れた体は冷たいビールを欲していたらしい。

思わずため息と共に声が出た。

翔太くんも僕と同じようにビールを飲むと「うまあ〜」と表情を緩ませていた。

 買ってきたチヂミを食べ、唐揚げを食べる。

翔太くんは物足りないのか、白米を2杯も食べていた。

 しばらく食べて、飲んでいると、身体も頭もふわふわとしてくる。

心地良い感じだ。

「ふふ。僕、ほんのちょっとだけ酔ってきた」

 そう言って、ふとBGM代わりにつけていたテレビを見ると、バラエティ番組が流れていた。

『体育会系の人は友達の友達は、みーんな友達みたいなところないですか?』

 最近よく映画の主演を務めている若手俳優の主張だった。

『あはは。ないです、ないです。たぶん』
『ほらあ、絶対あるでしょ!だって、すぐ肩とか組んできますもん』

 笑いながら否定する元野球選手に若手俳優はすぐに反論をした。

「……たしかに、体育会系の人は距離感がおかしいきがする」

 僕はテレビを見ながら言った。

「だって翔太くんも、いつもちょっと近いきがするもん」

 僕は僕は身体の向きをくるりの変え、隣に座っていた翔太くんの方を向いた。

「近いかなあ?」

「ちかい!からだと、からだの距離もだけど、すぐかわいーとか言うもん」

「それは……っ」

 翔太くんが驚いた顔をしてから、左手で口元を隠した。

「そんな恥ずかしがってるフリをしてもね、相手をどきどきさせるだけだからね」

「そ、そんなつもりなんかないって。春馬さん」

 翔太くんが慌てて僕の言葉を訂正した。

「……翔太くんはさあ。……誰かにどきどきしたり、好きだなあっておもうときある……?」

 僕は自分の缶ビールに視線を落とし、ラベルを指でなぞった。

「それは……まあ。あるよ」

 翔太くんは気まずそうにビールをグビっと一口飲んだ。

「いつ?」

「いつ?んん〜、えーっと」

「いっつも僕ばっかりどきどきしてる。ずるいとおもう」

 僕は身体の向きを変えて、隣に座る翔太くんに顔を近づけた。

「どうしたら翔太くんはどきどきするの?」

「ちょっ、ストップストップ、春馬さん」

 翔太くんが僕の頬に触れる。

お酒のせいだろうか、翔太くんの手のひらはじんわりと温かい。

「ほらあ。近い。……誰にでもこうして触れたりするの?」

「誰にでもって事はないよ。それは絶対に」

「じゃあ僕に触るのはなんで?僕ばっかりいつもどきどきして、翔太くんの気持ちがわからない。好きだとおもってくれてるのか、ただ距離がちかいひとなのか……」

 前々からパーソナルスペースが狭い人だとは思っていたけど、その近さの理由を無性に知りたくなるときがある。

好きだと自覚してからは特に。

同じ気持ちならもっと近づきたいけど、違うというのなら期待をするのをやめなきゃいけない。

「ちょ……っと待って。俺、そんなに春馬さんに近い?」

 翔太くんが僕の視線から隠れるように、左腕全部を使って顔を覆った。

もう、表情が全く見えない。

それなのに、翔太くんはソファーの上で丸まるように体育座りになった。

「んー?ちかい。から、どきどきする」

「待って。俺、そんな近づいてると思ってなかった……んだけど」

 翔太くんは、ソファーの上で丸くなったまま言った。

「へぁ……?」

 思わず間抜けな声が出た。