どうやら翔太くんの骨折は、練習中に起きた事故だったらしい。
衝突したチームメイトの下敷きになって倒れ込んでしまったことが原因で、肘辺りがバキッと折れてしまった、と翔太くんはギプスが巻かれた腕を見つめながら説明した。
キスをした直後に、ポツ、ポツ、と不安を1つずつ吐き出すように話す翔太くんをみて、僕はホッとした。
翔太くんの冷たかった手は温かさを取り戻していたし、強張った笑顔も少しずつ解れて自然と涙が流れていた。
僕は、どんな言葉をかけても正解じゃないような気がして、翔太くんの隣に座って「うん、うん」と頷きながら聞くのが精一杯だった。
「……春馬さん。ごめんね、夜中にこんな楽しくもない話をしてさ」
左手で涙を拭う翔太くんが言った。
「大丈夫!僕は翔太くんがこうして素直に話してくれて嬉しかったよ」
「ありがと、ほんとに。……なんかさ、俺、病院を出た瞬間『あぁ……春馬さんに会いてえ』って無性に思ったんだよね」
「あ、そうなんだ」
それは……なんだか嬉しい。
「だから、春馬さんが家にいてくれて良かった!耐えたんだけどさ、玄関で春馬さんの顔を見た瞬間に泣きそうになったもんね、俺。もうダサすぎる。あははっ」
目元を赤くした翔太くんが笑った。
「ダサくなんか無いよ。翔太くんは泣き顔もかっこいいよ」
「いやいや。普通に幻滅したでしょ?いつもの元気はどこ行ったんだよって」
「しないよ」
幻滅なんてするはずない。
翔太くんの涙からは、悔しさとか不安とか、頑張りたいのに頑張れなくなってしまったもどかしい気持ちが痛いくらい伝わってきた。
「むしろ、僕は翔太くんが弱ってる姿を見て安心したかな」
「安心?なんで?」
「え?なんでって……えっと。なんというか……ちゃんとショックな気持ちを閉じ込めてしまわずに、外に吐き出せて良かったって思ったというか」
「春馬さんってさ、ほんっとに優しいね。聖人じゃん」
ふふっと、翔太くんは微笑んだ。
僕はその瞬間、胸がチクリと痛んだ。
「全然、聖人なんかじゃない。僕は、翔太くんが……弱った姿を僕だけ見せてくれたんだって思うと、ちょっとだけ嬉しくなってしまったというか……ごめん」
僕は何を素直に喋ってしまってるのだろうか。
翔太くんの無垢な笑顔見て、正直に心の内を打ち明けてしまった。
「ぷっ。はははっ、あははははは」
翔太くんが大きな声で笑った。
「なっ、なんで笑って……」
「いや、さっきまでの超頼もしいお兄さんはどこ行ったんだろうって思って。あーダメだ。笑える状況じゃないのに、笑っちゃう」
翔太くんは大笑いながら、左手で自分の太ももを数回叩いている。
「春馬さん、もうちょいこっち来て。ぎゅってしたい」
翔太くんは左手を僕に向かって伸ばした。
僕はゆっくりと翔太くんの左腕の内側に入り、もたれるように上半身を翔太くんに預けた。
初めて感じる翔太くんの腕。
僕を引き寄せる腕は、力強いのにどこか優しい。
「あぁー、両手でぎゅってしてえ」
翔太くんはもどかしそうに両足を軽くバタつかせた。
「ははっ、しばらくおあずけだね」
僕はそう言ってから、ゴソゴソと両手を動かして、翔太くんの上半身に腕を回した。
「春馬さん?」
「今はこれで我慢」
僕は隣に座る翔太くんに抱きつくようにしてハグをした。
目一杯『がんばれ』という気持ちを込めて、ぎゅうっと腕に力を入れる。
すると翔太くんの逞しい胸元から心臓が脈打つ音が聞こえてくる。
もう僕の心臓の音も翔太くんに聞こえてしまってるかもしれない。
ぎこちないハグに加速する僕の心臓の音。
だけど、そんなことはどうでも良い。
僕は今、目の前にいる僕の好きな人を元気づけたい。
「ははっ、春馬さん意外と力強い」
翔太くんは僕の抱きつく力に負けないように、左腕に力を入れた。
1秒、2秒、3秒……とお互い抱きしめ合う力を静かに入れ続ける。
ぎゅうぎゅうと抱きつけば抱きつくほど、僕の痩せた身体とは違う、ハリのある筋肉質な翔太くんの身体の感触が上半身全部に伝わってくる。
僕の全力が尽きそうになった頃には、もうハグというよりかは密着……のような形になってしまっていた。
「はは、あはははっ」
「んふふっ。あはは」
奇妙な展開になりすぎて、僕たちは吹き出すようにして笑った。
もう深夜になっているというのに、男二人で何をしているのだろう。
冷静になればなるほど笑いが込み上げてくる。
「俺、ちゃんと復帰できるように頑張るよ」
左腕の力を緩めた翔太くんが言った。
「うん。応援してる」
僕も両腕の力を抜いて、だらりと翔太くんにもたれかかったまま返事をした。
「復帰できるまで時間かかると思うけど、また試合観にきてよ」
「観にいくよ。それに、前に翔太くんが僕にしてくれたように、僕も翔太くんの身の回りのお手伝いをできる限り協力したい」
少しでも恩返しできたらと思った。
すると、翔太くんの身体がビクッと跳ねた。
「え?ほんと?」
「本当のつもり……だけど?」
「それは最高に嬉しい。一緒に筋トレとかもしたい」
翔太くんの垂れ目の甘く整った顔が、ふにゃりと溶けたような笑顔になった。
「筋……え、あぁ。うん」
嬉しそうにしている翔太くんを見て、筋トレは出来ないかもしれないとは言い出せなかった。
また僕はとんでもない提案をしてしまったのかもしれない。
だけど、いつも元気で頼もしい翔太くんが、こうして甘えてくれるのも悪くはないかもしれないとも思った。
衝突したチームメイトの下敷きになって倒れ込んでしまったことが原因で、肘辺りがバキッと折れてしまった、と翔太くんはギプスが巻かれた腕を見つめながら説明した。
キスをした直後に、ポツ、ポツ、と不安を1つずつ吐き出すように話す翔太くんをみて、僕はホッとした。
翔太くんの冷たかった手は温かさを取り戻していたし、強張った笑顔も少しずつ解れて自然と涙が流れていた。
僕は、どんな言葉をかけても正解じゃないような気がして、翔太くんの隣に座って「うん、うん」と頷きながら聞くのが精一杯だった。
「……春馬さん。ごめんね、夜中にこんな楽しくもない話をしてさ」
左手で涙を拭う翔太くんが言った。
「大丈夫!僕は翔太くんがこうして素直に話してくれて嬉しかったよ」
「ありがと、ほんとに。……なんかさ、俺、病院を出た瞬間『あぁ……春馬さんに会いてえ』って無性に思ったんだよね」
「あ、そうなんだ」
それは……なんだか嬉しい。
「だから、春馬さんが家にいてくれて良かった!耐えたんだけどさ、玄関で春馬さんの顔を見た瞬間に泣きそうになったもんね、俺。もうダサすぎる。あははっ」
目元を赤くした翔太くんが笑った。
「ダサくなんか無いよ。翔太くんは泣き顔もかっこいいよ」
「いやいや。普通に幻滅したでしょ?いつもの元気はどこ行ったんだよって」
「しないよ」
幻滅なんてするはずない。
翔太くんの涙からは、悔しさとか不安とか、頑張りたいのに頑張れなくなってしまったもどかしい気持ちが痛いくらい伝わってきた。
「むしろ、僕は翔太くんが弱ってる姿を見て安心したかな」
「安心?なんで?」
「え?なんでって……えっと。なんというか……ちゃんとショックな気持ちを閉じ込めてしまわずに、外に吐き出せて良かったって思ったというか」
「春馬さんってさ、ほんっとに優しいね。聖人じゃん」
ふふっと、翔太くんは微笑んだ。
僕はその瞬間、胸がチクリと痛んだ。
「全然、聖人なんかじゃない。僕は、翔太くんが……弱った姿を僕だけ見せてくれたんだって思うと、ちょっとだけ嬉しくなってしまったというか……ごめん」
僕は何を素直に喋ってしまってるのだろうか。
翔太くんの無垢な笑顔見て、正直に心の内を打ち明けてしまった。
「ぷっ。はははっ、あははははは」
翔太くんが大きな声で笑った。
「なっ、なんで笑って……」
「いや、さっきまでの超頼もしいお兄さんはどこ行ったんだろうって思って。あーダメだ。笑える状況じゃないのに、笑っちゃう」
翔太くんは大笑いながら、左手で自分の太ももを数回叩いている。
「春馬さん、もうちょいこっち来て。ぎゅってしたい」
翔太くんは左手を僕に向かって伸ばした。
僕はゆっくりと翔太くんの左腕の内側に入り、もたれるように上半身を翔太くんに預けた。
初めて感じる翔太くんの腕。
僕を引き寄せる腕は、力強いのにどこか優しい。
「あぁー、両手でぎゅってしてえ」
翔太くんはもどかしそうに両足を軽くバタつかせた。
「ははっ、しばらくおあずけだね」
僕はそう言ってから、ゴソゴソと両手を動かして、翔太くんの上半身に腕を回した。
「春馬さん?」
「今はこれで我慢」
僕は隣に座る翔太くんに抱きつくようにしてハグをした。
目一杯『がんばれ』という気持ちを込めて、ぎゅうっと腕に力を入れる。
すると翔太くんの逞しい胸元から心臓が脈打つ音が聞こえてくる。
もう僕の心臓の音も翔太くんに聞こえてしまってるかもしれない。
ぎこちないハグに加速する僕の心臓の音。
だけど、そんなことはどうでも良い。
僕は今、目の前にいる僕の好きな人を元気づけたい。
「ははっ、春馬さん意外と力強い」
翔太くんは僕の抱きつく力に負けないように、左腕に力を入れた。
1秒、2秒、3秒……とお互い抱きしめ合う力を静かに入れ続ける。
ぎゅうぎゅうと抱きつけば抱きつくほど、僕の痩せた身体とは違う、ハリのある筋肉質な翔太くんの身体の感触が上半身全部に伝わってくる。
僕の全力が尽きそうになった頃には、もうハグというよりかは密着……のような形になってしまっていた。
「はは、あはははっ」
「んふふっ。あはは」
奇妙な展開になりすぎて、僕たちは吹き出すようにして笑った。
もう深夜になっているというのに、男二人で何をしているのだろう。
冷静になればなるほど笑いが込み上げてくる。
「俺、ちゃんと復帰できるように頑張るよ」
左腕の力を緩めた翔太くんが言った。
「うん。応援してる」
僕も両腕の力を抜いて、だらりと翔太くんにもたれかかったまま返事をした。
「復帰できるまで時間かかると思うけど、また試合観にきてよ」
「観にいくよ。それに、前に翔太くんが僕にしてくれたように、僕も翔太くんの身の回りのお手伝いをできる限り協力したい」
少しでも恩返しできたらと思った。
すると、翔太くんの身体がビクッと跳ねた。
「え?ほんと?」
「本当のつもり……だけど?」
「それは最高に嬉しい。一緒に筋トレとかもしたい」
翔太くんの垂れ目の甘く整った顔が、ふにゃりと溶けたような笑顔になった。
「筋……え、あぁ。うん」
嬉しそうにしている翔太くんを見て、筋トレは出来ないかもしれないとは言い出せなかった。
また僕はとんでもない提案をしてしまったのかもしれない。
だけど、いつも元気で頼もしい翔太くんが、こうして甘えてくれるのも悪くはないかもしれないとも思った。



