深夜2時の青春

 僕は翔太くんに言われた通り、ベッドに寝転がった。

ごそごそと布団を被ると、まだヒヤリと冷たい。

それから、話しやすいように通話をスピーカーモードに変更した。

「ねっ、春馬さん。ねむい?」

「ううん。まだ大丈夫」

「そっか、そっかそっか。へへっ、なんか変な感じする」

 枕元に置いたスマホから翔太くんの笑い声が聞こえる。

翔太くんも寝転がって喋っているからか、布団の擦れるような音も一緒に聞こえてきた。

なんだか修学旅行中の男子高校生みたいだ。

「あのさ、翔太くんはどうして僕が試合に行ったことに気がついたの?」

「んー?それは簡単だよ。だって俺、いつも観客席見てるもん」

 本当に簡単な答えだった。

「え?見えるの?あの距離で?」

「見えるよ。春馬さんだって俺のこと見つけたでしょ」

「それはそうだけど……」

 僕は背中に大きく書かれた数字と、翔太くんのシルエットを覚えているから見つけられた。

それとは違って、大勢の人がいる観客席から僕を見つけるなんて難し過ぎないだろうか。

「まー、あとは春馬さんが俺の知り合いの近くにいたんだよ。最初から」

「知り合い?」

 パッと頭の中に、艶やかな黒髪をした女性たちが浮かんだ。

「春馬さんのさ、ちょっと前の方の席に関西弁のおじさんいたでしょ?あの人、うちの遠野コーチの親父さんなの」

「コーチの方のお父さん?」

 関西弁の……と言われた瞬間に、今度は入場ゲート前で少しだけ喋ったパワフルなおじさんが頭に浮かんできた。

漫画みたいに「がはは」と豪快に笑っていたおじさんだ。

「あのおじさん、すっげー声でかいんだよ。元々、コーチはうちのチームのOBだから、昔から選手のことよく知ってるし、みんなとも仲良い」

 まさか、あの癖の強いおじさんがチーム関係者だったとは知らなかった。

「遠野さん、目立つからどこにいるかすぐに見つけられるんだよね。で、その近くに春馬さんがいたってわけ」

「……そうなんだ。あ……はは……」

 試合が始まった時点で気づかれていたなんて。

不慣れ感丸出しのスポーツ観戦の様子を見られていたと思うと、恥ずかしくて、布団を頭まで被りたくなる。

「あとさ、俺、試合終わってから、春馬さんに向かって叫んでたんだけど気づかなかった?」

 翔太くんの不満そうな声色に、口を尖らせている顔が浮かんだ。

「階段降りてきてる時にさ、俺すっげー手振ってたのに。全然、目合わなかったもん」

「いやっ、あの、それは……僕の目の前にいた女性たちに手を振っていたのだと思って」

「思って?」

「思って、そっと離れたというか、なんというか」

 手を振られ手いる女性たちにヤキモチを妬いた、とまでは素直に言えない。

「なんで離れるの。会いに来てくれても良かったのにー。俺、出待ちしてくれてるかな〜ってずっと待ってたんだけど?」

「いやっ、あの……それは」

 翔太くんの駄々をこねるような話し方に、心の奥の方から嬉しさと照れくささが同時に込み上がってくる。

「俺の方が春馬さんの出待ちしてた」

 心臓がくすぐったくて堪らない。翔太くんの一言一言を、自分の都合の良いように勘違いしてしまいそうになる。

「僕の、前にいた女性の方たちは翔太くんと仲が良さそうな雰囲気だったから、僕なんかが声をかけたりして邪魔したらいけないと思って」

「え?あの二人?」

 翔太くんが僕の声を遮った。

「そう……だけど」

「あははははっ」

 翔太くんの大笑いする声がスマホ越しに聞こえてきた。

「え、なになに。どうしたの?」

「ははっ。あー、あの人たちは俺の高校の先輩だよ」

「せん、ぱい?」

「そっ。マネージャーだったんだけど、すっげー怖いの」

 また僕の想像とは違った答えだった。

僕は驚いてしまって、「えぇ……」と弱々しい返事をした。

スタジアムの中で彼女たちの様子を見た時は、泣きたくなるような絶望感と嫉妬心に支配されていたのに、真実を知った今はただひたすら恥ずかしい。

「もしかして、春馬さん、何か勘違いしてた?」

 やはり翔太くんは鋭い。直接、僕の顔を見ている訳でもないのに、僕の心を言い当ててしまう。

「……ちょっと、だけ。ほんとにちょっとだけ」

 僕は精一杯強がって答えた。

「ははっ。んはは。もう……ほんと、可愛すぎない?春馬さん」

 翔太くんは困ったような声でぼそりと言った。