深夜2時の青春

試合が始まると、さっきまでの盛り上がりは序の口だったと感じるくらい一気に会場全体が大きな声で包まれた。

選手が走れば「頑張れ!!」と言う声援が聞こえ、得点があればスタジアムが揺れるくらいの歓声が上がる。

これまでテレビ中継で見てきたものとは、全く熱量が違う。

ルールすら理解していないはずなのに、ワクワクが止まらない。これ程までに身体の奥底から活力が湧いてくる感覚になるなんて思ってもなかった。

ドンドンと応援歌と共に鳴る太鼓の音に、自分の心臓もシンクロしていくような感覚さえしくる。

 試合が進み、ハーフタイムが過ぎた頃、両チームの選手交代が行われる中、見慣れた男の人がコートに向かって走ってきた。

(翔太くんだ!!)

 先発出場ではなかった翔太くんが数回高く両足でジャンプをしている。

日焼けした肌に半袖のピンク色のユニホーム。甘く整った顔に鮮やかなピンク色がよく似合っていた。

それに晴天の中で見る翔太くんは、これまで夜の月明かりの下で見た時とは違った爽やかな輝きがある。

(う……わ。やばい。かっこいい……)

 普段のラフなジャージ姿とはちがう、きっちりと勝負服を着こなす翔太くんに胸がどんどんと高鳴ってくる。

そんな翔太くんはコート内にいた選手とハイタッチをしてから交代した。

「翔太ぁ〜!がんばれよー!!!」
「得点頼むぞ、翔太!」

 近くの観客席に座る人たちが翔太くんに向かって、たくさんの声援を送っている。

(すごい声援……)

 翔太くんが出場した途端、至る所から彼の名前を呼ぶ声がする。

小さな子どもから若くて元気そうな青年、それに女の人に中年過ぎの男性。

色んな人から翔太くんへの大きな応援の声に、ゾクゾクと興奮がかけ巡って鳥肌が立つ。

こんなに色んな人から期待をされるって、どんな感覚なのだろうか。大勢の人に応援された翔太くんをみると、少年みたいな笑顔を浮かべてコートに入っていった。

 試合が再開されてからの翔太くんは、真剣な表情でボールを蹴り、時には相手チームの選手とぶつかっている。

その度に僕の心は「あぁっ」とか「うわあ」だとか、心配と驚きの声を挙げてしまう。

それなのに、当の本人である翔太くんは随分と楽しそうに見えた。ワクワク感が抑えきれない子どもみたいだ。

時折、汗を拭ためにユニフォームをグイッと引っ張り上げると、くっきりと割れた腹筋がチラリと見える。

その度に僕の胸から心臓の跳ねる音がする。

もう心配したり、ドキっとしたり、僕の心は忙しくてたまらない。

いつの間にか、翔太くんの無事と活躍を祈って、首からかけたタオルをぎゅうっと握りしめていた。

 どんどんと止まることなく試合は進み、同点のままアディショナルタイムに突入することになった。

前半と後半で試合は終わりだと思っていたから、最初は何の時間が始まるのだろうと思ったけど、どうやら追加タイムのことらしい。

掲示板に表示された時間は3分で、あとほんの数分で試合が終わるのだと、ぼんやりと理解した。

 試合が再開すると、勢いよく選手たちは走り始め、激しい試合展開に両チームとも応援の声に力が入る。

コート内で汗をかきながら走り回る選手と同様に、僕たち観客も前のめりになって応援する。

残り時間を2分を切った頃、ちょうど翔太くんにボールが回ってきた。

周囲の「いけー!」という声援に、僕は居ても立っても居られなくなって大きな声を出した。

「が、がんばれー!!」

 人生でこんなに大声を出したのは初めてかもしれない。

声を出した瞬間、急に恥ずかしさが襲ってきたけれど、辺りの人たちは僕のことなんか誰も見てなかった。

むしろ、僕と同じように大声をあげてる人たちばかりで、仲間になった気すらしてきた。

「翔太くん、いけー!」

 1秒、1秒進むたびに身体の奥底から熱く燃えるような気持ちが昇ってくる。

タオルを握った手にも、どんどんと力が入る。試合終了まで、あと残り1分。

「パス出せ、チャンス、チャンス」
「押せ押せ!頼む」
「攻めろ!!」

 観客のみんなが思い思いの言葉を発した瞬間だった。

 翔太くんがチームメイトにパスを出し、受け取った選手が素早くボールを蹴った瞬間に、サッカーゴールにパシュっと軽い音が鳴った。

ほんの1〜2秒だった。

「うわああああああ!」

 スタジアム全体に今日1番の声が溢れ返る。

喜ぶ声、落胆する声、いろんな感情を含んだ声が会場全体に響き渡った。

「ナイスシュート!!」
「ナイスアシスト」

 僕の周りからも選手を褒める声が止まない。

「や、やったあ」

 僕も思わずひとりで立ち上がり喜んでしまった。

そんな中、翔太くんを見るとチームメイトが飛びつくように抱きつかれている。

人が集まり団子のようになっていき、翔太くんは中心でいつものように八重歯が見える笑顔をしていた。