深夜2時の青春

翔太くんといつもの様に夕食を食べた後、日付が変わる前に帰宅して、山本先生から貰った観戦チケットを見た。

日程のところには11月29日(土)14:00と書かれていて、ちょうど来週だった。

それに、観戦日は最終節と呼ばれるもので、今年最後の試合らしい。

 僕は現地でのスポーツ観戦なんて、これまでの人生で経験したことがない。

何をどう立ち振る舞うのが正解なのか、さっぱり分からないし正直ちょっと怖い。

だけど、翔太くんが出場している試合なら見てみたい気持ちはあるし、山本先生が折角くれたチケットを使わないでいるのも良くない気がする。

数日悩んで、結局、勇気を出して行ってみることにした。

 試合当日になり、身支度を整えて家を出る。

サッカー観戦の持ち物について色々と調べてみると、冬は寒いから防寒具が必要と書かれていたので、マフラーをつけ、手袋もつけて、カイロまで持っていくことにした。


 会場付近に到着すると、翔太くんが所属しているチームの色であるピンクと相手チームの色である青で会場全体が埋め尽くされていた。

(うわあ……すごい……)

 選手のユニホームを着た人や、首からチームカラーのタオルをかけた人、オリジナルグッズを持った人に派手なメイクを施した人。

一目でどちらのファンなのか分かるような人が大勢いて、試合前から祭りのような熱気が会場全体で渦巻いていた。

ふと、目の前を通り過ぎる人に目を向けると、応援している選手の背番号なのだろうか、着ているユニホームが同じでも、背中に書かれたローマ字の名前と番号が違っている。

それに、小さい子どもまでもがワンピースくらいブカブカのユニホームを着て歩いている。

ポテポテと歩く子どもたちの愛らしい後姿や気合いの入ったファッションをした大人たちを見ていると、公式グッズは今日の試合を全力で楽しむ装備のように見えてきた。

(僕も何か買った方が良い……かな)

 楽しそうな観客たちの様子に刺激されてしまった僕は、公式グッズを買ってみることにした。

 物販の棚にはユニホームやハンカチ、ぬいぐるみなど様々な物が並んでいた。

スポーツ観戦ビギナーな僕は、翔太くんの背番号と名前が入ったスポーツタオルとユニホーム型の小さなキーホルダーを買った。

普段なら絶対に選ぶことのないピンク色のタオルだったけれど、マフラーを外して首にかけ、鞄にキーホルダーをつけた。

「よしっ!行くか」

 グッズを身につけると、いよいよスポーツ観戦という感じでワクワク感が増してきた。

ただ、翔太くんの名前や背番号が入ったグッズを持っていると、すごく翔太くんのことが好きな人物になっているような気もしてきて少し照れくさくもなってくる。

 売店からサッカースタジアムへの入場口へ移動し、入場列に並んでいると、隣にいたおじさんが突然話しかけてきた。

「おー、兄ちゃん。翔太のファンか!」

「え?ファン?」

「それ翔太のだろ?」

 関西地方のイントネーションをしたおじさんは、僕が首からかけているタオルを指差した。

「あぁ、そうですね。彼を応援しています」

「おおっ!やっぱりそうか。おっちゃんもな、翔太を応援しとるんや。あいつめちゃくちゃ頑張り屋やろ。見てたら、ほんまサッカー好きなんやろなって感じるわ」

 おじさんの口調は、まるで自分の子どもを褒めているみたいだ。

「たしかに、翔太くんからは元気をもらえますね」

 僕は頷いて、笑った。

「せやろ、せやろ。あいつは、いっつも八重歯出して笑っとるし、どれだけしんどい場面でも絶対下向かへんやつなんや。せやから、あいつのプレー見てるとな、おっちゃんも上向いて頑張らなあかんなってパワーもらえるねん。ほんま不思議な選手やで。別に知り合いとちゃうねんけどな」

 おじさんは豪快に「わははははっ」と笑った。

そんなおじさんの笑顔を見て、直接的な接点が無くても、翔太くんは人に勇気を与えているのだと改めて感心した。

それと同時に、僕もおじさんと同じ、翔太くんに惹きつけられている人間なんだろうなと思った。

「本当に魅力的ですよね、翔太くん」

「ほんまやで。兄ちゃんも、翔太の最後の最後まで応援したってや!頼むで!あ、おっちゃん行くわな。今日も目一杯応援したろな〜」

 入場ゲートのスタッフに促されたおじさんは、「ほな!」と片手を挙げてからスタジアムの中へ入って行った。

(何かすごい勢いの人だったな)

 関西弁で話すおじさんのフレンドリーさに圧倒されつつ、直前の会話を思い出す。

きっと、翔太くんの名前入りのタオルを身につけていなかったら、おじさんから翔太くんの話を聞けることはなかっただろう。

思い返すだけで、心の中がほんのり温かくなる。

それに、翔太くんの名前が入った物を身につけているということは、やはり彼を応援していると堂々と公言しているものなのだろう。

応援している以上の感情を翔太くんに抱き始めてしまっている今の僕にとって、翔太くんの物を持つことは彼への好意をみんなに曝け出しているような、妙なくすぐったさもある。

 僕は首からかけたスポーツタオルを両手でギュッと握り、翔太くんの試合姿を想像しながら入場ゲートを通過した。