「あの……翔太くん。そんなに慎重にしてくれなくても大丈夫だから」
足を滑るこそばゆい感触にとうとう堪えられなくなってしまった。
「ん?」
僕の顔を見た翔太くんは、キョトンとした。
翔太くんにとって今の状況は何ともない、ただの応急手当てだからだろう。
「いやっ、だから、えっと。僕、男だしさ、少々乱暴に扱っても問題ないというか」
しどろもどろになりながら、僕は眼鏡を掛け直す。
「そんなこと無いでしよ。春馬さん、せっかく綺麗な足してんだから大事にしないと」
翔太くんは視線を戻し、再び手を動かし始めた。
ゆっくり、ゆっくり、足先に向けて靴下が滑る。
普段なら気にもしないのに、今は肌を擦れる布の感触に敏感になってしまう。
「ほら、やっぱり」
僕の靴下を脱がし切った翔太くんが言った。
「ほんっとに何の傷跡もない」
そう言った翔太くんは、僕の足を支えたまま顔を右や左に動かして眺めている。
「うわあっ」
突然、僕のズボンの裾から翔太くんの手が入ってくる感覚がした。
制止するよりも早く、膝下までズボンを捲られてしまった。
「えっ?なに、なに」
男の人に足先からふくらはぎまでを撫で上げられたのは初めてで、つい声が上擦った。
「うわー、やっぱ春馬さんの足、俺と違って本当に綺麗だね」
翔太くんは僕の足を持ち上げたり、下ろしたりして、360度グルグルと観察している。
ただ細いだけの僕の足に特徴的な所なんて見つからないはずなのに、何か変なところがあったらどうしようかと、内心ドキドキしてしまう。
「ちょっと……翔太くん?」
「凄い凄い。俺、久しぶりにこんな綺麗な足に出会ったよ」
明らかにテンションが上がった翔太くんは、僕の動揺なんて気にせず、にこにこと楽しそうに笑っている。
きっと、僕だけがこの非日常的な体勢にドキドキしているのだと思う。
だって、翔太くんは子どものように目をキラキラさせて僕の足を眺めているし、元々パーソナルスペースだって無いに等しい人物だ。
これくらい何とも思ってなさそうだ。
だから僕も心を揺らがせていたらダメだと思うのに、いちいち身体が反応してしまう。
「翔太くんだって、筋肉質で、綺麗な足だと思う……けど」
僕は翔太くんの注意を逸らそうと、恐る恐る言った。
「いや、全然、そんなことないよ。俺の足なんか傷だらけだよ?ほら」
翔太くんは僕の足を優しくカーペットの上におろして、自分のズボンを捲ってみせた。
「ほら、ここは昔に相手選手のスパイクが刺さった跡だし、これは一昨日ぶつかって出来た青あざ。ここも試合中に怪我した跡だしさ。もう傷だらけで何してんだよって感じでしょ」
翔太くんの足には小さな傷跡から鬱血した痣、出来立ての瘡蓋まであった。
「……痛そう。でも、これまで頑張ってきた証みたい」
傷跡は翔太くんの生き様を表す証のように見えた。
僕はそっと翔太くんの小さな傷跡に手を伸ばした。
少し盛り上がって治った傷跡に触れると、負傷時の衝撃と痛みが伝わってくるような気がした。
どれだけ痛む傷を負っても、その度に治して、ずっとサッカー選手として過ごしてきたのだと思うと、素直に尊敬の気持ちが湧いてくる。
「ははっ、ありがと。これでも俺は大きな怪我はして来なかった方だし、俺くらいの怪我はみんな経験してるだよね。……大怪我してもさ、根性と才能があるやつは結局、上に行くんだよ」
「うえ?」
「そ、上。上位リーグ」
スポーツ経験が無さすぎて、僕には上位リーグがどれほど手の届かない場所なのかわからなかった。
だけど、プロである翔太くんが少し寂しそうな表情をしたから、多分、すごく遠い場所なんだろうなって思った。
「もし、そうだったとしてもさ。僕にとって翔太くんは、すごく輝いて見えてるよ。どこからどう見ても、夢を叶えた格好いい男に見える。僕の方が年上なのに憧れの存在だよ」
そうだ。
夢を見ているままの僕と違って、翔太くんはちゃんと夢を叶えた人だ。
「僕はね、夢を語る翔太くんから希望をもらってるよ。僕も翔太くんの精神を見習わないとって」
「いや、春馬さんの方が凄いよ。絶対に」
翔太くんが僕の言葉に被せるように言った。
「だって、前に春馬さんの家に行った時にびっくりしたもん。机の上に難しそうな教科書とか、紙とか置いててさ。本棚なんか漫画より教科書の方がいっぱいあってさ。その時、あぁ、この人には敵わないなって思った」
翔太くんが腕を組んで、うんうんと首を振った。
「そんなことないよ。絶対に翔太くんの方が凄いよ」
「いーや。それはない。100%春馬さんの方がすごい」
「いやいや、そんな…………ふっ……ふふ」
何度も謙遜をし合っているうちに、なんだか可笑しくなってきた。
僕が笑うと翔太くんも釣られて「ははっ」と笑った。
「じゃあ俺も春馬さんも、お互いにすごいってことにしとこうよ。もう俺、この会話恥ずかしくなってきた」
翔太くんは手でパタパタと顔を仰いだ。
僕も何度か頷き、照れくさい気持ちを紛らわした。
それから翔太くんは喋りながら僕の足を持ち上げて、手際よくテーピングを巻いた。
シュルシュルという音と徐々に固定されて自由がなくなる足首の感覚を感じながら、やっぱり翔太くんは凄いなと思った。
足を滑るこそばゆい感触にとうとう堪えられなくなってしまった。
「ん?」
僕の顔を見た翔太くんは、キョトンとした。
翔太くんにとって今の状況は何ともない、ただの応急手当てだからだろう。
「いやっ、だから、えっと。僕、男だしさ、少々乱暴に扱っても問題ないというか」
しどろもどろになりながら、僕は眼鏡を掛け直す。
「そんなこと無いでしよ。春馬さん、せっかく綺麗な足してんだから大事にしないと」
翔太くんは視線を戻し、再び手を動かし始めた。
ゆっくり、ゆっくり、足先に向けて靴下が滑る。
普段なら気にもしないのに、今は肌を擦れる布の感触に敏感になってしまう。
「ほら、やっぱり」
僕の靴下を脱がし切った翔太くんが言った。
「ほんっとに何の傷跡もない」
そう言った翔太くんは、僕の足を支えたまま顔を右や左に動かして眺めている。
「うわあっ」
突然、僕のズボンの裾から翔太くんの手が入ってくる感覚がした。
制止するよりも早く、膝下までズボンを捲られてしまった。
「えっ?なに、なに」
男の人に足先からふくらはぎまでを撫で上げられたのは初めてで、つい声が上擦った。
「うわー、やっぱ春馬さんの足、俺と違って本当に綺麗だね」
翔太くんは僕の足を持ち上げたり、下ろしたりして、360度グルグルと観察している。
ただ細いだけの僕の足に特徴的な所なんて見つからないはずなのに、何か変なところがあったらどうしようかと、内心ドキドキしてしまう。
「ちょっと……翔太くん?」
「凄い凄い。俺、久しぶりにこんな綺麗な足に出会ったよ」
明らかにテンションが上がった翔太くんは、僕の動揺なんて気にせず、にこにこと楽しそうに笑っている。
きっと、僕だけがこの非日常的な体勢にドキドキしているのだと思う。
だって、翔太くんは子どものように目をキラキラさせて僕の足を眺めているし、元々パーソナルスペースだって無いに等しい人物だ。
これくらい何とも思ってなさそうだ。
だから僕も心を揺らがせていたらダメだと思うのに、いちいち身体が反応してしまう。
「翔太くんだって、筋肉質で、綺麗な足だと思う……けど」
僕は翔太くんの注意を逸らそうと、恐る恐る言った。
「いや、全然、そんなことないよ。俺の足なんか傷だらけだよ?ほら」
翔太くんは僕の足を優しくカーペットの上におろして、自分のズボンを捲ってみせた。
「ほら、ここは昔に相手選手のスパイクが刺さった跡だし、これは一昨日ぶつかって出来た青あざ。ここも試合中に怪我した跡だしさ。もう傷だらけで何してんだよって感じでしょ」
翔太くんの足には小さな傷跡から鬱血した痣、出来立ての瘡蓋まであった。
「……痛そう。でも、これまで頑張ってきた証みたい」
傷跡は翔太くんの生き様を表す証のように見えた。
僕はそっと翔太くんの小さな傷跡に手を伸ばした。
少し盛り上がって治った傷跡に触れると、負傷時の衝撃と痛みが伝わってくるような気がした。
どれだけ痛む傷を負っても、その度に治して、ずっとサッカー選手として過ごしてきたのだと思うと、素直に尊敬の気持ちが湧いてくる。
「ははっ、ありがと。これでも俺は大きな怪我はして来なかった方だし、俺くらいの怪我はみんな経験してるだよね。……大怪我してもさ、根性と才能があるやつは結局、上に行くんだよ」
「うえ?」
「そ、上。上位リーグ」
スポーツ経験が無さすぎて、僕には上位リーグがどれほど手の届かない場所なのかわからなかった。
だけど、プロである翔太くんが少し寂しそうな表情をしたから、多分、すごく遠い場所なんだろうなって思った。
「もし、そうだったとしてもさ。僕にとって翔太くんは、すごく輝いて見えてるよ。どこからどう見ても、夢を叶えた格好いい男に見える。僕の方が年上なのに憧れの存在だよ」
そうだ。
夢を見ているままの僕と違って、翔太くんはちゃんと夢を叶えた人だ。
「僕はね、夢を語る翔太くんから希望をもらってるよ。僕も翔太くんの精神を見習わないとって」
「いや、春馬さんの方が凄いよ。絶対に」
翔太くんが僕の言葉に被せるように言った。
「だって、前に春馬さんの家に行った時にびっくりしたもん。机の上に難しそうな教科書とか、紙とか置いててさ。本棚なんか漫画より教科書の方がいっぱいあってさ。その時、あぁ、この人には敵わないなって思った」
翔太くんが腕を組んで、うんうんと首を振った。
「そんなことないよ。絶対に翔太くんの方が凄いよ」
「いーや。それはない。100%春馬さんの方がすごい」
「いやいや、そんな…………ふっ……ふふ」
何度も謙遜をし合っているうちに、なんだか可笑しくなってきた。
僕が笑うと翔太くんも釣られて「ははっ」と笑った。
「じゃあ俺も春馬さんも、お互いにすごいってことにしとこうよ。もう俺、この会話恥ずかしくなってきた」
翔太くんは手でパタパタと顔を仰いだ。
僕も何度か頷き、照れくさい気持ちを紛らわした。
それから翔太くんは喋りながら僕の足を持ち上げて、手際よくテーピングを巻いた。
シュルシュルという音と徐々に固定されて自由がなくなる足首の感覚を感じながら、やっぱり翔太くんは凄いなと思った。



