紙芝居「キジはどこへ」始まり始まりー!


時は流れました。
ゴリラとキジの時代が過ぎ、森にはまた静けさがもどってきました。
だけど、風はまだ弱く、空は遠いまま。
かつて空を飛んだキジたちは、木々の影の下で、小さな命を育てながら、空を思い出していました。

若いキジたちは、そんな森の中で生まれました。
高い木々が風をさえぎり、空の色もよく見えません。
それでもみんな、ここが世界のすべてだと思っていました。

ある日、子どものキジがたずねました。
「ねえ、空って、ほんとうにあるの?」

年長のキジは、しばらく考えてから言いました。
「あるよ。でも、ときどき見えなくなることがあるんだ。」

「どうして?」と、子どもたちは首をかしげました。

「空の向こうには、大きな影があるんだ。
 森の外では、ゴリラの国が力の腕を広げ、
 虎の国が金の目で見張り、
 オオカミの国が森の端でうなっている。
 風はその間をすりぬけて、やっとここに届くんだよ。」

子どものキジたちは、少しこわくなりました。
「じゃあ、ボクたちは、どうすればいいの?」

年長のキジは、やさしく羽を広げました。
「空をうばわれたと思うときこそ、
 心のなかに空を見つけるんだよ。
 風のにおいをかいで、羽をひろげてごらん。
 きっと、見えない空が見えてくる。」

木々のすきまから、一筋の光がさしこみました。
子どもたちは顔を上げます。

「ボクたちも、飛べるかな?」

「きっと飛べるよ」と年長のキジ。
「でもね、どの空へ向かって飛ぶかは、君たちが決めるんだ。」

森の風がそっと吹き抜けました。
木の葉がゆれ、どこか遠くで、鳥の声が響きました。

キジはどこへ?
あなたは、どこへ?

風が、また森を抜けていった。

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真理は、手話で「空」を示し、

天を仰ぎました。

講堂で物語を聞いた子供たちの中の一人が、手を小さく握りしめて心の中でつぶやきました。「?」

講堂に響く拍手に真理はそっと微笑む。物語は集まった子供たちの胸の中で灯火となり、想いが次の未来へ渡されていくのを願う。

手話ナレーターのボランティアを続ける真理。彼女の声はまだ戻らない。



END