柊太は一週間後、入隊手続きを済ませたその足で学校からいなくなった。

 彼は出発前の最後の晩に僕の家まで来て、少し言いにくそうにしていたが、
「俺は戦争が終わったら街に帰ってくる。それまで風歌のことは頼む」
 そう言った。

 柊太には、彼女のことをどれだけ大事に想う気持ちがあったのか、僕は初めて気づいた。
 それでつい気後れしながらも、何とか口にした。
「それじゃ柊太、無事に戻れよ、風歌のためにも」
「わかってるさ」
 それから僕らは固い握手を交わした。
 その気圧されそうな彼の手の熱さは、今も忘れない。

 彼を見送った翌朝。
 空きとなった彼の席に思わず気を取られていると、風歌がやって来て僕にだけ聞こえるように言った。
「あなたとは、また明日からも会えるのね」
 
 そのとき彼女の顔を見ることができなかったが、僕は気持ちがある方向へ一気に振り切ってしまった。