アメリカだって本土に対する核ミサイルでの報復攻撃を思ったら、たかだか極東という僻地の小国、黄色い人種のために自国の核を使ってリスクを背負うのは相当ためらうに違いない。
 核なんかでなくても、原発に巡航ミサイルでもぶっ放されたら、この国は終わる。
 そういう事実を話題にせず目を背けている大人たちが、僕には気味悪くて仕方なかった。

 そんな中にあって、相変わらず柊太はグラウンドでサッカーボールを蹴っては、急いで着替えて塾へ向かう姿を見せていたし、やはりそれを風歌が目で追い、それをまた僕がそのほっそりとした後ろ姿を眺めていた。
 それが二週間、三週間とたって、たちまち二ヶ月目に入った。
 僕らは日常生活がほぼ守られていた半面、戦闘が膠着状態に陥ったのだろう。
 僕が柊太に呼ばれたのは、そんな折だったと思う。

 放課後、窓際に僕を呼び寄せて彼はちらりと教室を見渡し、僕ら二人以外誰もいないことを確かめていた。
 それから真顔で「お前はどう思うか教えてくれ」と言った。
 僕はまさかと思ったが、彼はそれを口にした。

「俺さ、応募しようと思うんだ」

 担任教師が昼間、今度始まる臨時徴兵制度と学徒動員のことを話していた。

「軍に入って国を守りたい。それは家族を守ることになるし、お前らを守ることになる」