僕は近くのバス停で降り、慌てて道路を渡った。
鳩達は近くの電線に停って羽を休めては、また、飛び立つ。
統率されたその白い姿は昔国語の教科書で読んだ小さな魚達が大きな魚を形作るその姿に似ていた。
少し飛んでは、また戻る。群れは崩さない。
正に、白木蓮 - !

溢れる涙を止められない。
彼はきっと白木蓮を見ながら、ずっとこの光景を思い出していたのだ。
僕はずっと彼の隣にいながら同じものは見られなかった。彼の心に触れようとしなかった。
- 愛してる。
彼は、
どんな想いで僕にそう言ったのか。
そして、僕を抱いたのか -

白い鳩が飛ぶ。
濃く青い空を。広い、広い青空を。
それはまるで白い花が一斉に咲き出すような美しさ。
僕は、
ようやく彼の孤独に触れた。
それはとても冷たく、僕は、温めるためにじっと抱きしめた。

あれから数年。
彼が辞めてしまった大学を僕は無事に卒業した。
僕は最後にカフェテリアのテラス席で珈琲を飲んだ。
最後に飲んだ珈琲の色はどこまでも黒く、
しかし、そこには絶望の色は見られず。
僕は最後に見た彼のジャケットを想った。
彼の温もりを、想った。