バスケをやめたオレに対し腐れ縁の後輩がウザすぎる

 その翌日。オレたちはゴールネットの近くに立った。
 今からシュートをする。
 行ける気がする。昨日に比べてもそんな根拠のない自信がある。

 オレは精神を研ぎ澄ます。
 大丈夫だ。シュートが出来ないわけがない。確実に決まる。これは決定事項なのだ。

 オレはゴールに向けてゆっくりと投げた。そのボールは宙で小さく回転し、そのままネットを突き破った。

 「うおおおおおおお」

 オレは雄たけびを上げた。それに呼応して俊太も叫ぶ。何はともあれ、これでゴールが決まった。
 もうトラウマとはおさらばだ。



 その二日後。オレたちは入部届を提出した。


 「ようやく戻ってきたか、良太」

 そう、当時二年。現在三年の先輩がそう言って出迎えてくれた。

 「迷惑かけてすみませんでした」

 オレはそう言って頭を下げた。

 「本当だよ。君がいなかったおかげで、戦力が半減してたんだから」
 「そうですね」

 バスケにおいて身長は一種の武器だ。

 だからこそオレは一年ながらに、レギュラーに慣れたわけで。
 しかもあれから二センチほど伸びているから、戦力としてはさらに増しているはずだ。
 だけど、

 「でも、暫くバスケはしていなかったので、即戦力扱いはやめてください。それと」

 オレは俊太の肩を掴む。

 「こいつもよろしくお願いします。小柄ですが、バスケ経験者ですよ」

 俊太がいなければ、オレはバスケ部に入らない。そう決めたのだ。

 「分かった、入部と、再入部歓迎する」

 そしてその日、軽くだけバスケをして、家に帰る。
 緊張した。何しろ、久しぶりのバスケ部だったからだ。
 しかし、みんな何も変わっていないな、そう感じた。
 皆まんまオレが部活をやめた8か月前と同じような感じだ。

 なつかしさに、心打たれた。そんな気持ちを感じた。


 「イヤー運動部に二人ではいれるのは、ほんと同姓カップルの魅力ですねえ」

 俊太がしみじみという。

 「まあ、先輩らしくしごいてやるから安心してくれ」
 「いや、それは安心できないから」
 「諦めてくれ。もう、逃げ道はないからな」

 怪物レベルの実力者にはさせてあげられないかもしれない。だけど、オレにとって俊太は大切な存在だ。
 スタメンで出られるレベルにはさせてあげられる。

 「二人でバスケで無双してやろうな」
 「俺は良太だけが活躍したらいいんすけど。だって俺はこんなんだし」
 「だめだ。活躍するなら二人でだ」

 そう言った瞬間だった。

 「先輩、疲れたからおぶってください」
 「はあ?」
 「疲れた」

 そう言って俊太はオレの背中に乗ろうとしてくる。

 その瞬間背中に凄まじい重みを感じた。

 「お前なあ」

 自分の体重を考えて欲しい。
 俊太は小柄とは言え、男子高校生だ。そこまで軽くない。
 背中にずっしりとのしかかる重み。

 だけど、不平不満を言いつつも、俊太を背中に背負うのは正直楽しかった。

 「良太のために、俺は頑張ったんだから、報酬が欲しいんだよ」
 「報酬か、それならもう」

 そう思い返すと、俊太にはそこまでご褒美というなの密着はしていない。

 「なら、俊太は何をしてほしいんだ」
 「今こうして密着してるのも、十分ご褒美だけど、そうだなあ」

 俊太はさらに体重をかけて来る。
 衆目の面前でこんなことをしているのは正直恥ずかしいから、本音は家でしてほしいんだけど。

 「良太」

 そして、俊太はオレの口をふさぐ。

 「続きは後でしましょう」

 何が始まるのだろうか。


 そう思っていたのだが、家について早速バスケだ。

 「なんでまたバスケなんだよ」
 「え、いいじゃんか。それに」

 俊太がオレにボールをパスしてくる。

 「それに?」
 「今からすることは良太にとっても大事な事のはずなので」

 一体何なんだ。
 そう思ったのも、束の間。

 俊太は勢いよくオレからボールを奪おうとしてくる。しかしだ、オレと俊太の身長差はおおよそ30センチ近くに及ぶ、
 オレがちゃんとしたら、ボールは奪われないだろう。
 だが、それでは面白くない。
 オレはボールをその場でバウンドさせる。そう、ドリブルだ。

 そして、向かってくる俊太の猛攻を退けようと、左右に動いて俊太を翻弄する。

 「あー、良太」
 「どうした?」
 「三歩以上歩きましたね。反則っす」
 「はあ?」

 トラベリングか。

 しかし、
 タイマンで反則なんてある訳ねえだろ。
 バスケがチームプレーだから成り立っているルールなわけで。

 「隙あり」

 俊太はオレからボールを奪い取ってきた。
 完全に隙を突かれたオレはボールをあっさりと、俊太に手渡してしまった。

 「俺の勝ち」
 「なわきゃねえだろ」

 ずる過ぎて、これで勝って本当に面白いのか、と思ってしまう。

 「悔しかったら、俺からボール取ってみてくださいよー、お尻ぺんぺーん」
 「お前は小学生か」

 そしてオレは俊太に対して猛アタックする。

 そしてあっさりと奪い返した。

 「ああ!!」
 「年季が違うんだ」

 いくらオレのバスケをしていない期間が長かったとは言え、その前に辞めた俊太に負ける理由などない。

 「むう、リベンジ」

 そして俊太は小柄な体を生かして、オレのボールを奪おうとした。









 「はあはあ、しつこい」

 あれからどれくらい経っただろうか。時計を見ると、もう一時間は経っている。
 俊太も小柄とは言え、体力は小学生ほどはないはずだ。
 一隊何が俊太をここまでさせているのか。

 ポイントでは、オレの方が優勢だ。勿論もはや入れた回数なんて覚えていないが、それでもたぶん倍くらいはあるだろう。


 「疲れたあ」

 そして俊太が先に床に寝ころんだ。土の上だから正直汚いだろう。だけど、今の俊太にはそれを気にしないのだろう。

 「本当によく粘ったよ」
 「流石先輩、すごすぎる」

 そう言って俊太が肩から息を鳴らす。

 「でも、これで良太のバスケのブランクも軽くは抜けたでしょ」
 「かもな」
 「さて、一緒に寝ましょうか」
 「なんでそうなる!!」
 「良太の親にはもう許可取ってありますからー」

 そうだった。オレたちは家族ぐるみの付き合い。だからこそ、打ちの親はオレが俊tなお家に泊まると言っても、反対はしないだろう。

 「分かった」

 そして、オレは俊太の家出ご飯を食べて、そのままの格好で俊太の部屋の床の上に布団を敷いて寝た。

 俊太の家は基本ベッドなのだが。
 しかし、俊太は親が去った後、もう一つの布団を敷いてきた。
 そう、オレたち二人でねるようのだ。

 「用意が本格的だな」
 「勿論。本格的じゃないとだめだから」

 そして、俊太は寝返りを打つ。
 オレの隣には俊太の顔だ。
 こんな近くで俊太の顔を見ることもそんなにない。
 ああ、緊張する。

 おそらく今のオレは顔を赤くしている。
 無茶を言わないでくれ。ただでさえ、緊張の塊のような状況なんだから。

 「照れてる良太って可愛いよね」

 何だこの小悪魔は。
 ただそれを言う俊太の顔が可愛らしくてまた緊張してくる。
 俊太の吐息がオレの顔に直接あたる。
 別にエロい事なんて一つとしてしていないはずなのに、ドキドキが止まらない。完全に今のオレはおかしい。

 「なあ、俊太」
 「どうした?」
 「お前さあ、ずるいよな」
 「ずるい?」
 「ああ、そうやって他の女子も虜にしたんだろ」

 そう言うと、俊太は口元に指をあてる。

 「どうですかねえ」

 なんだ、その悪役感のある演技は。

 「でも、オレの周りにいる子たちも、良太が思う通りじゃないっすか?」
 「つまり自分のかわいらしさを武器にしているってことだな」
 「まあね」

 そう口にする俊太は、少しだけ楽しそうだった。

 「でも、その時はオレが本当に欲しかった人は手に入らなかったけどね」

 そう言って俊太は笑う。

 その俊太の表情は明るい。

 「良かったな」

 オレはそう言って俊太の頭を優しく撫でる。

 「あ、ずる。それ俺がやりたかった」
 「文句言うな」

 オレがそう言うと、俊太はまた笑った。
 そしてしばらく会話をした後、俊太はうとうととし始めた。

 「もう寝てもいいぞ」

 オレは俊太に優しくそう語りかけた。

 「はい。悔しいですが」

 悔しいというのは、オレともう少し話したかった、という事だろう。
 それが俊太にとっては悔しかったのだ。

 「また、一緒に寝よう」
 「はい」

 そして俊太は、すやすやと寝始めた。
 その小柄な見た目も相まってまるで子供みたいだ。

 オレも寝ようと、目を閉じたが、スグに目を見開かなくてはならなくなった。
 その理由は単純だ。俊太がオレに思い切り抱き着いている。

 寝られるわけがあるか。それがオレの今の率直な気持ちだ。その愛らしい寝息。それを前に寝られるほど、オレの精神は安定していない。
 ああ、くそ。俊太可愛すぎるだろ。
 モテモテなのもそりゃうなずけるわ。

 「ああくそ」
 もう一度ため息をつく。

 オレは一体どうしたらいいのだろうか。
 その日、俊太の寝息のせいで中々嗣明に入れなかった。明日は睡眠不足確定だろう。

 そして、翌日。またバスケ部の練習へと向かった。
 昨日汗を流したとはいえ、まだまだスランプはある。
 身体が思うように動かない。

 身体が重く、少しの運動でしんどく感じる。
 そしてそれは俊太も同じなようで、俊太も苦しんでいる。
 無理もないだろう。俊太はオレ以上に運動していない期間が長かったのだから。

 そしてその三日後に、練習試合が組まれることが決定した。
 相手は県内でも有数の実力校だ。

 監督の前原さんはオレに「次の試合、お前を使う」と言った。
 正直責任が重い。ベンチスタートでもよかったのに。
 だけど、不平不満を言うと、また俊太に怒られそうだ。

 決まってしまったことは仕方がない。当たって砕けろで、頑張るしかない。

 練習試合自体は、我が校の体育館でやる。公開試合だ。
 つまり我が校の生徒は勿論相手校の生徒も全員見る権利が存在する。
 さて、そんな中でオレはまた一年前以上の活躍をしなければならない。
 傷は、ほとんど完治している。
 だけど、まだ完全に痛まないわけではない。

 早速、仁志に愚痴を言う。

 「明後日の試合で活躍できる未来が見えないんだけど、オレはどうしたらいい」

 そう、仁志に泣きつく。
 仁志も困るだろう。急にこんなことを言われて。
 しかし、俊太はオレの活躍を期待している。
 そんな俊太に対して、マイナスな事を言う訳にはいかないのだ。

 「そんなこと言ったって、頑張るしかないだろ」
 「そうだよな。オレ、毎日練習するわ」
 「がんばれ」

 そして、オレは毎日最後まで残って、練習をした。一番したのはシュート練習。またあの悲劇が起きたらいけないのだ。

 「先輩」

 俊太の声がする。

 「良太、もうそれくらいで良いよ」
 「これくらいでいい?」

 どういう事だ。

 「明日の試合は、ただの練習試合。良太に実践感覚を取り戻させようという監督の粋な計らいですよ。それに」

俊太がオレの元に来る。

「良太が失敗しても、文句を言うようなやつはいないからね」

その言葉に、オレは小さくうなずいた。
そして、その翌日。ついに練習試合が始まった。