オレは仁志に相談した。
勿論相談内容は、俊太の事だ。
オレは俊太と付き合った方がいいとはわかっている。
世間では逆風が吹いているかもしれない。だけど、それを二人きりの秘密にしておけば、誰にも文句を言われる筋合いはないのだ。
それを分かっているのに、告白の答えが中々出せないのは、オレの心が弱いからなのだろうか。
「なるほど、つまり君は告白されて告白を受けたほうがいいと分かっているのに、中々告白に応える勇気が無いって言うんだね」
その言葉に、オレは静かにゆっくりと頷いた。
「頼む、オレにアドバイスしてくれ」
「アドバイスって言われてもなあ」
仁志は腕を組み、「うーーん」とうなる。
「受けたら? っていう答えしか思いつかないんだよ」
「だよなあ」
そうだよなあ、と思いオレは首を傾げた。
「そう言えば、お前の好きな人は」
「言わない。というか告白は向こうからしてきた」
「言えよ。親友だろ」
「言えんもんは言えん」
そもそも、男同士って知られたら。
勿論、仁志の事を信用していないわけじゃない。
ただ、知られたらまずいことになるかもしれない、という事には何の変わりもないのだ。
「もしかして、後輩の俊太くんだったりして、前うざいって言ってたし」
まさか分かってて言ってるのか。
話が変わってきた。でも確か前に、何で分からないのかが分からない、と言われたことがある。
オレが俊太の家に呼ばれた時だ。
確信していてもおかしくない。が、
「違うよ」
オレはあくまでも、否定した。
違うくはない。合ってるからこそ、否定しなくてはならないのだ。
そしてそれからは、世間話に入って行った。
オレは家に帰り、とりあえずネットのBL小説を読み漁る。
どれも、どれも深い物だった。
色々な恋の形と行ったら何だが、それぞれ男同士で恋愛してもいい、という感じだ。
現実もそうだろう。
いちゃもんを付けられたら、言い返すことなんてできる。
ネットだってそうじゃないか。同性婚を認めようとか、そんな話が出ている。多様性だ。
それに、俊太とは友達の延長戦でつながり、その中で恋人らしい行為を入れたらいい。
合わないなと思えば、その時に別れを切り出せばいい。
よし、決めた。だけど、まだ迷いがある。
一日置いた方が、いい選択ができるとも言うし……。
よし、一晩寝て、答えが変わらなかったら、返事を返そう。
勿論肯定の返答だ。
その翌日。オレは目がはっきりと覚めた。
よし、チャンスだと思った。
今日、答えを出そう。そして、無理になったらいつでも友達に戻ればいい。如何にも簡単な話だ。
オレは昼休みになるとすぐに俊太の教室へと向かった。
「俊太」
オレはドアを開ける。そして俊太の名前を呼んだ。
「先輩、どうしたんすか? 良太から来るなんて、珍しい」
どうやら、ため口のお願いはまだ守っているようだ。
「俊太、話がある」
そのオレの言葉に、俊太は真剣な顔で「はい」と言った。
そしてオレたちは屋上へと向かった。
「良太さん、俺は何の答えが来てもいいように、覚悟してますよ」
風に吹かれながら、俊太はそう言った。
覚悟、覚悟か。俊太の言うその覚悟がいかほどの物であるのだろうか。
オレには分かっている。
オレは、元カノを振る勇気のなかった男だ。
元カノをもう好きでないことを分かっていたのに、した行動は距離を取るという物だった。
だからこそ、思うのだ。今俊太の告白から逃げるわけにはいかない。
ちゃんと誠実に答える必要がある。
そして、その答えは――
「俊太」
オレは。叫ぶ。
「告白の答えを言う」
オレとしても、勇気のいる物だ。だけど、
「OKだ」
そして、オレは低い声で言った。その瞬間、体に重みが出来た。俊太に乗っかかられたのだ。
「お前なあ、いきなりすぎるだろ」
「ごめんなさい。でも、感情が抑えられなくて」
「分かったから」
オレはそんな俊太を優しく撫でた。
「先輩、良太大好き」
そして強く抱きしめられた。
そして、放課後、オレは俊太の家にお呼ばれした。
正直今、俊太の家に入るのは緊張する。
今のオレは先輩でもなく友達でもなく、彼氏として俊太の家に入るのだ。
「今日は両親いるんで、挨拶必須っすよ」
挨拶必須なのか。
しかも家に入る直前に言わないでくれ。
今のオレは俊太の両親をどういう目で見たらいいのか、全く分からないんだ。
そして家の中に入ると、俊太の両親がいた。
「こんにちは、お邪魔します」
そう一言いうと、「ゆっくりしてね」と、俊太のお母さんが言った。
そして、オレたちは上の部屋へと上がっていく。
「どうして彼氏だって言わないんですか」
俊太は不満げだ。
「俺と先輩は恋人なんです!!」
「そう言う話じゃないだろ」
話すとしても流石にまだ早すぎる。
「まだ男子同士の恋愛は」
「良太、言おう」
「だからダメだって!!」
何度言えば、こいつは分かってくれるんだ。
そして、オレは、俊太を押し倒す。
「ごめん」
これはだめだ。
「いんだよ。っていうか」
俊太は勢い、オレを跳ね返す。
「俺が責めっすから」
その上に、俊太の顔が見える。
「なにするつもりだよ」
「恋人らしいこと。せっかく恋人同士に慣れたんだし、やらなきゃ損だと思って」
「いい加減に」
「ほらほら」
うわ、俊太の野郎、オレにこちょこちょをしてきた。
「やめろ、くすぐったい。恋人らしい行為ってこれかよ」
「そうっすよ」
「いい加減に」
俊太を力で引きはがそうとしたら、バランスを崩したらしい俊太がオレに乗っかってきた。
「先輩、ハグ」
「ああ、もう」
オレは俊太をハグした。
その俊太の顔は赤くなっていた。
「良太、もうバスケはしないんですか」
その後、ゲームを二人でしていると、その途中で俊太が言った。
「バスケ?」
「オレ、良太がバスケをしているところを見たいんですよ」
「バスケか」
バスケは怖い。オレの子の足は治っている。だけど、バスケには嫌な思い出がたくさんある。
「あまりしたくはないんだけどな」
「じゃあ、俺とワンプレーお願い」
「ワンプレー?」
「良太さんのバスケを復活させたいんです。また見たいから」
「無理だ」
オレは小さくそう呟いた。
「もうオレにはバスケは出来ない。そんな感触があるんだ」
「それは、良太のメンタルの問題でしょ?」
「あ、ああ」
そう言われれば、そうかもしれない。
だけど、安易に精神の問題とは言われたくない。
オレはバスケの最後は悪いイメージで終わった。
しかもオレは少しバスケに嫌になっていた節があった。
あんな形で終わったのは残念だけど、オレにはもう、バスケに対する未練なんてない。
だからこそ、もういいのだ。
オレはもう、バスケが出来なくても、大きな問題はない。
バスケが出来るか出来ないなら、出来たほうがいいくらいの問題しかない。
「オレは別にいい」
「やるってこと。ならさっさと――」
「いや、バスケは別にしないっていう事だ」
「なんでっ!!」
「もういいよ。もう」
「良太には勇気が無い!! 俺をそれで見逃せると思わないで」
「え?」
「良太さん、手を掴んで」
俊太はオレに手を差し出してきた。
オレはその俊太の手を掴んだ。
そして、少しづつ歩いていく。
俊太は手を放そうとはしてくれない。
どうしたらいいんだ。オレは行きたくないのに。
「なあ、俊太」
「聞かない!!」
そして近所の公園に連れられる。周りに人はいない。当然だ。子どもたちは家に帰っている時間だから。目の前にはバスケのシュートがある。
本気だ。こいつは本気だ。
「オレがやるのか」
俊太からボールを渡される。今からオレはこれでシュートを決めろってことだろう。
無理だ。オレにはゴールネットが果てしなく遠く見える。体が震えて、まともにゴールが見えない。
手が震える。
「投げてください」
そのの俊太の言葉を受け、ボールを投げる。だけどボールは5センチほど飛んだあと、急下降し地面を転々と転がっていく。
「何してんすか、先輩」
「オレには無理だ」
オレには無理なのだ。
「足が動かねえんだよ」
「良太さんってそんな弱い人間でした?」
「え?」
「良太ってそんなダメ人間でした?」
「だめじゃないけれど」
「なら頑張ってください。俺がついてるから」
そう言って俊太はオレの手をギュッと握りしめ、そして後ろから軽い力でハグをした。
「パワーを送ります。頑張ってください」
そんな。イマジナリーで急に投げられることがあるのか?
と思った。
だけど、
なんとなく行ける気がする。
オレはボールを投げた。
そのボールは遥空に飛んで行った。
そう、ゴールネットとは違う方向に。
「やっぱり駄目だ」
結局俊太が色々と協力してくれたが、中々ゴールには入らず。
結局諦める次第となった。
「あーもう。どうしてだよー」
俊太は伸びをしながら言った。
「すまんな」
「良太のせいじゃないっすよ。むしろ俺のせい」
「そんなことねえよ。オレのせいだ。オレの覚悟が足りなかった」
そうオレの覚悟が。オレの勇気だ。せっかくやる気になったというのに、オレの心は燃えていなかったようだ。
そもそも、何でバスケをし始めたんだっけか、オレは。
バスケは最初は楽しかったはずだ。
高身長だったから、という理由もあったとはいえ、ちやほやされたからというのもある。
だけど、オレが一番楽しかったのは。シュートを決める快感だ。
そして、それを見て喜んでくれる人だ。
ああ、そうじゃないか。俊太がいつも見てくれていた。
あの時は弟のように思っていた俊太が、オレのシュートを見て目を輝かせていた。
『俺背が小さいからさ、バスケ出来ねえから先輩が羨ましいよ』
そう言われたことを覚えている。
そう言わば、俊太が喜んでくれるからやっていたという側面もある。
「なあ、俊太」
「なんすか?」
「俊太は、身長が低くて嬉しいか?」
「それはどういう?」
「背が小さいから、女子たちにモテてただろ」
俊太の身長は160を切っている。157だ。
女子と同程度の身長の俊太は、中学の時に体質的に身長が伸びないことを医師に宣告された。
俊太がバスケを本気でやめたのはその時期だ。
現実は漫画とは違う。小さいけれど強いなんて言うのは通用しない。
大きくて強い人にはもちろん、大きくて弱い人にも蹂躙されてしまう。
20センチ以上ものハンデを背負う俊太は、そんな選手たちに勝つために、20センチ以上高く飛ぶ必要があるのだ。
「嬉しくないっすよ。女子たちと仲良くできるのは嬉しいですけど、この身長を恨んだことなんて数えられない程です」
やっぱりそうなんだな。
「俊太。もう一回オレと一緒にバスケ部に入らないか?」
「え?」
「オレは俊太と一緒だったら上手く行きそうな気がするんだ」
勿論、これは気がするだ。
本当に上手く行くのかどうかには、怪しい部分もある。
だけど、
「明日。公園のシュートが決まったら、オレと一緒にバスケ部に入ってくれないか?」
「はいっ!!」
俊太はそう言ってオレの手を取った。
「バスケしている良太が見れるなら、俺は何でもします」
そう言って俊太が元気に笑った。
勿論相談内容は、俊太の事だ。
オレは俊太と付き合った方がいいとはわかっている。
世間では逆風が吹いているかもしれない。だけど、それを二人きりの秘密にしておけば、誰にも文句を言われる筋合いはないのだ。
それを分かっているのに、告白の答えが中々出せないのは、オレの心が弱いからなのだろうか。
「なるほど、つまり君は告白されて告白を受けたほうがいいと分かっているのに、中々告白に応える勇気が無いって言うんだね」
その言葉に、オレは静かにゆっくりと頷いた。
「頼む、オレにアドバイスしてくれ」
「アドバイスって言われてもなあ」
仁志は腕を組み、「うーーん」とうなる。
「受けたら? っていう答えしか思いつかないんだよ」
「だよなあ」
そうだよなあ、と思いオレは首を傾げた。
「そう言えば、お前の好きな人は」
「言わない。というか告白は向こうからしてきた」
「言えよ。親友だろ」
「言えんもんは言えん」
そもそも、男同士って知られたら。
勿論、仁志の事を信用していないわけじゃない。
ただ、知られたらまずいことになるかもしれない、という事には何の変わりもないのだ。
「もしかして、後輩の俊太くんだったりして、前うざいって言ってたし」
まさか分かってて言ってるのか。
話が変わってきた。でも確か前に、何で分からないのかが分からない、と言われたことがある。
オレが俊太の家に呼ばれた時だ。
確信していてもおかしくない。が、
「違うよ」
オレはあくまでも、否定した。
違うくはない。合ってるからこそ、否定しなくてはならないのだ。
そしてそれからは、世間話に入って行った。
オレは家に帰り、とりあえずネットのBL小説を読み漁る。
どれも、どれも深い物だった。
色々な恋の形と行ったら何だが、それぞれ男同士で恋愛してもいい、という感じだ。
現実もそうだろう。
いちゃもんを付けられたら、言い返すことなんてできる。
ネットだってそうじゃないか。同性婚を認めようとか、そんな話が出ている。多様性だ。
それに、俊太とは友達の延長戦でつながり、その中で恋人らしい行為を入れたらいい。
合わないなと思えば、その時に別れを切り出せばいい。
よし、決めた。だけど、まだ迷いがある。
一日置いた方が、いい選択ができるとも言うし……。
よし、一晩寝て、答えが変わらなかったら、返事を返そう。
勿論肯定の返答だ。
その翌日。オレは目がはっきりと覚めた。
よし、チャンスだと思った。
今日、答えを出そう。そして、無理になったらいつでも友達に戻ればいい。如何にも簡単な話だ。
オレは昼休みになるとすぐに俊太の教室へと向かった。
「俊太」
オレはドアを開ける。そして俊太の名前を呼んだ。
「先輩、どうしたんすか? 良太から来るなんて、珍しい」
どうやら、ため口のお願いはまだ守っているようだ。
「俊太、話がある」
そのオレの言葉に、俊太は真剣な顔で「はい」と言った。
そしてオレたちは屋上へと向かった。
「良太さん、俺は何の答えが来てもいいように、覚悟してますよ」
風に吹かれながら、俊太はそう言った。
覚悟、覚悟か。俊太の言うその覚悟がいかほどの物であるのだろうか。
オレには分かっている。
オレは、元カノを振る勇気のなかった男だ。
元カノをもう好きでないことを分かっていたのに、した行動は距離を取るという物だった。
だからこそ、思うのだ。今俊太の告白から逃げるわけにはいかない。
ちゃんと誠実に答える必要がある。
そして、その答えは――
「俊太」
オレは。叫ぶ。
「告白の答えを言う」
オレとしても、勇気のいる物だ。だけど、
「OKだ」
そして、オレは低い声で言った。その瞬間、体に重みが出来た。俊太に乗っかかられたのだ。
「お前なあ、いきなりすぎるだろ」
「ごめんなさい。でも、感情が抑えられなくて」
「分かったから」
オレはそんな俊太を優しく撫でた。
「先輩、良太大好き」
そして強く抱きしめられた。
そして、放課後、オレは俊太の家にお呼ばれした。
正直今、俊太の家に入るのは緊張する。
今のオレは先輩でもなく友達でもなく、彼氏として俊太の家に入るのだ。
「今日は両親いるんで、挨拶必須っすよ」
挨拶必須なのか。
しかも家に入る直前に言わないでくれ。
今のオレは俊太の両親をどういう目で見たらいいのか、全く分からないんだ。
そして家の中に入ると、俊太の両親がいた。
「こんにちは、お邪魔します」
そう一言いうと、「ゆっくりしてね」と、俊太のお母さんが言った。
そして、オレたちは上の部屋へと上がっていく。
「どうして彼氏だって言わないんですか」
俊太は不満げだ。
「俺と先輩は恋人なんです!!」
「そう言う話じゃないだろ」
話すとしても流石にまだ早すぎる。
「まだ男子同士の恋愛は」
「良太、言おう」
「だからダメだって!!」
何度言えば、こいつは分かってくれるんだ。
そして、オレは、俊太を押し倒す。
「ごめん」
これはだめだ。
「いんだよ。っていうか」
俊太は勢い、オレを跳ね返す。
「俺が責めっすから」
その上に、俊太の顔が見える。
「なにするつもりだよ」
「恋人らしいこと。せっかく恋人同士に慣れたんだし、やらなきゃ損だと思って」
「いい加減に」
「ほらほら」
うわ、俊太の野郎、オレにこちょこちょをしてきた。
「やめろ、くすぐったい。恋人らしい行為ってこれかよ」
「そうっすよ」
「いい加減に」
俊太を力で引きはがそうとしたら、バランスを崩したらしい俊太がオレに乗っかってきた。
「先輩、ハグ」
「ああ、もう」
オレは俊太をハグした。
その俊太の顔は赤くなっていた。
「良太、もうバスケはしないんですか」
その後、ゲームを二人でしていると、その途中で俊太が言った。
「バスケ?」
「オレ、良太がバスケをしているところを見たいんですよ」
「バスケか」
バスケは怖い。オレの子の足は治っている。だけど、バスケには嫌な思い出がたくさんある。
「あまりしたくはないんだけどな」
「じゃあ、俺とワンプレーお願い」
「ワンプレー?」
「良太さんのバスケを復活させたいんです。また見たいから」
「無理だ」
オレは小さくそう呟いた。
「もうオレにはバスケは出来ない。そんな感触があるんだ」
「それは、良太のメンタルの問題でしょ?」
「あ、ああ」
そう言われれば、そうかもしれない。
だけど、安易に精神の問題とは言われたくない。
オレはバスケの最後は悪いイメージで終わった。
しかもオレは少しバスケに嫌になっていた節があった。
あんな形で終わったのは残念だけど、オレにはもう、バスケに対する未練なんてない。
だからこそ、もういいのだ。
オレはもう、バスケが出来なくても、大きな問題はない。
バスケが出来るか出来ないなら、出来たほうがいいくらいの問題しかない。
「オレは別にいい」
「やるってこと。ならさっさと――」
「いや、バスケは別にしないっていう事だ」
「なんでっ!!」
「もういいよ。もう」
「良太には勇気が無い!! 俺をそれで見逃せると思わないで」
「え?」
「良太さん、手を掴んで」
俊太はオレに手を差し出してきた。
オレはその俊太の手を掴んだ。
そして、少しづつ歩いていく。
俊太は手を放そうとはしてくれない。
どうしたらいいんだ。オレは行きたくないのに。
「なあ、俊太」
「聞かない!!」
そして近所の公園に連れられる。周りに人はいない。当然だ。子どもたちは家に帰っている時間だから。目の前にはバスケのシュートがある。
本気だ。こいつは本気だ。
「オレがやるのか」
俊太からボールを渡される。今からオレはこれでシュートを決めろってことだろう。
無理だ。オレにはゴールネットが果てしなく遠く見える。体が震えて、まともにゴールが見えない。
手が震える。
「投げてください」
そのの俊太の言葉を受け、ボールを投げる。だけどボールは5センチほど飛んだあと、急下降し地面を転々と転がっていく。
「何してんすか、先輩」
「オレには無理だ」
オレには無理なのだ。
「足が動かねえんだよ」
「良太さんってそんな弱い人間でした?」
「え?」
「良太ってそんなダメ人間でした?」
「だめじゃないけれど」
「なら頑張ってください。俺がついてるから」
そう言って俊太はオレの手をギュッと握りしめ、そして後ろから軽い力でハグをした。
「パワーを送ります。頑張ってください」
そんな。イマジナリーで急に投げられることがあるのか?
と思った。
だけど、
なんとなく行ける気がする。
オレはボールを投げた。
そのボールは遥空に飛んで行った。
そう、ゴールネットとは違う方向に。
「やっぱり駄目だ」
結局俊太が色々と協力してくれたが、中々ゴールには入らず。
結局諦める次第となった。
「あーもう。どうしてだよー」
俊太は伸びをしながら言った。
「すまんな」
「良太のせいじゃないっすよ。むしろ俺のせい」
「そんなことねえよ。オレのせいだ。オレの覚悟が足りなかった」
そうオレの覚悟が。オレの勇気だ。せっかくやる気になったというのに、オレの心は燃えていなかったようだ。
そもそも、何でバスケをし始めたんだっけか、オレは。
バスケは最初は楽しかったはずだ。
高身長だったから、という理由もあったとはいえ、ちやほやされたからというのもある。
だけど、オレが一番楽しかったのは。シュートを決める快感だ。
そして、それを見て喜んでくれる人だ。
ああ、そうじゃないか。俊太がいつも見てくれていた。
あの時は弟のように思っていた俊太が、オレのシュートを見て目を輝かせていた。
『俺背が小さいからさ、バスケ出来ねえから先輩が羨ましいよ』
そう言われたことを覚えている。
そう言わば、俊太が喜んでくれるからやっていたという側面もある。
「なあ、俊太」
「なんすか?」
「俊太は、身長が低くて嬉しいか?」
「それはどういう?」
「背が小さいから、女子たちにモテてただろ」
俊太の身長は160を切っている。157だ。
女子と同程度の身長の俊太は、中学の時に体質的に身長が伸びないことを医師に宣告された。
俊太がバスケを本気でやめたのはその時期だ。
現実は漫画とは違う。小さいけれど強いなんて言うのは通用しない。
大きくて強い人にはもちろん、大きくて弱い人にも蹂躙されてしまう。
20センチ以上ものハンデを背負う俊太は、そんな選手たちに勝つために、20センチ以上高く飛ぶ必要があるのだ。
「嬉しくないっすよ。女子たちと仲良くできるのは嬉しいですけど、この身長を恨んだことなんて数えられない程です」
やっぱりそうなんだな。
「俊太。もう一回オレと一緒にバスケ部に入らないか?」
「え?」
「オレは俊太と一緒だったら上手く行きそうな気がするんだ」
勿論、これは気がするだ。
本当に上手く行くのかどうかには、怪しい部分もある。
だけど、
「明日。公園のシュートが決まったら、オレと一緒にバスケ部に入ってくれないか?」
「はいっ!!」
俊太はそう言ってオレの手を取った。
「バスケしている良太が見れるなら、俺は何でもします」
そう言って俊太が元気に笑った。


