「あれ」
メリーゴーランドに並んでいる最中、オレは知っている顔を見た。
あれは、オレの元カノ、光だ。
正直会いたくない。
別れ方がそもそも気まずい物だった。自然消滅と言えば話はいいが、オレが一方的に縁を断ち切ったものだった。
彼女のラインをオレが既読無視したことから始まった。
彼女が今何をしているのかは気になってはいたが、元気そうではあった。
だけど、オレはあまり会いたくない。気まずいからだ。
「良太、何見てんの?」
俊太がオレの頭に手を乗せて行った。
「何だ」
「何見てんのかなって、だって今俺いるし」
「俊太、もしかして嫉妬とか」
「え、良太、今女見てたの? それともまさかの男」
「誘導尋問かよ」
「勿論。まあ、何かを見てたのは知ってたけど」
「……オレの元カノだ」
「えええ???」
俊太が分かりやすく驚き、そして話に食いついてくる。
「え、ほんと、先輩の元カノって、どの元カノ?」
「オレには一人しかいねえよ」
そもそも知らなかったのか。
「それを言うなら俊太は今何人と付き合っているんだ」
「周りから見て付き合ってるように見えるかも、という点では5人はいますねえ」
「だろ」
だからそこは問題じゃない。
「良太さん、今はモテてないからなあ」
「バスケをしてないオレに価値はなかったんだよ」
「まあ、そんな先輩を好きなんだけどね、俺は」
そう言った俊太の手の力が増した。少し強くて、「少し緩めてくれ」と行ったら緩めてくれる。
オレはそして俊太と同じように列に並び、ついに順番が来た。
そして二人でメリーゴーランドに乗る。オレの隣には俊太だ。
実の所馬型の乗り物ではなく、今回オレたちは馬車型の乗り物に乗ったのだ。
そしてその中で俊太と手をつなぐ。
だめだ、緊張する。
俊太の隣で、こんな緊張することはないはずなのに。
ああ、くそ。どうしたらいいんだ。
「照れてる良太もかわいい」
「何を言っているんだ」
今そんなことを言うと、オレにとどめを刺されてしまう。
「いい加減にしてくれ」
「照れてるじゃな――」
「だから嫌なんだ」
「これは虐め甲斐があるっすねー」
ニヤニヤとしている。
これは敬語じゃないが、っすね口調だ。俊太的には、これはいいのか。
まあ、許すとしよう。
そんな問答を繰り返していると、向こうに再び光の姿だ。
こちらを事を見ている。
オレの存在にも気が付かれたようだ。
今のオレは俊太と手をつないでいる。
きっと面倒なことになるだろう。
「秀太、すまん」
「どうした?」
「これから大変になるかもしれない」
「大丈夫っすよ。もう覚悟はできてる。先輩と、良太と付き合った時から」
ならよかった。オレは覚悟はまだできていないんだけどな。 「待てお前、何のことか知ってるのか」
「知らないけど、なんとなく予想は」
「つくのか」
「はい」
「ごめんな」
結局その後、予想していた修羅場は予定通りにやってきた。
そう、事件の始まりだ。
「ねえ」
早速光から話しかけられた。この時点で嫌な気配がビンビンとしている。
そして、これから起こるであろう悲惨な結末も。
「久しぶりだよね」
「ああ」
そして一瞬俊太には席を外してもらう事にした。
俊太は若干いやそうな顔を見せたが、すぐに了承してくれた。ありがたき事だ。
さて、オレはオレでやるべきことをやらなくてはな。
「そう言えばさ、久しぶりだよね」
「あ、ああ」
「あの時、一緒に映画見に行ったよね、あの映画のタイトルなんだったっけ」
「確か、修羅の道へとじゃなかったか」
「そうそれ、面白かったよね」
久しぶりだからぎこちない、なんてことも無く上手く二人で話せていく。
そこには気まずさなんてものは存在していない。
「ねえ、さっき男の子と手をつないでなかった?」
来たか、と思った。
ここでその話題が出るという事は、だ。つまりそう言う事だ。
「何か問題でも」
オレは両手を開いて、「はあ」とでも言いたげの感じで言った。
まさに時代遅れの考えを嘲笑するように。
「私とどうやって別れたか覚えているの?」
出た、これだ。
「急に恋愛関係がなかったことにされて寂しかったんだから」
「あー、それは悪いと思っている」
「本当に??」
ああ、そうだ。
本当に荒れは悪いと思っている。
「その節については本当にすまなかった」
オレは頭を静かに下げた。
「悪かったと思ってる」
「謝らないでよ」
謝らないでよ、か。
謝ってほしくないんだろうな、と思った。
勿論それはオレも分かっている。
謝られたくはないだろう。
ごめんはタダ。なんていう言葉がある。
ごめんという言葉はそう、便利なのだ。
この場合の謝罪はオレの気が済むためにやっている。その本質を見抜かれたのだろう。
じゃあ、どうすればいい、なんて訊かない。その言葉は他人よがりすぎる。
「オレは……」
「大丈夫、許せる方法があるから」
「っそれは?」
「私とよりを戻して」
ああ、そう言う話か。
光はまだオレの事が好きなのか。
だけど、オレは。
「すまない。それは無理だ」
それは出来ない。
女として見れない以上、付き合うことなど毛頭無理な話だ。
「なんでっ!!」
そう言って彼女はオレの手を握ってくる。
逃がす気なんてない様だ。
「私はまだあきらめきれないの。あなたの事を」
光はあの時代。唯一オレに対して中身で好きになってくれた人だ。
だけど、続かなかった。
「ごめん」
独りよがりな言葉がまた出た。
だけど、今のオレにはこれしか言う言葉がない。オレが折れるか彼女が折れるか。
その二択しかないはずだ。
だけどオレは折れたくはない。オレの為にも彼女のためにも。
またなあなあで付き合う事になる事。それ自体が良くないことと心得ているから。
「でも!!」
でもと言われても、無理なものは無理だ。
「ごめん」
オレはそう言ってその場を離れようとする。
だけど、彼女の手が決してそれを許そうとはしてくれない。
ああもう、ややこしい。どうしたらいいんだ。
「オレは」
「何やってんすか」
そこに一人の男がやってきた。
そう、俊太だ。
「良太を放してください」
「嫌よ」
そして俊太はオレの手を掴む。
そして、
「離さないと、許さないっすから」
「許さないってどういうふうに?」
「良太はオレの彼氏っすから」
いつの間にかそんな話になってたのか。
「全く」
お前というやつは。
その瞬間、彼女の怒声が響く。
「え、なに。男同士で付き合ってんの?」
まだ付き合ってはいない。ただ、求愛されているだけだ。
だけど、今これを言う訳にはいかない。
「そうかもな」
オレはそう言った。
そうだ、じゃなくてそうかもなにしたのは、『逃げようとするオレの本能』がそうさせたのだろう、
「嘘」
「嘘じゃない」
求愛されていること自体は本当の事なんだから。
「なによ」
そう言ってぷいっと首を振る。
「ひどい」
酷いだなんて言われても、オレには返す言葉もない。
「男色だったなんて」
男色だったなんてって言われてもな、
男色を否定することは、それはつまりゲイの人達を否定する事。それ即ち多様性を否定する事だ。
勿論の事、俊太は性的思考が完全に男という事はないと思う。だけど、その中でもオレの事が好きだという事だ。それを否定されても、という話ではある。
「それじゃあ、わたしがいくら求めても無理だったわけね」
「それは違う」
その言葉は否定したい。部分的にだが。
「オレは男色主義じゃねえ。こいつだからいいなと思ったんだ」
そう、オレは俊太の肩を掴む。
「それに、オレはお前とは会わないなと感じていた。だから強引に距離を開けてしまった。そのことについては悪いと思っている。だけど、お前が求めても無理なのは俺の性的思考などではなく、たた単にオレのお前と付き合う未来が存在しなかったからだ」
「そんな」
そう言って手で顔を覆う。
「行こうか」
オレは俊太にそう申し出た。
もうこれ以上ここにいても得られるものは何もない。
彼女には申し訳ないけれど、これ以上ここにいるわけにはいかない。
彼女を悲しくさせるだけだ。
「いいの」
「ああ。ほっといてやったほうがいいだろう」
「先輩、格好良かった」
次の乗り物。ゴーカートの列に並ぶ際に俊太が言った。
「そこまで俺のことを思っているとは、俺って罪な男だなって」
「まさか本気だと思っているのか?」
「え?」
「お前がオレの彼氏だなんていうから、オレはその設定に乗っかかっただけだ」
「え、じゃあまさか」
「ああ。そういうことだ」
「そんなのってないって」
そう言う俊太を見て、オレはくくっと笑った。
「でも、全部が嘘という訳じゃないから安心してくれ」
「え?」
「部分的には本当だ」
「それはどれくらいの部分なんですか」
「それは内緒だ」
オレがそう言うと、「えええーーー」なんて言った。不満たらたらな様子だが、そんな俊太の姿を見るのもなんとなく楽しい物だ。
そしてゴーカートの順番が来て、俊太の運転につきそう。
その速さは中々の物で、俊太は暴走族タイプなんだなと思った。
そして、昼食を食べに行く。
「先――良太、ここパフェがあるんだけど、一緒に食べませんか?」
パフェを一緒に食べるか。
「いいな」
オレがそう頷くと、「了解」と俊太が敬礼しながら言う。
そして俊太が店員を呼び、パフェを頼む。そのついでに食事も頼んだ。
様々な食事だ。
オレはパスタを頼み、俊太はオムライスを頼んだ。
俊太がオムライスを頼むとは、こんなことを言ってはあれだが、少し意外だった。
俊太がオムライスを頼むイメージが正直あまりなかったのだ。
そう、例えば、あいつはグラタンとか頼むイメージがあったのだ。さてさて、それは置いておいて、
オレたちは食事が届くまでの間、互いに会話をした。
そして食事が届く。
「おいしそうだ」
オレはそう言った。オレの目の前のカルボナーラスパゲッティ。チーズが沢山かかっていて、見るからにおいしい。
食指が進む。オレはパスタの麺をフォークで巻き取り、お口の中に入れる。
やはり、思った通りだ。
美味しい。チーズの味がしっかりと出ていて美味しい。
「美味しい?」
俊太がニコニコしながらこちらを見る。
「ああ、美味しいよ」
オレが言うと、俊太が口を開く。
「どうした?」
「あーーん。して」
「はあ」
あーーん。あーーん、な。別にすること自体は構わないが、家じゃなくてレストランでするのは正直、何というか勇気がいる行動だ。
オレにはあまりできそうにない。
「恥ずかしがってる」
俊太のその言葉に、少しだけイラっとする。
「なら、先にそっちがしてくれないか?」
「いいっすよ」
そして俊太はオムライスをスプーンですくう。そしてオレの口元に持って行った。
「ほら食べて、食べてください」
持ってこられた以上、食べるしかない。オレはそのオムライスをパクっと口の中に入れた。オムライスの柔らかい、鋪野やかな美味しさがくち中に広がっていく。
それが、とにかく美味しい。
「美味しいな」
どちらが美味しい、なんていう言葉で比べるようなものではない。
これは、どっちもおいしいが真理だ。
「もう一口食べたい」
「ええ?」
「食べたい」
「仕方ないなあ」
そして俊太はオレの口にもう一口入れる。
「美味しい」
オレはしっかりとそのオムライスの味をしっかりと味わっていく。
「良太、俺の口にも入れてください」
「ああ、そうだな」
確かに俺ばかり貰っていた。いけないいけないと、オレは俊太の口にも入れる。
俊太はそれを口にくわえる。
「これは美味しいっすね」
俊太は幸せそうだ。
そんな中オレには心配事があった。
今、周りからどう見られているのだろうか。
オレは周りを見る。だけど、周りはオレたちなんていない可能王にご飯を食べていた。
「あれ」
何でだろう。
男同士でこんなことをしているのに注目の的になっていない。
「これが真理なんだよ」
「真理?」
「はい、周りは俺たちの事なんてどうでもいいの」
「どうでもいい」
「うん。そんなのを見て馬鹿にするような人たちはたいていこんな場所にいないんですよ。それこそ、良太の元カノみたいに、先輩に恨みを持っていたら別っすが」
「なるほどな」
確かにそうだ。別に普通そう言うのは関係がない物だ。
「だから、お前と付き合えと?」
「そう言う話じゃないけど」
俊太は、照れながら、頬をポリポリとかく。
「そこはどうでもいいでしょう」
「どうでもよくはないだろ」
そんな俊太の表情が可愛くて。
オレも思わず笑ってしまった。
そしてご飯を食べた後、オレたちはまた様々な乗り物に乗って言って、そして最後に観覧車に乗る。
観覧車。それは、遊園との最後に乗る乗り物だ。
観覧車に乗りながら、俊太は外を眺めていた。
物思いにふけっている。
そんな感じだ。
「良太さん、俺と付き合ってください」
再び告白だ。
オレはこの告白にどう答えたらいいのか。答えは分かっている。分かっているが、今はまだ。
「ごめんなさい」
オレは頭を下げた。
「え?」
「今はそんなこと考えられない。もう少し時間をくれ」
「なら、まだ振られたわけじゃないってこと」
「ああ」
オレは勇気が無い。
全ての物事が差し閉めているのに。それはもちろん、俊太と付き合う事を。だけど、違うのだ。
「ごめん、もう少し時間が欲しい」
「俺はいつまでも待つっすよ。先輩の気が済むまで」
「ああ、すまない」
その後、無言の時間が流れていく。気まずいとかはない。ただ、オレは自分の思考をm、会止めていく。
オレはどうしたいのだろうか。
今のままでは確実に俊太に対して不義理な事になる。
答えは出さなくてはならないのだ。
そう、いつか。
そして、頂上に差し掛かったころ。
俊太が一言口にする。
「奇麗っすね」
「ああ、そうだな」
それだけしか会話が生まれなかった。だけど、それで十分だ。
オレたちはその会話を楽しんだ。
思う存分に。


