そして運命の日が来た。
そう、オレたちのお出かけの日だ。
俊太の言い方からするとデートだが、そんなことを言うのは正直恥ずかしい。
だからこそ、デートという言葉にしないことは許してほしい。
服は、普通の普段着でいいか。
ただのお出かけだ。そこまでおしゃれをする必要はない。
軽く髪の毛を整え、家を出た。
そして、最寄り駅へと向かっていく。
そしてそこには俊太がいた。
(なんだこれ)
オレはすぐにそう思った。
そこにいた俊太はまさにいつもとは大違いだった。
服もいつもの雑な物とは違い、上下合わせたおしゃれなものになっている。
そして、髪の毛もきちんとワックスをかけ、イケてる髪の毛にしている。
「驚いたでしょ」
俊太はそう言ってくくっと笑った。
「俺、彼氏に尽くすタイプなんです」
「尽くすっていうか、そんなにおしゃれだったっけ」
「失礼ですよ。俺だって先輩の為ならおしゃれくらいきちんとしますから」
そう言って俊太はトンと胸を叩いた。
「それよりも今日はいつもの生意気後輩モードは封印していくので、よろしく」
「あ、ああ」
そして俊太は手を差し出してくる。
「手、繋ぎましょ」
「おう」
そしてオレは俊太の差し出す手を取る。
しっかしなんだこれ、恥ずかしすぎる。
たぶん周りは何も見ていないのだろう。オレ達のことなど見てもいないだろう。
だけど、自意識過剰とでも言うのだろうか。
どうしても見られている気分になってしまう。
ああ、デートというのはこういう事なのか。
オレは俊太の顔を見る。
ニヤニヤとしていた。
「先輩、本番はここからですよ」
「既に恥ずかしいんだが」
「これくらいで根を上げたらこの先耐えられませんよ」
「そ、そうか」
オレは今日生きて帰ってこれるのか。
そんな気持ちを感じた。
そのまま電車に乗り、遊園地の駅へと向かう。電車で二駅だ。
電車内では俊太は特にオレに対してイチャイチャ行為などしてこなかった。
安心だ。
だけど、電車から降りたらまた手をつないだ。
オレもオレだ。素直に断っておけばよかったのに、あっさりと俊太の差し出す手を掴んだ。
そして歩いていく。
「先輩、遊園地って言えばこれですよね」
そして指さす先にあるのはジェットコースターだった。
ああ、なるほど。
「確かに定番だな」
「早速乗っちゃいましょ。俺たち今日はフリーパスなので」
フリーパス。いくら乗っても無料で済む便利な券だ。
3600円だった。
所謂お買い得というやつだ。
列はそこそこ並んでいた。
「俊太はジェットコースター得意なのか?」
「やだな知ってるくせに。得意ですよ」
「それはあくまで昔の事だろ。今も得意とは限らない」
「俺の事信じてくださいよー」
「はいはい」
「そう言う先輩こそどうなんですか?」
「得意だよ」
それこそ人並みには。
だけど、すぐに順番は来ることとなった。
そしてオレたちはジェットコールターに乗る。
隣には俊太だ。何となしに緊張している。
ジェットコースターがどれほど早いのか、とかではない。
オレの隣の俊太の存在だ。
あくまでも俊太がオレの事を好きなだけで、オレが俊太の事を好きなわけではない。そこに関しては保留だ。
隣の俊太は今何を思っているのだろうか。
そう思うと、ドキドキする。
理屈じゃないんだと思う。こういうのは、隣の俊太のドキドキが伝わってくるのだ。
だって隣の俊太を見ろ。あいつの顔は高鳴っている。
まさに今から天国でも行くかのように。
そして、ジェットコースターが一気に登っていく。
「いよいよですね」
そう、俊太が小さく言う。
「ああ、そうだな」
オレはうなづく。
その瞬間、ガタンと頂上に着いた音がして一気に駆け下りて行った。
そこから先は兎に角早かった。
そう、ジェットコースターの速さに翻弄されるままだった。
「やばいですよーーーーーーーーーー」
俊太の声が、風に流されていく。
「本当は、こう、やって、先輩に、抱き着きたい、所ですけどねえ」
良くここまでしゃべる余裕があるな、とふと思った。
オレは基本この風に、この速さに耐えるのが精いっぱいだ。
勿論楽しいんだが。
そしてその後しばらく、オレたちは振り回され。
着いた時には、空を眺めていた。
「まさかここまで凄いとは……」
オレは小さくそう呟いた。
今まで様々ンジェットコースターに乗ってきたが、これが今までで一番大変だった。
そう、オレは確信している。
「俺もですよ。こんなに大変だなんて」
そして、俊太は椅子に座るオレに近づいていき、
「思っていませんでしたから」
そしてオレの頬を優しく撫でる。
「何をしているんだ」
「先輩を好きにできるのは今しかないかなって」
「何を言っているんだ。冗談も大概にしろ」
「えーーー、それは面白くないですよ」
「まさかジェットコースターに乗せたの、これがしたいからだったりしないよな」
「だったらどうします?」
「どうもしねえよ」
そう言うと、俊太はやった!と言って俺の頬をぷにぷにと触ってくる。
「先輩の肌触ってみたかったんですよねえ」
「同性同士だったら言ったら触らせてもいいぞ」
なんなら、オレの元カノも触っていたし。
「んー、それだと面白くないじゃないですか」
「面白くない?」
オレは首をかしげる。すると、俊太は頷いた。
「動けない先輩を虐めるのも楽しそうじゃないっすか」
「そう言う物なのか」
「はい」
そして俊太は動けないオレのほっぺをむにゅっといじってくる。
「そう言えば気になることがあるんだが」
そんな俊太にオレはある話題を切り出す。
「お前はオレに対してずっと敬語なのは何か関係あるのか?」
「関係? あるっすよ」
「あるのか?」
「はい、先輩は尊敬する人間なんで」
なんだその理論は。
「そもそもなんで先輩呼びなんだ」
「それは、先輩は先輩だからです」
「何なんだそれは」
それはオレの気持ちが分かっていないと思う。
オレはそんな事が望みではない。
「オレは尊敬されたくねえんだよ」
「尊敬されたくない?」
俊太は首をかしげる。
「尊敬されるよりも、対等の方がいいんだ」
だからオレは。
「分かったな」
オレは俊太のおでこに手を当てる。
「なんなんすか」
そう言って俊太は笑った。
「でも、今でも思いますよ。先輩がいまだにバスケをやってたらどんなに良かっただろうかって」
「それはタラレバだ。おれはそもそも今もう無理なんだからな」
「先輩のせいで負けましたからね」
「うるせえ。だから尊敬すんなって言ってんだよ」
オレはため息をついた。
「もう体力戻ったから、行くか」
「そうですね」
そう言ってオレは立ち上がる。
そして
「一つだけ命令してもいいか」
敢えて、命令という言葉を使う。
「今日敬語禁止。そして名前を呼べ」
そう、俊太に向け、指をピシッと狙い撃ち、言った。
「え、それ本当に」
「本当だ」
嘘偽りはない
「なんで」
「そりゃ、当たり前の話だ。それは対等じゃねえだろ」
「対等じゃない?」
俊太は首をかしげる。
そんなに難しい話はしていないはずだ。
「今の俊太とオレの関係性は先輩と後輩だろ。だけどオレはそんなのは嫌なんだ」
「嫌、先輩はオレと対等な関係の方がいいんですか」
「そりゃそうな方がいいだろ。敬語って距離を感じるからな」
「そうだったんですか」
俊太はその場にうなだれる。
「分かりました。もう、敬語辞めます」
「そうか、なら」
オレは「俊太」と名前を呼ぶ。
「なに?」
「よし、それでいいんだ」
オレは俊太の頭を撫でる。すると俊太は嬉しそうに笑った。
そしてオレたちは次なる目的地へと向かった。
正直敬語とか外れたのはいいが、少し違和感が残る。
オレがお願いしたこととは言え、暫くは慣れそうにない。


