新婚時代、私と夫はよく一緒に旅行に行った。定番の京都、某ネズミーランド、沖縄の海、北海道の牧場で乳しぼりをしたり。
最初は、旅先でともに食事を取っているところを人に見られるのが恥ずかしかった。特に東京近辺だと。パパ活じゃないかって、噂されているような気がしたのだ。これは、私の被害妄想なのだけれど……。
しかし、ある出来事があったのちに、夫と一緒に出かけても全く気にならなくなる。
それは、私と夫が新潟の温泉地に行ったときのことである。周りは老夫婦と子連ればかりで、中年男性と若い女性の組み合わせである私たちは浮いていた。
夜ご飯のとき、女将さんがおひつを忘れて来て
『ああ。パパ活だと思われたから、舐められたんだろうな……』
と、私は一人落ち込んでいた。もちろん、気を悪くするので夫には言わなかったが。
食事を済まし、温泉に浸かる。今回温泉に行きたいと言い出したのは夫で、私は全く興味がなかった。だから、なんかお湯がべとべとしてるなぁくらいにしか感じなかったのだが。
隣に、見知らぬ老婆が入って来た。彼女は私と目が合うと、マシンガンのように話しかけてきた。聞き流していると、
「この温泉、私大好きなのよ。お肌すべすべになるし、女将のサービスもいいし」
「いや、女将のサービスは最悪ですよ」
思わず、口から不満が漏れ出てしまった。彼女は目を丸くして、
「あら、どうして?」
「だって、おひつを忘れてきたんですよ」
「誰だって、忘れものくらいすることあるわ」
そういうことじゃない。私は、下を向いて唇をかみしめた。
「だって、わざとですよ。私と夫が、すごく……年が離れてるから、パパ活だと思って舐められたんです!」
老婆は一瞬聞きなれない言葉に吃驚し、しかし私が怒っていることは分かったようで
「失礼だけど、夫とすごく年が離れてるって、何歳くらいの差なのかしら? ごめんなさいね。答えたくなかったら、答えなくてもいいわ」
「じゅ……十四歳差です」
改めて口に出すと、こんなおじさんと結婚してしまったのだと恥ずかしくなってしまって、赤面していくのを感じる。それもこれも、全部湯船が熱すぎるせいだ。
「あら、そうなの」
老婆はふわりと微笑んだ。
「私もね、主人とはねぇ、ちょうどあなたと同じ、十四歳差なのよ」
奇遇ねと、彼女は鈴のように笑う。おひつのことがあってからずっとイライラしていたのに、なんだか毒気が抜かれてしまった。
その後、温泉から出たときにちょうど老婆とその夫が一緒にいるのを目撃して、私は違う意味で恥ずかしくなった。
彼女たちは、とてもお似合いの老夫婦だったからである。二人とも梅干しみたいにシワシワになってしまえば、もう誰も年の差なんて分かりっこないのだ。
勝手に決めつけて、劣等感を抱いて苛立っていた私自身に、とても恥ずかしくなった。
最初は、旅先でともに食事を取っているところを人に見られるのが恥ずかしかった。特に東京近辺だと。パパ活じゃないかって、噂されているような気がしたのだ。これは、私の被害妄想なのだけれど……。
しかし、ある出来事があったのちに、夫と一緒に出かけても全く気にならなくなる。
それは、私と夫が新潟の温泉地に行ったときのことである。周りは老夫婦と子連ればかりで、中年男性と若い女性の組み合わせである私たちは浮いていた。
夜ご飯のとき、女将さんがおひつを忘れて来て
『ああ。パパ活だと思われたから、舐められたんだろうな……』
と、私は一人落ち込んでいた。もちろん、気を悪くするので夫には言わなかったが。
食事を済まし、温泉に浸かる。今回温泉に行きたいと言い出したのは夫で、私は全く興味がなかった。だから、なんかお湯がべとべとしてるなぁくらいにしか感じなかったのだが。
隣に、見知らぬ老婆が入って来た。彼女は私と目が合うと、マシンガンのように話しかけてきた。聞き流していると、
「この温泉、私大好きなのよ。お肌すべすべになるし、女将のサービスもいいし」
「いや、女将のサービスは最悪ですよ」
思わず、口から不満が漏れ出てしまった。彼女は目を丸くして、
「あら、どうして?」
「だって、おひつを忘れてきたんですよ」
「誰だって、忘れものくらいすることあるわ」
そういうことじゃない。私は、下を向いて唇をかみしめた。
「だって、わざとですよ。私と夫が、すごく……年が離れてるから、パパ活だと思って舐められたんです!」
老婆は一瞬聞きなれない言葉に吃驚し、しかし私が怒っていることは分かったようで
「失礼だけど、夫とすごく年が離れてるって、何歳くらいの差なのかしら? ごめんなさいね。答えたくなかったら、答えなくてもいいわ」
「じゅ……十四歳差です」
改めて口に出すと、こんなおじさんと結婚してしまったのだと恥ずかしくなってしまって、赤面していくのを感じる。それもこれも、全部湯船が熱すぎるせいだ。
「あら、そうなの」
老婆はふわりと微笑んだ。
「私もね、主人とはねぇ、ちょうどあなたと同じ、十四歳差なのよ」
奇遇ねと、彼女は鈴のように笑う。おひつのことがあってからずっとイライラしていたのに、なんだか毒気が抜かれてしまった。
その後、温泉から出たときにちょうど老婆とその夫が一緒にいるのを目撃して、私は違う意味で恥ずかしくなった。
彼女たちは、とてもお似合いの老夫婦だったからである。二人とも梅干しみたいにシワシワになってしまえば、もう誰も年の差なんて分かりっこないのだ。
勝手に決めつけて、劣等感を抱いて苛立っていた私自身に、とても恥ずかしくなった。

