私の夫は崖の下

 車の急ブレーキと、車体が何かに当たる音で目が覚めた。足の指先は少し痛いが、私はまだ死んでいない。

 この山に来た誰かが、イノシシか何かをはねたのだろう。そう理解すると同時に

「助けてください!! 遭難してます!!! 助けてください!!!!」

 喉の奥から全部絞り出すように叫んでいた。彼、もしくは彼女はここまで登って来てくれるだろうか?


「助けてください!! 助け゛てください!!! 助け゛て゛くださ゛い゛!!!!」

 喉が擦れても、口の中に血の味が広がっても、私はただひたすらに叫びつづけた。





 そして、どのくらい時間がたったのか分からないくらい咆哮して声が枯れて何も出なくなったとき、目の前に男の姿が現れた。