「え……? その女誰?」
 買い物から帰った私が見たのは、夫と知らない女。足元にエコバッグがぽすりと音を立てて落ちた。


 女が振り返った。服も着ずに、こちらにトコトコと歩いて来て
「奥さん、ごめんなさ~い。帰りますね」
「ちょっと、アンタどういうこと!?」

 私が彼女の肩を掴むと、彼女は口元を吊り上げた。
「あの、愛人って勘違いしてます? 私、ただのデリヘルです」
「は?」






 女が出て行ったあと、しばらく沈黙が流れた。
「ねえ、さっきの、どういうこと?」
「怒るなよ。男なら性欲ぐらいあって当然だろ」

 夫はやっと口を開いたと思ったら、逆ギレした。



「じゃあ、何のために私と再婚したの!? 私のこと、少しは愛してくれてるんじゃなかったの!?」

 夫のため息に、私はビクリと体を震わせる。

「あのさ、お前もうアラフォーだろ。抱けねぇよ。お前もう、ババアなんだよ」
「そんな……」
 そういう貴方だって、私より十四も年上のおじいちゃんじゃない。

「だからさぁ、また嫁に貰ってやっただけ感謝しろよ。お前は黙って、飯と掃除と俺の介護だけやってりゃあいいんだよ!」
「そんな言い方ないじゃない!!」



 夫の両肩を掴み、縋り付くように顔を近づけたその瞬間、私の鼻孔をかすめたのは、知らない香水の香り。